×

Now & Next: チャットアプリ

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Now&Nextは ExchangeWireリサーチチームによるコラムで、4週に1度、最新のリサーチ結果から、偏りのないインサイトや現場のトレンド分析、将来の広告やマーケティングテクノロジーの予測を行っていく。今回はチャットアプリを取り上げたい。

昨今、チャットアプリは、徐々にインスタントコミュニケーションの媒体として、テキストメッセージに置き換わっている。簡単に利用でき、動画や音声、ファイル共有機能などの多様さもあり、チャットアプリは最も人気のあるアプリの一つとなり、日常的に使われている。モバイルへの移行を受け、チャットアプリはソーシャルアプリにて利用され始め、サービス提供内容を広げている。例えば広告を表示したり、無料サービスを収益化するためのオプション機能などが提供されている。

チャットアプリはサービスの登録者の間での1対1、もしくは1対Nの間のコミュニケーションチャネルであり、メッセージや電話サービスがデータ通信やモバイルウェブ上で行われる。携帯電話でのメッセージングアプリの利用は2015年の段階で、14億ユーザーにも及ぶと想定されており、前年比31.6%の伸びを示している。これは世界中全てのスマートフォンユーザーの75%が少なくとも月に1度はメッセージングアプリを利用していることになる。eMarketerは2018年までにチャットアプリの世界中での利用ユーザーは20億ユーザーまで増え、スマートフォンユーザーの8割に相当するようになると予想している。

チャットアプリの発展

チャットアプリは、インターネット上のチャットメッセージによるリアルタイム通信であるインスタントメッセージングから発展している。ショートメッセージは通常二者間でやりとりが行われていた。いくつかのインスタントメッセージアプリケーションはリアルタイムでテキストメッセージを表示させるためのプッシュテクノロジーを備えており、例えば受信者のスクリーンにメッセージを次々と表示させることも可能だった。現在のチャットアプリの先駆けとなるものは1990年代にICQやAOLインスタントメッセンジャーといった形で世の中に登場した。他のサービス提供者も追随し、独自のソフトウェアを開発していった(MSNやYahooなど)。それらは独自のプロトコルを利用し、それぞれのネットワークのみで動作するように作られていた。

2000年のJabberの登場は、革新的で、オープンソースアプリケーションによるXMPPの標準化に寄与した。このことが他のインスタントメッセージングのプロトコルのドアを開き、複数のクライアント環境で動作することを可能にした。それ故、マルチプロトコルをサポートするクライアント環境では、それぞれのプロトコルにローカルライブラリを追加するだけで、どのようなインスタントメッセージプロトコルの利用も出来るようになった。2010年に、FacebookがFacebook Chatでメッセージングの世界に参入し、自身のユーザーにインスタントメッセージング機能の提供を始めた。このようなサーバーサイドのチャット機能は、Twitter、tumblr、Tinder等を含めてソーシャルメディア上の至る所で利用されるようになり、バックエンドでの利用やプライベートチャット、メッセージング機能は多くのユーザーが期待する機能となっている。現実的に、これらのチャット機能は今まで利用されていた携帯電話でのテキストメッセージングに取って代わろうとしている。

スローダウンの兆しなし

メッセージングアプリ市場はスローダウンの兆しを見せない成長市場である。comScoreの米国におけるモバイルメッセージングアプリの消費者のデータによるとFacebookメッセンジャー、GroupMe、Lineが2014年から2015年の4月の間に、それぞれ138%、92%、73%の成長を示し、最も成長したアプリとなっている。Facebookメッセンジャーは3790万ユーザーから9020万ユーザーに、GroupMeは270万から520万ユーザーに成長した。一方Lineは270万ユーザーから470万ユーザーに成長を遂げている。また、Skype及びKikを除く全てのチャットアプリの利用が増加している。

しかしながら、メッセージングの業界は非常に細分化されており、数え切れないほどのインスタントメッセージングアプリがユーザー獲得の為に競いあっている。それでも現状、Facebookが、WhatsAppや自社のFacebookメッセンジャーによるサービス提供で市場を独占しつつあり、状況は変わりつつある。Facebookは、WhatsAppで10億の月間アクティブユーザーを、メッセンジャーは9億の月間アクティブユーザーを有している。世界で3番目のメッセージングアプリは中国のQQで、8.53億の月間アクティブユーザーが、2016年の4月時点で存在することが明らかになっている。こういったグローバル調査から、チャットアプリは地域差によって特徴が出ることがわかる。Facebookサービスは世界中に広がっている一方で、他のアプリは強い地域がはっきりとしている。米国でのチャットアプリのトップ3はFacebook、スカイプ、Twitterである一方で、英国ではFacebookがトップを占めるもののスカイプは3位であり、2位に入るのがWhatsAppである。一方、ドイツではWhatsAppがマーケットリーダーで、Facebook、スカイプと続く。中国は、言語やスクリプトの違いにより独自の様相を呈しており、eMarketerの調査によると、WeChat、QQ、Sina Weiboがトップ3を占めている。

徐々に他のプレイヤーもチャット市場に参入してきている。元々はビジュアルコミュニケーションを主とする写真共有のコミュニティからの参入であるが、Snapchatは名前にあるようにチャット機能が強く、1日あたりのアクティブユーザーは1.5億人を誇り、特に若者に人気を博している。ロシアのチャットアプリであるTelegramは本国ロシアや南米で強く、他のサービスにない独自機能でユーザーを魅了している。シークレットチャット機能のような、セキュリティを強化した機能によって、Telegramは送金などの機能をもサポートして、月間1億ものユーザーに利用されている。これらのチャットと他の機能を組み合わせた多機能アプリは、今後注意を払う必要がある。

将来性

チャットアプリの将来は明るいというだけでなく、既に始まりつつある。中国のWeChatやFacebookのようなサービスはチャットアプリ機能の拡張を行っている。ここでのマジックワードは「チャットボット」である。Facebookは最近、Uberのようなサービスを自社のメッセンジャーサービスに組み込み、2016年の4月にMessenger Botsをリリースした。中国のWeChatは更に先を行っており、オンラインショッピングやレストラン予約、タクシー予約、美容室の予約といったサービスを提供している。これらは全てユーザーの意思を理解するチャットボット機能の恩恵をうけている。

技術的な進歩はマーケターにとってもまたとない機会を提供している。チャットボットの持つ自動メッセージング機能により、予約、ショッピングといった顧客サービスの簡易化が可能となり、実際に導入が進んでいる。人工知能やディープラーニングに基づいて、企業や卸業者の1対1の顧客対応をパーソナライズ化して簡易化するだけでなく、企業や売り手と顧客の間の直接の関係が築かれ、広告目的としても開拓できるため、営業活動にも活用可能である。

これらの利点は明確である。チャットボットは目に見えないものであるが、現在のメッセージングアプリでは既に実装されている。これらはバックエンドで機能しており、ユーザーが購入意思をほのめかしたり、ボットにサービス提供を許可するような状況下において作動する。低いメンテナンスの必要性と自動アップグレードによって、ユーザーからのインプットは必要としない点を最大限の特徴としており、広告のように邪魔を感じることなく、より実質的なサポートやサービスを実感できるような価値が提供される。

更に加えて、この現在利用されていないチャネルを活用すれば多くの付加価値をマーケターは得ることが出来る。チャットボットは潜在的に多くのコンテキストデータを含むファーストパーティデータの宝庫である。現在のチャネルの在庫問題が解消さえすれば、マーケターはメッセージングサービスを利用して、このアプリチャネルを活用したクロスデバイスキャンペーンなども可能となるだろう。アプリ所有者との効果的なエンゲージメントにより、チャットアプリはターゲットマーケティングにも利用可能である。特定のトピックやコンテンツに従事した非常に多くのユーザーにアクセスすることが可能であり、ブランドメッセージの提供に適していると考えられる。

ボットはモバイルマーケティングの未来である。モバイルメッセージングアプリは携帯の中でも最も日常的に利用されるアプリであり、企業が消費者と接する機会を得たい際には、消費者はこれらのアプリを日常的に利用して目の前にいるのである。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。