ゲームエンジン世界最大シェアUnity、急拡大する動画リワード広告事業と、Unityとしてのエコシステム [インタビュー]
ゲームエンジンの世界最大シェアを持つUnityが、日本での動画リワード広告ビジネスにおいても急成長を遂げている。同社のビジネス展開の動向や、広告主やモバイルアプリゲーム開発者にとっての動画リワード広告の魅力について、Unity Ads 日本統括ディレクター 金田一 確氏に聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
ゲームエンジンのUnityがなぜ広告事業も展開しているのか
―自己紹介をお願いいたします。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンにおいて、16年1月からUnity Ads (ユニティアズ)という動画リワード広告のサービス、またUnity Analyticsという解析機能も担当しております。
―まずはUnityについて教えていただけますか。
私はUnity Adsという広告事業を担当していますが、そもそもUnityはゲームの開発環境・ゲームエンジンと呼ばれるものです。すごく平たく言うと、ゲームを簡単に作るための支援をしてくれるツールです。ゲーム開発の複雑化や、ゲームをプレイするためのプラットフォームも家庭用ゲーム機・アプリ・直近ではVRと増加していくなかで、いかに効率的に充実したものを開発できるかということでゲームエンジンの利用が一般化しているのが昨今の状況です。そのなかで、Unityは世界で最も使われているゲームエンジンで、45%の市場占有率です。
―広告事業の背景についてお聞かせいただけますか。
もともとUnityの理念は「ゲーム開発の民主化」です。誰もがゲームを簡単に作れる世界にする、その理念のもと事業を進めてきています。その理念の発展形として、開発者がゲームをリリースした後にそのゲームで収益を得られるのかどうか、我々としては開発だけでなくリリース後の支援もすべきという考えのもと「開発支援から成功支援へ」というのが現在の事業指針の一つになっています。その指針のもと、広告事業は開発者にとって収益化のための一手段という位置づけで存在しています。
動画リワード広告は、広告主にとって良質なユーザ獲得が可能なノンインセンティブCPI型の広告
―なぜ動画リワード広告をされているか、理由をお聞かせ下さい。
ユーザ、広告主、パブリッシャーそれぞれにとって最も望ましい広告形態・フォーマットは何なのかと突き詰めた時、私たちはそれが動画リワード広告であると考えてたためです。
そもそも動画リワード広告とは何かというと、ユーザ視点では「広告動画を視聴することでコンテニューの機会やゲーム内のコイン等が得られるもの」です。ゲームオーバーになった時、通常はゲーム内のダイヤが必要なものの、同時に選択肢としてここで動画広告を見ればコンテニューができます、といった形で広告表示機会が作られます。
―広告主はゲームのみなのでしょうか。
掲載面となるパブリッシャーのほとんどがゲームであるため、その親和性から広告主の多くがゲーム関連であるというのが現状です。ただし限定している訳ではありませんので、他にもSNSやニュースアプリ等の各種アプリサービスや、ゲームユーザが見込みターゲット層と重なるeコマース等の広告主にも出稿いただいています。
広告主視点でいえば、Unity Adsは「ノンインセンティブのCPIアドネットワーク」です。いま申し上げたコンテニューの例でも、広告動画の視聴後にインストールするかどうかはユーザ次第です。動画視聴に対してユーザはコンテニューの機会を得ているものの、インストールしたとしても何ももらえません。つまり、動画を見て内容を理解し本当に興味を持ったユーザしかインストールしないわけです。そのためLTVも高めです。広告主としては、動画が視聴される分には無料、インストールされて初めて広告費を支払うというCPI型でリスクなく出稿できる動画広告メニューです。動画リワード広告といった際、リワードという言葉からインストールインセンティブの広告メニューやブースト手法と混同されることも多いのですが、全く異なります。
パブリッシャーにとってはユーザの継続率に寄与する仕掛け
―パブリッシャーにとって動画リワード広告を採用する理由は何でしょうか。
パブリッシャーであるゲーム開発者から見ると、バナーのようにゲーム画面を占有しないことや、ユーザが視聴するかどうかの選択をできるためゲームプレイを邪魔しないこと、またどういう見せ方、タイミングで動画広告の表示機会を提示するかをいかようにも工夫が可能なのでゲームの世界観を崩さない組み込み方ができることも魅力です。コンテニューの例にしても、単純に「動画広告を見てコンテニュー」というメッセージではなく、ゲームオーバー時にゲームのキャラクターが登場してユーザを救済するといった流れとともに広告視聴の選択機会を提示することで、ゲームの世界観を壊さない自然な流れで実装が可能です。
―どういったパブリッシャーが利用されているのでしょうか。
多くは広告収益モデルのパブリッシャーがバナー等も利用しつつ、一つの広告フォーマットとして同時に実装しているというパターンです。一方で、これまで課金収益のみでやってきたパブリッシャーが、ゲームでも実装するケースが増えてきているというのが一つの新たなトレンドです。海外の場合だと、収益が純増するならというシンプルな理由のみで課金+収益のハイブリッド型としているケースが多々ありますが、日本の場合は海外に比べユーザあたりの課金額が大きい傾向もあり、広告は必要ない、広告はゲームデザインやユーザビリティを損ねるのではないかという懸念で導入されるケースがほとんどなかったところから、ゲームの収益モデルが新たな時代に突入してきているといえます。
―それは動画リワード広告が課金同様の収益源として期待できるということでしょうか。
動画リワード広告は他の広告フォーマットに比べ、広告表示機会あたりで換算した際の収益性が高く、収益貢献度が高いケースも多々ありますが、課金収益が多額のゲームにおいては収益額としての貢献は相対的には限定的といえます。
―では、なぜそれでも実装ケースが増えているのでしょうか。
特に大手コンソール系企業の皆さまとお話ししている際に出てくるのが、ユーザの継続指標に対しての貢献を評価しているという声です。つまり、動画リワードの実装が、ユーザの継続率の維持・向上に寄与しているという話です。弊社の調査でも動画リワードの実装により、39%のデベロッパーが継続率の上昇を経験しているという結果が出ています。
なぜ継続率が上がるのかというと、先に申し上げたコンテニュー機会としての実装であったり、レースゲームでスタート前にパワーアップアイテムを得る機会としてなど、色々なユーザの救済策、行き詰まりポイントでの実装として利用されるケースが多いためです。つまり、課金しないユーザ含め、より多くのユーザにさらに上位ステージを楽しんでもらうための仕掛け、お助け機能として活用されるケースが増えてきているという位置づけです。
様々な広告手法が登場するなかで、”広告主にとって”ユーザエンゲージメントに寄与することも広告に求められる役割になりつつありますが、こと動画リワード広告に関しては、”広告を掲載する側にとって”ユーザエンゲージメントに寄与する要素も持つというのは非常に新鮮であり、広告の新たな時代を切り拓いているおもしろい広告手法ですよね。
―デベロッパ―側の懸念として「課金の収益機会を奪うのでは」という心配はないのでしょうか。
確かにそれは導入前段階でよくご質問頂く項目の一つです。しかし弊社の調査では「影響なし」が70%、「課金額増加」が16%。トータル86%が±ゼロ以上です。共存、併用できるものといえます。減少しない理由はシンプルで、課金でしか得られないようなものを広告視聴の対価として同規模で提供することはないし、課金で得られるものとは大きく差があるようにうまくバランスをとった報酬設定をされるケースが通常であるためです。そのため、課金しているユーザは引き続き課金する状態を維持しながらも、課金しないユーザもさらにゲームを楽しめるような機会が新たに作られるという感じです。一般に課金するユーザは全体の3%くらいなので、残り97%のユーザも継続して上位ステージを楽しめる機会が増えれば、それが後々課金ユーザに変化するケースもある、というのが調査での16%の増加ケースといえます。
デベロッパーの成功を支援するUnityとしてのエコシステム
―日本でのビジネスの状況と今後の展望についてお聞かせください。
日本でも動画リワード広告市場は急激に拡大しており、Unity Adsの利用も続々と増加しています。また今後の展望といった際、我々としてはやはり軸足はデベロッパーの成功支援であり、その成功支援のための引き出しをいかに増やしていけるのかというのが我々の見据える方向性です。Unity Adsの事業だけを考えればアドネットワーク事業者ですが、我々の事業の核はゲームエンジンとしてのUnityです。その点が同様の動画リワード広告サービスを提供する事業者と根本的に異なる点であり、我々としてブレてはならない基本指針です。
―手段としては広告に寄っている訳ではないということですね。
はい。例えば、アプリ内課金のシステムを簡単に実装するための仕組みやアナリティクス機能の充実など、デベロッパ―の成功のための支援を推し進めています。この大きなくくり中での一手段として広告サービスも動いている、といった状況です。
我々としては広告サービスを担当していても広告だけの視点であってはならない、このゲームがよりユーザに愛されて、デベロッパーが収益を得られるには?という視点で物事を判断していこうというのが基本スタンスです。必ずしも広告がその時のソリューションになるとは限りません。
―アナリティクスについてはいかがでしょうか。
基本は一般的な導線解析ツールが備えている統計項目が揃っていて、特徴的な機能の一つとしてはヒートマップですね。Webサービス向けの解析ツールでのヒートマップをイメージしてもらい、それのゲーム版とお考え頂くと分かりやすいかもしれません。例えばゲームのマップ内でユーザが主にどういう経路をたどっているのか、というのが視覚的にわかるので、本来通れないところを通ろうとしているユーザがけっこういて背景が紛らわしいとか、ここでつまづいているユーザが多い、それならちょっと進みやすいように調整してみようといった気付きが得られるのですごくおもしろいツールです。
また、解析ツールとしての機能の充実はもちろんですが、加えて我々としてはいかにゲームデベロッパーにとって有用なマクロ的な情報提供をできるかも我々の責務だと考えています。なぜなら我々はゲームエンジンとして世界最大のシェアであるため、ことゲームに関しては最もデータを持ちうる企業でもあるわけです。先日も「数字で見るゲーム市場」という調査も公表しております。2016年第一四半期において、世界中で22万以上のUnityで開発されたゲームタイトルが、17億台のデバイスに対して42億回インストール、というのが我々がゲームエンジンとして関わっており統計対象としているデータです。当調査では国別でのiOS/Androidの割合や使われている端末の種類などをまとめていますが、こういったデータ提供も通じ、結果的にデベロッパーが何らかの判断する際の役に立てる、そういった市場貢献も我々の役割だと考えております。
―事業としてのエコシステムが構築されていますね。
そうですね。デベロッパーの開発支援が土台にあり、続いてマネタイズの支援をすることで、次の開発資金に繋がるというサイクルもそうですし、より多くのゲームユーザに継続して遊んでもらうための仕掛けとしての動画リワード広告や現状分析に活用できる解析機能という組み合わせもそうです。こと、動画リワード広告に関してはまだまだ新たな使い方が生まれてくる様々な可能性を秘めているステージと感じていますので、我々としては広告以外の機能活用も含め、Unityだからこそできる様々な支援をしていきたいと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。