サイバーエージェント、韓国支社代表に聞くゲーム市場の特性とグローバル戦略(前編) [インタビュー]
広告事業でグローバル展開を加速しているサイバーエージェント。進出先の一カ国である韓国では、現地モバイルゲーム会社の日本をはじめとしたグローバル展開を支援する取り組みを進めている。
韓国モバイルゲーム会社や市場や精通しているサイバーエージェント インターネット広告事業本部 グローバル戦略局、兼 CyberAgent, Inc. Korea 支社長 金 廷均(ジョンキュン・キム)氏に、韓国モバイルゲーム会社のプロモーション手法についてお話しをうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
―まず自己紹介からお願いいたします。
韓国生まれ韓国育ちです。まずハードウェア会社HPに入社、中国支店の立ち上げに携わりました。2005年に、Hewlett-Packard(Dalian)へ入社。KoreaTeam立ち上げの後、2009年に、 Konami Digital Entertainment Co.,Ltd.へ入社。エンジニアとしてコンソールゲームやMobileゲームの制作に携わり、モバイルゲームのユーザー行動分析に対する豊富な知見を得ることができました。
2012年に、グリーへ入社し、マネジメントや組織作りを経験した後、事業開発に職種転換し、韓国と中国ゲームのパブリッシングを手掛けました。サイバーエージェントにジョインしたのは2015年9月です。大型規模の韓国タイトルを中心に担当しており、今年4月にCyberAgent, Inc. Korea設立とともに支社長に就任しました。
韓国は「事前盛り上げ方式」
―日本と韓国のそもそもの文化、ゲーム文化の違いについて教えてください。それによって、もちろんプロモーション手法も異なってくるのでしょうか。
多くの日本のマーケターは、韓国のゲーム歴史は1990年台後半からインターネットゲームいわゆる韓国系RPGが流行ってきていたと言われます。ですが実はその前から、韓国にもPCゲームやファミコン時代があり、その頃からゲーム文化は始まっているのです。ちょうど90年代前半、自分が小学生の頃でした。
子供がどうやってゲーム購入に至るのか。ここに日韓で文化の違いがあります。
日本では、まず、ゲーム雑誌で情報を得ます。雑誌の中のゲームのパイオニアの評価を見てから、購入するゲームを決めます。ゲーム会社やゲーム雑誌会社から出ている攻略特集やレビューももちろん参考にし、「買おう」と決意して店舗に足を運びます。リリース前であれば、購入予約してリリース後に手に入れる流れだったと思います。
これが、現在の日本のスマホゲームにも適用されています。事前予約やリリース後のストア評価の★の数、レビューの内容に敏感で、ものすごく重要な指標になっている印象です。
一方、1990年代の韓国では、ゲーム会社がほとんどありませんでした。そのため日本のゲームを直流入(個人流入)で購入するのが一般的でした。要は日本で誰かがゲームを買ってきて店に売る。それを店が個人に売るというのがほとんどのフローでした。
韓国の人口の上位1~2%のコアユーザーが、当時セウンサンガ、ヨンサンといった日本のアキバのような街で店員さんに勧められ、実際にプレイし、その場で購入していました。
購入したユーザーは学校や会社で友達にすすめ、自慢し、仲間を育てていくのが楽しかったのです。もちろんゲーム雑誌も有りましたが、それはかなりコア向けの雑誌でした。私が中学生くらいの頃、インターネットが普及したあたりから、ゲーム雑誌は殆どなくなりました。ここでかなり日本との差があると思います。
韓国では現在、予約購入が非常に活発です。例えばあるゲームの予約について、日本が20万だったとすると、優に100万人を越える規模です。
―具体的なプロモーション手法についても教えていただけますか。
タイトルにもよりますが、韓国はリリース前から大型プロモーション、TVCMの予告、事前告知などで、期待を持たせ話題作りに注力します。いろいろなプロセスが一緒に走り、相乗効果を上げていくのですが、必ず発生するプロセスは、「ユーザーが自慢する場面を作ってあげる」ことです。
その1つ方法としてはCBT(Closed βテスト)を行い、リリース前に先行プレイしたユーザーが、他のユーザーに自慢をします。おもしろい、おもしろくない、という評価がバイラルで拡散します。
もちろんバグチェックやゲーム構成のチェックという意味合いもありますが、マーケティング手段としても非常に重要です。
最近は手段を広げ、Naverのようなコミュニティでいろんな書き込みをさせる場所を提供して、「リリース前から盛り上げ施策」を行います。そのコミュニティは純粋なファン層を囲むとても重要な、「ファンと運営をつないでくれる意思疎通ツール」でもあります。
「コミュニティ作り」も重要
―そうしたケースでは、ゲーム会社からの費用は発生するのでしょうか。
基本は発生しません。ただGM(ゲームマスター。プロダクトに必ずついているゲーム会社の運用担当者)はそのファンのコミュニティを最初から囲っており、常にそこにバイラルさせる機会をうかがっているイメージです。例えばコミュニティで、レベルデザインの分析やアイテムのドロップ確率の共有など、GMとして「自慢」をすることで、ユーザーと意思疎通をしています。
韓国では、バイラル含めて「事前の盛り上げ」と「コミュニティ運営」が必須です。それがあって初めてCMやネット広告だと考えております。メディアにもグローバルなものとローカルなものが混在していますので、どこにいくら出すか、よりも、どういう文化の上に成り立つマーケティングなのかを考えることが大切です。
もう一つ日韓の文化の違いがあるとしたら、ガチャだと思います。
私は日本のゲーム、IT業界に8年ほど居ますが、一番注目していたのはガチャシステムでした。
日本のガチャシステムの根本はやはり、現物のガチャガチャといえると思います。現物のマシーンをよく見てみると、ゲーム内のガチャ文法が見えてきます。まず、お金投入口の上部に、出てくる商品が必ず描かれています。主人公などの重役であれば最も大きく表示され、サブキャラはそれより小さく、もっと比重が低いものはその他、といった扱いで記載されています。
また、透明なガラスの中に、ある程度何が入っているのかが見え隠れしています。狙っているおもちゃがそろそろ出ると思いきや、出るまではもう少し回さないと行けないのが基本構造です。
それがそのままWEBソーシャルゲーム、スマホに移行してきて、今のガチャシステムが出来ているのではないかと感じております。
韓国で流行ったガチャもあり、そのガチャはカードガチャです。カードを持つ友だちのカードと戦い、勝利し、相手のカードを奪うような遊びが流行りました。
それが今のPVP、一部ガチャでキャラを得て、そのキャラをベースに繰り返しプレイをして成果物を得る動きにつながっています。また、その成果物で強くキャラを育てたり、PVPしたりする文化が醸成されたと思っております。
上記のように、似ているようで中身が異なる日韓の文化の差を、まず理解することが大切だと考えております。
(後編に続く)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。