クリエイティブにもっとひらめきを与えることが出来るはず:Xaxis社EMEA地域CEO Caspar Schlickum氏へのインタビュー
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
2016年のカンヌにおけるクリエイティビティ・フェスティバルを前にして、ExchangeWireはXaxis社EMEA地域のCEOであるCaspar Schlickum氏にクリエイティビティの重要性や、データやテクノロジーとの融合について話を聞くことが出来た。
―ExchangeWire:カンヌライオンズフェスティバルが目前に迫っていますが、今年はどういった事を予想していますか?
アドテクやデータ、テクノロジーといったものはここ数年ずっと主力なアジェンダであり続けています。昨年、イノベーション部門がより主要な部門として脚光を浴び始めました。しかしながら、カンヌは究極的にはクリエイティビティに関するイベントであることを忘れてはいけないと思います。今年は、私たちはアワードの入賞といった形だけでなく、コンフェレンス全体において、データ、テクノロジー、クリエイティビティの融合を目の当たりにすると思います。
―どうして、データ、テクノロジー、クリエイティビティの融合がそれほどに重要なのでしょうか?
現在、私たちはアドテクに関わるデータやテクノロジーを、どちらかというと近視眼的に利用しています。私が言いたいのは、ターゲットメディアに非常に集中する形で利用しているということです。私のクライアントが、最近私に伝えてくれたのですが、プログラマティックに関する多くの議論や非常に大きなアドテクへの投資を通じて、データやテクノロジーによって広告がより広告主にとって効果的なものになり、消費者にとってより適切なものにと明確に変化してきました。一方で、このような変化によって、企業はより優れたマーケターに変われたかとは言い切れず、この点が非常に重要です。もちろん、マーケターは消費者に対して、より自社のブランドを前向きに捉え、喜んでくれるような活動を実施したいと考えています。しかしながら消費者の感じる面倒を取り除いてあげるだけでは不十分です。消費者へのリーチを考える上で、アドブロックについては無視することが出来ません。アドブロックは、私たちが消費者を歓喜させたり、驚かせたり、エンゲージメントを得たりすることが出来なかった裏返しと捉えることができます。
もちろん、テクノロジーへの全ての投資を通じて、私たちがビジネスにおいてクリエイティブの面でどのようなことができるかを考える時期に来ています。マーケターがより優れたマーケティングを行い、消費者の注目を引くようなしかけを行う必要があります。
―その点は理解できます。それでは、どうしてビジネスにおいてクリエイティブを活かすのにこんなに時間がかかるのでしょうか?
クリエイティブにおけるデータの活用は古くから行われています。実際、クリエイティブにおける第一人者の多くが、リサーチを利用し多くのデータを参照に人々驚きを与えるようなクリエイティブを提供しています。しかしながら、少なくとも現状まで、私たちはリアルタイムデータや、テクノロジー、優れたターゲティング機能などを活用したクリエイティブの提供は出来ていないように感じます。
私自身は、とてもシンプルなことだと考えています。データは、クリエイティブに大きな影響を与える潜在力を秘めているのです。これは脅しではありません。現在のXaxis社での業務にて、私はアドテクの潜在性を利用して何ができるかについて、WPPで抱える多くの世界的なクリエイティブエージェンシーのために考えてきました。データとクリエイティビティを組み合わせ、企業やクライアントにとって多くの可能性を秘めている点を彼らに提案する作業を行ってきています。私たちは彼らがより良いマーケターになる為のサポートをしてきています。
―今までにアドテクによって実現したクリエイティブの好例を見たことがありますか?
正直なところ、現在まで数は多く無いのですが少しずつ兆しは見え始めています。例えば昨年カンヌでの3M社によるポストイッットのキャンペーンが挙げられます。ユーザーはマイクロサイトを訪れ、ポストイットにメモ書きをするのですが、それがリターゲティングに活用されます。例えば貴方の姪の誕生日や記念日などについてのポストイットのメモが、ウェブにおいてあなたをフォローしていくのです。
他の例としては、Mark社のカナダでの「Rady to Winter」キャンペーンを挙げたいと思います。このキャンペーンでは、実際の天候に関するデータを元にプログラマティックが活用されています。この背景にあるのは、消費者は寒すぎるときには買い物をしないというインサイトです(特にカナダでは多く起こります)。そこで彼らは天候に応じて店頭割引が実施されるような仕組みを用意しました。例えば-15度であれば15%の割引といった形です。リアルタイムデータを広告に利用するだけでなく、POSにおいて活用する実例です。
クリエイティブチームがリアルタイムデータの能力や、リアルタイムでのクリエイティブやメディア投資のテクノロジーを理解するようになると、真に知性があり、且つ面白いクリエイティブのアイディアが生まれてきます。これらのアイディアのどれもがアドテクなしには実現不可能なものです。
―これらの全ては、大がかりな道具等を用いた「ビックアイディア」を脅かすことになるのでしょうか?
いえ、全くそんなことはありません。実際、逆の事象が起こると思います。キャンペーンの実行段階における役割は変化していくでしょう。もし私たちがターゲットメディアにおいてのみキャンペーンを実行した場合、極論すると、何かを既に知っているユーザーだけとエンゲージメントを図ることになります。大規模なクリエイティブに関するアイディアは役割が異なり、人々に新たなアイディア、カテゴリー、商品、サービスなどとの出会いを提供します。
クリエイティブについての検討を始め、カスタマージャーニーについて考え始めると、常にデータポイントの議論に行き着きます。少し大雑把な言い方になりますが、この点は非常に重要です。全ての行動がデータポイントとなり、クリエイティブチームはそれらを元によりカスタマージャーニーを面白くするためのアイディアを考える必要があるのです。
それ故、私は異なる消費者のタッチポイントについて考えるのが好きです。異なるクリエイティブやアイディアによって、新たなデータポイントを産み出され、私たちが既に持っているデータポイントの新たな活用方法を考えることが出来ます。メディア、クリエイティブ、リサーチにおける新たな流れを作り出すのです。
―おっしゃっている点は現在の作業フローと比較するとかなり大きく異なるように感じます。
その通りだと思います。エージェンシーはこの新たなフローに対応し始めていますし、リニアな形での作業形態は過去のものと言えます。今日のデータ重視の世界においては、より多くのコラボレーションが必要となり、且つ、メディア、クリエイティブ、リサーチ、PR、ソーシャルなどがリニアではなく、融合されたプロセスの元、実行されなくてはなりません。
WPPにおいては、「水平な作業」と呼んでいる方法に集中的に取り組んでいます。リニアでは無く、融合された形でクライアントに対してアプローチを行っています。
―これがあなたのカンヌのセッションの内容になりますか?
はい。Xaxis社は、今年始めてカンヌでのセッションの時間を設定し、クリエイティビティとプログラマティックのメディアテクノロジーについて触れる予定です。このセッションでは、現在のテクノロジーで可能なことや、テクノロジーをマーケターの視点で活用するにはどうしたら良いのかという点について、エージェンシーとクライアントを招いたディスカッションを行う予定です。当社のCEOのMartin Sorrell氏も、テクノロジーとデータを用いて如何にビジネスを新たな段階に導くかについて、彼の考えを述べる予定です。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。