位置情報データ:あなたの現在の場所だけでなく、過去にいた場所まで活用
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
位置情報データはユーザーの動向やターゲットを知りたいマーケターにとっては非常に貴重な財産である。しかしながらマーケターはユーザー行動に関する豊富な情報ソースを最大限に活用しているのであろうか?LoopMe社のCEOで、創業者のStephen Upstone氏はExchangeWireに、位置情報はターゲットユーザーの現在の位置を知るだけではなく、ユーザーの日々の動向に関する豊富な情報を提供してくれると説明してくれた。
電話、鍵、財布。現在の私たちの殆どが家やオフィスから外出する際に繰り返す言葉ですが、AppleとAndroid Payの出現によって、これらは将来「電話と鍵」に変わっていくでしょう。スマートフォンはどこに行くにも肌身から離れることなく、仮に電話を忘れてしまった際には、何か失われてしまったような奇妙な感覚を覚えるでしょう。
電話は、私たちが常に持ち歩いているだけでなく、私たちの位置情報を常にトラックしています。私の電話の設定を調べてみると、35ものアプリケーションが私の位置情報を取得について許可設定されており、そのうち14は位置情報を常時獲得できるようになっていました。
GPSデータの活用により位置情報データを取得し、ターゲティングを簡易化するテクノロジーは新しいものではなく、ブランド企業は多くのスマートフォンのトラッキング機能を長い間利用してきました。しかしながら、位置情報について語られるとき、ほとんどがユーザーの現在の情報をいかに活用するかという議論に集中しています。スターバックスの近くに寄ったターゲットユーザーにクーポンを配信したり、電車の駅の近くに向かうユーザーに廉価な電車料金の詳細を送信したり、空港に到着した際にはタクシー会社の広告を配信したりと言うような実例です。
これらの全ての方法は位置情報データの有効的な活用方法ですが、大きな戦略に用いられているとは言えません。実際にはスマートフォンによって、私たちがよく訪問する場所に関する地図が形成でき、ユニークかつ正確な方法で私たちの習慣や行動が把握されています。これらのデータにアクセスすることで、私たちはより深く、ユーザーを知ることができるだけでなく、彼らがどんなブランドを好むかなどの拡張的な情報についても知ることが出来るのです。
例えば、あるユーザーが、月に3回ほど、平日にヨーロッパの都市に出張に出かけるとしましょう。そして、このユーザーのホームタウンはロンドン郊外の素敵な場所で、街中のオフィスに通勤しているとしましょう。そして、彼らは仕事後に、帰宅前の駅に向かう途中に、あるレストランによく立ち寄っています。これらの情報から、ユーザーが有能なビジネスマンで、裕福で仕事においても恐らくディシジョンメーカーであることが推測出来ます。これらから推測するに、この人は恐らくカルチェやBMWなどの高価値ブランドを好むでしょう。
他の例を考えてみましょう。オフィスで働いている人を仮定してみましょう。月曜日から金曜日までの昼食にはこの人物はオフィス街の店舗に立ち寄り、夕方にはバーが集まるような場所に出没します。週末になると、彼らは街中に留まり、様々な小売店やエンターテイメントの場所に訪れます。この人物は恐らく、若くて、ファッションへの関心が高く、ある程度の収入のある人物でしょう。これらの人物はカルチェのターゲットではありませんが、アメリカンアパレルのようなブランドにとっては最適でしょう。
これらの位置情報に、ユーザーの閲覧履歴、性別、年齢、デモグラフィック、デバイス等の収集出来る全ての情報を加え、更に写真も活用できれば非常に強力なデータになります。それぞれのユーザーを徹底的に理解することで、マーケターは自社のブランドに最も適したユーザーを理解することができ、AIの活用によって、最も価値のあるユーザーのみをターゲットにすることが可能です。
正しく情報を活用することができれば、位置情報はアトリビューションを決定する上で非常に貴重な情報となり、特に小売分野での活用には最適です。今までは、車のドライバーに向けたデジタル広告キャンペーンの効果を計測することは難しいとされており、特にどのくらいの広告がオンラインで閲覧された後に、商品の店舗購買に繋がっているか等の計測は困難でした。位置情報の活用により大きな変化がもたらされ、マーケターがこの様なキャンペーンのROIを把握する事が可能になります。ジオフェンシングを使っている店舗における客数を計測し、これらのデータを広告キャンペーンを閲覧したユーザーと紐付けることによって、広告効果の計測が可能になります。もし企業が、店舗でのサッカー関連商品の売り上げ向上に関するデータを収集する事が出来るならば、広告閲覧数と商品販売数の関係を把握することは容易で、デジタル広告から購入までのサイクルの把握が出来、デジタルの価値を証明することにつながります。
このような習慣はモバイルキャンペーンのみに限定されるべきではなく、全てのメディアバイイングによって活用されるべきです。全てのデバイス(インターネットテレビ、スマートフォン、タブレット、デスクトップ)において全てのユーザーのトラックが可能になった際には、位置情報はブランドキャンペーンにおけるターゲット化に関して、極めて重要な意味を持つようになります。キャンペーンが実行された際に、位置情報はキャンペーン配信による効果を計測するために利用され、現状のブランド計測では行われていなかったデジタル広告提供におけるROIの証明に利用できます。
位置情報データがマーケティングツールとして利用される際はいつでも、プライバシーが問題になります。位置情報データがユーザーの好み、行動やオーディエンスグループの生成に使われる一方で、個人特定のデータが蓄積されないようにするのが重要です。ユーザーの名前や住所などが特定されることはありませんし、ユーザーが位置情報について懸念を示すようであれば、スマートフォンの設定を変更すれば、データの共有はなされません。業界全体でユーザーの広告体験を改善していく必要があります。位置情報データの活用により、ターゲット化された適切な広告の配信が行われる一方で、ユーザーが不快に感じた時点で、広告配信先から排除されるという選択肢が与えられなくてはなりません。
位置情報データは、適切な広告をターゲットに配信するという面においても、マーケターに対して、デジタル広告キャンペーンにおけるROIを証明する機会を提供しているという点においても、極めて重要なツールです。業界として、これらのデータを最大限に活用して、よりユーザーに適した形でキャンペーンを配信し、ユーザーが最良のオンライン上での体験を得られるための努力が必要です。位置情報がこれらの目標にむけて重要な役割を占めることは疑いの余地がありません。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。