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スマホアドネットワークの雄nend、10年の軌跡とグローバルを見据えた今後の戦略 [インタビュー]

 

スマートフォン向けのアドネットワーク最大手として、これまでのスマホ広告市場の成長をけん引し続けてきたファンコミュニケーションズ「nend」。顧客のビジネス環境の変化により、新しい成長の道を探り続けているが、これまでの振り返りと今後の戦略について、同社アドネットワーク事業の責任者である、取締役の二宮幸司氏に聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

スマホのユーザー数は頭打ち

―まず、スマートフォン広告市場の市況感について教えて下さい。

二宮 幸司氏

数年前まではアドネットワークが中心でしたが、近年は動画広告やSNSなどがシェアを広げています。とはいえアドネットワーク市場も全体としては成長を続けています。

去年から急激に市況感は変わりつつあります。2014年までは、スマートフォンの普及を背景に急激に市場が拡大し、これに合わせて売上を拡大することが出来ました。しかし今は国内ユーザーにはスマートフォンが行き渡ってしまっているので、トラフィック自体の成長が鈍化しています。

もう1点、ユーザーの独占も起きています。昔はゲームであれば、いろいろなバナーをクリックしてインストール、という動態でしたが、今は一部の有名なゲームに時間をとられて他はそれほどやらない。限られた時間の奪い合いになっているし、それに伴ってコンバージョン獲得の難易度が上がってきており、ユーザーは、ただ広告を表示するだけではコンバージョンをしないのが現状です。 広告フォーマットに関しても、既存のものは、ユーザーから「これは広告だ。」と認識されてきてしまっており、闇雲に広告表示を増やすだけでは広告効果は高まりません。

―2010年頃から、幾つかの市場局面があったと思います。それぞれの局面で、貴社はどのように事業の舵取りをされてきましたか?

2010年はちょうどサービスリリースの年で、皆スマートフォンに対して期待を抱いていました。「スマートフォンだと出来ることが多い。よりリッチだ」ということで、媒体からimpで買い切りをしてクライアントに販売していました。

大きなターニングポイントは、同じ領域のベンチャーが次々と買収されていった頃でしょうか。KDDIさんやグリーさんによるベンチャーの買収、サイバーエージェントさんとDeNAさんが合弁で会社を作るなどの動向もあり、一気に業界が動き出しました。その頃、我々も大きく事業のやり方を変えました。当時はimpベースでブランド広告主を意識した広告販売をしたり、パブリッシャーからimpで買い付けて、クライアントにはCPCで販売して赤字になるというような不安定な状況が続いていたのです。

競合で大手の媒体をすでに抱えている会社との差別化は、常に意識していましたが、資本が絡む以上、彼らと協業する大手媒体を獲得したり、トラフィックの規模で勝負するというのは、我々にとっては困難でした。そのような我々にとって進むべき道は、運用型アドネットワークにシフトチェンジをするということでした。
ブランド広告ではなく、運用型でやろう。そう方向性定まったのは、2011年です。

フィーチャーフォン全盛期のCPさんが「次はスマートフォンだ」といってスマートフォン広告に予算を投下する。フィーチャーフォンの中でも、CPAの考え方は非常にしっくりくるものでした。彼らからするとCPAはしっかりと合わせてね・・・というオーダーがありました。私たちは、そこにコミットしてそれに合わせた機能を次々と追加していきました。
そのなかでも特に広告枠に対して1時間ごとにCPAにあわせて自動で単価を変動させていくシステムを導入したことが、その後支持をいただくことにつながったのだと思います。
この自動単価調整配信システムは、今でもnendの強みです。我々が運用型アドネットワークのビジネスに振り切ってから、最初にだしたインパクトの大きい機能です。

―提携されているのはロングテールの媒体が多いですが、これは戦略の一環でしょうか?

戦略というと大げさかもしれませんが、アプリディベロッパーへのツールの提供を早いタイミングで行ったというのが大きいと思います。
当時、WEBかアプリかという議論がありましたが、WEBのパブリッシャー領域は比較的先行者だったため、先にいった資本が絡むような大手パブリッシャー以外は、導入が進んでいました。それ以上にトラフィックをあげていくとなると、当時、個人ディベロッパーが活躍していたアプリ領域です。nendの視点としては、とにかく個人ディベロッパーに簡単に導入してもらうために何が必要かを徹底的に考えました。結果としてUnityなどのツールを利用していても簡単に広告を設置できるプラグイン開発を優先的に推進しました。
当時ネイティブで作らないケース(Unityやcocos2dなどを利用してアプリを作成するケース)はまだそんなに多くなかったですが、グローバルをみても水面下で徐々にUnityなどが広がってきていました。そこに対して早いタイミングで、プラグインを提供できたことは、媒体特に個人ディベロッパーから支持を得られた理由の一つです。

今でもnendは、ロングテールのテール部分に強みを持つことができています。個人パブリッシャーのモチベーションをあげたりすることは、会社のアフィリエイトで養ってきたノウハウをうまく活かすことでできたのだと思います。

―グローバルでは、アドネットワークはDSPやSSPに方向転換する動きもありますが、貴社はアドネットワークを継続するのでしょうか?

私たちの強みを活かすという観点からみるとデマンドかサプライ、どちらかだけ見るビジネスはやりたくないと思っています。あくまでバランス感覚が必要で、それは私たちの強みであり、両者をバランスよくつなげ、消費者も含めて、win-win-winの関係を強化、維持させていくことがこのビジネスの成功につながると思っています。DSP/SSP間でできることの一番顕著なところだとRTBだと思いますが、それはアドネットワークでもできるので、方向転換するということは今のところ考えてはいません。

アドネットワークとして需要と供給のバランスを保ち続けるためのテクノロジー開発や、広告主、パブリッシャーが感じている課題を両方から聞き出して機能に反映させていくことをこつこつとやっていきたいと思っています。

―今後はアドネットワークの数自体は絞られてくるのでしょうか。

プロモーションの数と配信できる枠の数がアドネットワークの基本で、その数が多ければ多いほど、スケールするようになっているので、大きいところに集約されていくというのはあると思います。そういう意味では絞られてくると思います。
Facebookのような大きなメディアサービスが、3rdpartyのメディアにネットワークという形で、在庫を提供しはじめているということも絞られてくる一つの要因にはなってくると思います

広告主は、常に新しい広告フォーマットを探している

―広告主のスマートフォン広告に対する変化は特に感じられますか。

二宮 幸司氏

まず、広告フォーマットは新しいものを常に探していらっしゃいますね。と言っても最近は、ビデオくらいしか新しいものがありませんので、僕らとしてはそこに応えていくつもりです。

あと、アプリ広告主の場合、KPIについては「インストール」にとどまらず「課金」までしっかりと見るような設定をされるようになっています。特にゲーム系の広告主においては顕著です。こうなってくると大事なのはデータの可視化の部分です。そこに対する広告主からの要望は大きいです。ある媒体経由で獲得したユーザーが、どのくらいアプリ内でアクションしたかということを可視化していく機能もnendではリリースしています。

―広告主カテゴリに関しては、いかがでしょうか。

ECなどが増えてきています。しかし金額ベースでは引き続きゲーム会社が大きく、平均予算規模は10倍くらい違います。

ECの場合、ユーザーが購入に至るまでより検討時間が長くなります。ユーザーもコンテンツをしっかりと見るので、すぐ購入には至りません。これはPCでもスマートフォンでも同じです。検討をしている状態を後押しする何か、例えばリターゲティング施策などが増えてきている印象ですね。

―今後についていくつかお聞かせ下さい。まずデータ活用に関して、先日提携したトレジャーデータとの座組みをお聞かせ下さい。

広告主様の出稿スタンスにも関連しますが、既存顧客に対するエンゲージメントについてクライアントの関心が高まっています。そういった顧客に対して、アプリエンゲージメント広告という商品を提供しており、基本的には広告識別子をベースに広告主様のファーストパーティーデータ(ユーザー)にリーチできるようにしています。

前提として、広告主様の内部でのユーザー分析が必要です。
マーケティング担当者様でも簡単に解析して、PDCAをまわせる仕組みはどうやったら構築できるかの答えが、トレジャーデータとの連携でした。
トレジャーデータの分析基盤は、非常に利用しやすく広告主様からも支持をうけていると思います。データ分析を積極的におこなっている広告主様も基盤構築のリソース削減のためにトレジャーデータを利用しているケースが多いです。今回の連携は、トレジャーデータで分析をしたデータ(ユーザー)をAPIでシームレスに連携してnendでターゲティング配信し、その配信結果をまたトレジャーデータ分析基盤にフィードバックすることを可能にしています。

既に実施しているケースでは、3日以上アプリを起動していないユーザーに対して呼び戻し施策として、プッシュ施策とは別の切り口でnendに広告出稿してアプリ起動を促したり、定期的にアプリ起動してくれるユーザーにイベントの何かをプレゼントしたり、そういうようなパターンですね。アプリのECの場合、買い物かごまで到達してそこから購入されていないユーザーに、再度アプリ起動を促すといったパターンが多いです。リターゲティング施策に近いと思います。

課題はもちろんあります。アプリエンゲージメント広告に出稿する際のKPI設定に対して、広告主様はまだまだ試行錯誤しているということはあると思います。事例は徐々に出始めているので、今後の広がりに期待したいと思います。

―リエンゲージメント広告は、nex8ではなく、nendが対応するということなのでしょうか。

nex8は、1年前にアプリにおけるリエンゲージメント配信をリリースし、その配信経由の売上も順調に成長はしていましたが、プロダクトのコンセプトを今回ダイナミックリターゲティングサービスへと変更しました。今回、私の管掌するそれぞれのサービスにおいて、選択と集中を行いました。日本国内のスマートフォンユーザー数でいうともう頭打ちになることは決まっていますし、海外発の巨大なサービスとどう戦っていくかということも大きなテーマでした。その中で、それぞれのサービスの強み、対象顧客を再定義し、コンセプトを改変しました。
nendはアプリ領域に強いので、リエンゲージメントはnendで実施していくことになります。リエンゲージメントは海外でも盛んになってきていますので、そこも視野にいれつつ拡大していきたいと思います。

―リエンゲージメント広告の配信は、RTBで行うのではないのですか。

はい、CPCで配信します。nendの配信ロジックに組み込んでいます。RTBだと様々な競争があります。EC系、金融系など獲得単価の高いものとRTBで戦う可能性もでてきますが、その競争は、少なくともアプリゲームのリエンゲージメントキャンペーン目標からすると少し厳しいです。。nendは、ゲーム広告主と相性のいいアプリメディアのほとんどにnendSDKが入っており、広告識別子保有数でみるとおそらく日本最大級です。相性のいい枠が多いのでRTBと比べても、安定的にパブリッシャーにも高いCPMをだせるようになっています。

―広告フォーマットはどのようなラインナップを採用するのでしょうか。

広告主様やパブリッシャーだけでなく、利用ユーザーにとって有益になるフォーマットという視点で常に考えていきたいと思います。例えば動画であればユーザーの通信料金などの問題があるので、そこをクリアにしていきたいですし、全く新しい広告フォーマットにも挑戦していきたいです。

―インフィード広告はいかがですか。

既にリリースしていますし、アプリ向けインフィード広告の領域は順調にパブリッシャーに導入してもらっています。ネイティブ広告というくくりでみると、まだリリースして半年くらいですが、垂直に立ち上がり、堅調に伸びています。

―貴社は今後もSSPを展開される可能性はないのでしょうか。

二宮 幸司氏グループ会社にて海外向けのSSPは展開しています。nend自体ということでいうと全くないとは言い切れないですが、どちらにしてもどのようにやるかということは、とても重要です。例えば、nex8⇔nend間はRTBで接続していますしそれをみても、さっきも話しましたがRTBもアドネットワークの一機能として十分ワークすると思っています。またSSPも市場競争は激しくなっています。今の市場でみると、SSPに特化するとその競争のなかでCTRを上げるようなフォーマットに注力しがちです。広告効果が見えないなかで単価ではなくCTR調整をするというのは、仕方ない部分もあると思いますが、nendとしては広告主にとってもパブリッシャーにとっても有益なものはなんなのかを突き詰めていきたいと思っています。

―アフィリエイト事業とのシナジーはあるのでしょうか。

CAP/CPI/CPC/CPMと様々な配信手法をもっていますので、それらの広告ログデータをそれぞれ分析して何かしらにアウトプットしていくという取組みは今年から専門のチームを作って、チャレンジしています。広告接触からクリック、コンバージョンまでのログという部分はどのサービスも変わりませんので、そのアウトプット内容はシナジーがあると思います。

またある程度各サービスが大きくなってきてわかったこととしては、例えばA8.netとnendは、広告主もパブリッシャー側もあまりシナジーがありません。逆にA8.netとnex8は非常に広告主やパブリッシャーの親和性が高いです。私たちのサービスを利用してくれている顧客側でそれぞれのサービス間でシナジーをだせそうかどうかが明確になってきたタイミングですので、これから増えてくると思いますし、意識的に増やしていきたいと思います。

2~3年後にはグローバル売上20~30%に

―最後に今年の目標を教えて下さい。

去年頃からスマートフォンアドネットワーク業界は競争が激しくなってきており、SSP事業社など含め各事業者がしのぎを削っています。悪い言い方をすると焼畑化しているということですかね。ユーザー数が伸びないなかでは仕方ない部分もあると思います。ただ、大前提として、市場を衰退させないためには、ユーザーのことも考えながら事業を進めていきたいと思っています。

また今年は、グローバル展開の拡大に向けて、去年から準備をしていることをアウトプットしていきたいですね。すでに海外売上目標も決めていて、あと2~3年で全体売上の20%~30%にはしていきたいと思っています。

グローバルで戦うという点でみたとき海外の大手プレイヤーがいるわけですが、技術的に負けているとは思っていません。少なくともスマートフォンアプリの分野においては、ファンコミュニケーションズグループでこの5~6年ほどやってきたことは、サービスとしても技術的にも先進的なことをやってきていると思います。

またわれわれだけでなく、日本という場所は世界でみても、スマホマーケティングにおいて優秀で先進的な顧客やプレイヤーが多いと思います。この環境で常に顧客と対峙し、付加価値を提供できれば、グローバルでも通用するプロダクトになると思っています。

ファンコミュニケーションズグループのビジョンでもありますが、世界最大の「広告効果にコミットするアドネットワーク」をつくる企業グループとして存在し、インターネットで生まれ変わる生産・販売・消費のサイクルの中で、新しい付加価値を創造し、社会に貢献するということを意識しながら、今後も広告主にもパブリッシャーにもユーザーにも喜ばれるサービスを提供していきたいです。

今年はnendでいうとアプリエンゲージメント広告やネイティブ広告などに注力していきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。