サイバーエージェント、韓国支社代表に聞くゲーム市場の特性とグローバル戦略(後編) [インタビュー]
韓国のゲーム業界では、海外進出の動きが盛んだという。サイバーエージェントが立ち上げた現地法人では、これらのゲーム企業の日本進出も積極的に支援していく方向だ。
前編に引き続き、後編ではCyberAgent, Inc. Korea 支社長 金 廷均(ジョンキュン・キム) 氏に、世界のゲーム企業に関する、グローバル展開の動向などについて聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
グローバル進出1~2ヵ国を見越してゲームを開発
―韓国のゲーム企業はグローバル進出に熱心だという印象があります。
そうですね、大手ゲーム企業は、韓国ゲーム市場は飽和状態だと考えていると思います。去年ごろから本格的に、進出の動きを見せていると思います。
例えば2014年に体質変化をし、グローバル事業を強化する方向に舵を切ったゲーム会社さんもいらっしゃいます。
1つの例として、ネットマーブル社(「セブンナイツ」を日本でも展開)の2016年決算発表では、
2014年売上の17%が海外、2015年には28%に達したと発表がありました。2014年からグローバル事業を強化し、4Qだけ見ると約40%が海外売上になっているほど、順調にグローバル展開を進めています。
他の企業も同様の動きをみせており、2015年、2016年は韓国企業の海外進出が最も活発な時期になるのではないかと思われます。
―特に進出している国や地域に特徴はあるのでしょうか。
私の経験では2パターンあると思っております。完全にグローバルに挑戦するところと、ユーザーの傾向が似ている台湾、日本、中国、香港などです。日本はその中ではハードルが高い印象です。日本で成功するのであれば、日本ではどういうゲーム会社たちがどういうゲームを作り売れてきたのか、そういった特徴を研究すべきだと思います。
ゲーム会社は、自分たちの開発したゲームがどんなユーザーに支持されるか知り尽くしていますので、適したユーザーがたくさんいそうな地域に進出しようという動きもあります。韓国でヒットしたら次は海外、というのがどのゲーム会社さんも前提となっています。あらかじめ1~2ヵ国に進出することはイメージして、開発していると思います。
国家からのサポートもあります。KOCCA(韓国コンテンツ振興院)という国家機関が、海外進出のための市場調査を出してくれています。これを見ると、日本やアメリカなど、狙っていく市場の規模感がわかってくるのです。
―KOCCAが支援してくれるということなのでしょうか。
そうですね。ベンチャー設立時の投資や海外進出支援の会議の主催、海外からの来場者の旅費や宿泊費を補助してくれるような仕組みもあり、大変助かっております。
韓国ゲーム企業の日本進出パターンは2種類
―韓国ゲーム企業が日本に進出する際はどのような手法をとるのでしょうか。
主に2つのパターンがあげられます。
1つは韓国方式で、事前登録前の段階から大型プロモを実施し、一気に盛り上げていくパターン。このパターンが受けるのは、まずプロダクトへの自信(コンテンツボリューム、クオリティ、面白さ)が無いと実現出来ないものです。
これは韓国の会社のみならず、海外で成功したプロダクトが日本に進出する際の方程式にもなってきているのが現状です。アプリストアで成功している殆どの海外ゲームがこの方式で日本に進出しています。
もう1つは、安定的に売上を上げ、その売上の一定部分をマーケティングに再割当てして育てていくパターン。この方式で徐々に成長している海外ゲームも多数存在します。
ここで注目すべきところは後者のパターンです。
徐々に育てていくプロダクトの特徴は、ユーザターゲットが明確なものが殆どで一番重要なUSP(unique sales point)をしっかり分析し、それに沿った内容でマーケティングを行っているのです。日本のマーケットで生き残るためには、自社のゲームがどういった特徴を持ち、どういったユーザーが面白さを感じるのか、ということを明確に決めるのが第一歩といえます。
そのために日本のユーザー及び、文化を明確に理解するのはもちろん、日本の文化に合わせたゲーム分析が最も重要になると思います。
―今グローバル関連で多いのはどのようなお仕事でしょうか。
韓国企業の日本進出もしくは他国への進出のサポートが多いです。
―日本から海外はそんなに多くないのでしょうか。
そうですね。先の5月に韓国支社設立のリリースでも発表している通り、今後については日本のクライアント様が韓国に進出する際のサポートにも注力していきたいと考えております。
ハードルはあっても進出は加速する
―韓国に日本企業が進出する際はハードルがあるとおっしゃっていましたが、今後はどのようなフェーズが考えられますか。
今後も増えていくと思います。日本で成功しているのは韓国系、中国系、米系のゲームが中心ですので、各社そこを目指してグローバル展開を志向しています。日本市場はとても魅力的ですので。
韓国ではスマートフォンが中心になってから3~4年たっていますので、ライフサイクルを何回か回しているゲームも多いです。日本でも各社それを狙っていると思います。
市場と共に、ユーザーの経験値も成長していきます。日本も2~3年前と比較するとゲームのランキングはかなり変わってきていると思います。いつでもどこでもプレイできたものから、WiFi環境がないとダウンロードできないRPGやアクションゲームに移ってきています。
日本企業もここを目指してゲームを作っている会社さんが多いので、ユーザーと成長していく、という観点からは海外のゲーム会社さんも狙ってくるのではないかと思います。ここを恐れるよりも、多様なユーザープールを活かして、それぞれのユーザーの支持を増やし、市場全体を盛り上げていくのがよいと思います。
SNSを見ると、以前はスマホでは難しかった複雑なゲームを楽しんでいる方も多いようですので。
―日本企業が海外に進出する際の成功パターンがあれば、教えて下さい。
日本企業が海外に進出する際には、まず、日本での考え方を捨てることです。日本のユーザーはいい意味で鋭いです。定量的な利点、定量的な楽しみさをまず求めます。
1つの例として、日本で一番受け入れられている訴求は「インセンティブ」。テレビを含め、各種広告でよく見られるのが、「今すぐ、今だけ、XXXがもらえる、手に入る」など、
今を逃すと二度と来ないかもしれない、●円分お得、という計算式が入っているものになります。
韓国を始め多くの国の場合、もちろん定量的なインセンティブも良いですが、どちらかというと、「定性的、感性的な訴求」が良い傾向があります。
例えば、「誰も止められない、誰も勝てない、今まで見たこと無い」等の挑発的なメッセージを含めるキャッチコピーも多いです。これが言葉のローカライズではなく、文化のローカライズといえると思っております。
私もエンジニア出身なので、ゲーム全体を変えることは難しいところは存分理解しています。重複になりますが、全体を変えるという話ではなく、進出を目指している国の文化と、
ゲームを合わせた表現の文化のローカライズ、現地のユーザーの特性をいかに合わせていくのかを最重要ポイントとして考えて頂ければと思います。
―CA韓国支社は具体的にどのような支援をされているのでしょうか。
主に以下3点です。
①市場状況と合わせた、ゲームUSP分析
②コンテンツを理解した、現地バイラルマーケティング
③ゲームUSP x ターゲットユーザを掛けあわせた、動画広告の制作及び配信
以下で具体的にご説明します。
①市場状況と合わせた、ゲームUSP分析 について
まず、コンテンツの理解をベースとしています。そもそも「コンテンツを知らいない者がクライアントの商品をアピールできるわけがない」と判断し、基本中の基本として考えています。
ゲームクライアントの場合には、組織内に「ゲーム分析チーム」を設置し、市場に出ているゲームはどんなゲームなのか、どういった文法(業界用語です)のゲームなのか?ということを常に分析しています。USPをしっかり分析し、内部要素を固めます。
②コンテンツを理解した、現地バイラルマーケティング について
①の次に、どの層のユーザーが楽しくゲームを遊べるか、そのユーザー層はこのゲームのどのポイントに面白さを感じるのか、ということを考えます。単純に、Install・購入させるのが本来のマーケティングではなく、「楽しいポイントをユーザーに届け、その楽しみを感じてもらう」それによって、ゲームがどんどん好きになる――このポイントがマーケティングの根本となっています。
各媒体への露出といった外部要素の前に、まず内部要素を徹底的に研究すること。また、外部環境は常に変化していますし、その変化にいかに柔軟且つ素早く対応できるのかというのもポイントです。
③ゲームUSP x ターゲットユーザを掛けあわせた、動画広告の制作及び配信について
1つ例をあげると、動画フォーマットです。1年前ではまだ今ほどの盛り上がりはなく、FacebookやTwitter等SNSでユーザーが動画をUpするのは今ほど多くありませんでした。
しかし今のユーザーの興味関心は変わっています。
最近ブームの「SNOW」(動画編集アプリ)のような動画を一般の方々でも気軽に触ったり、どんどん制作してSNSなどにアップしたりするアプリも出ています。
1年前と今の環境は明らかに変わっています。
弊社はこの環境に向け準備を進めており、高いクオリティの動画広告を大量に制作する組織なども整備しました。それに加え、USPを分析し、対象ユーザーに合わせた動画を作ることで本来の楽しみをいかに様々なユーザーへ伝えることができるかを日々研究していく所存です。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。