プレミアムパブリッシャーはモバイルでお金を稼ぐことは可能だ!
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
プレミアムパブリッシャーにとり、モバイルの収益化は大きな議論を呼ぶトピックだ。コンテンツ消費の細分化、モバイルファーストなテクノロジーの欠如、モバイルインフラやユーザーのモバイル体験への理解の欠如などが原因となっている。しかしながら、テクノロジーは進化しており、プレミアムパブリッシャーがモバイルのオーディエンスを勝ち取る機会は目の前に存在している。PubMatic社のUKカントリーマネージャーであるPaul Gubbins氏はExchangeWireに、プレミアムパブリッシャーがモバイルの収益化に対して如何に及び腰であったか、そしてどのように問題を解決していくことが出来るかについて話をしてくれた。
多くの業界のエクスパートと考えは異なりますが、私はプレミアムパブリッシャーのモバイルインベントリーによる収益化は可能だと考えています。これから何故そのような考えを持つに至ったかについて説明しますが、その前に理解を共にする為に、背景を説明させてください。
デジタル広告に注目が集まった際、パブリッシャーは大儲けとまではいきませんが、十分にインベントリーを利用して収益を上げることができました。主として、インサーションオーダー(広告申し込み型)のコンテキスト広告によるものです。
そして、インターネットが爆発的な成長を迎え、インベントリーの数が管理出来ない程に増え、アドネットワークを使って在庫を集めて(販売すること)が選択肢の一つとなっていきました。
2012年になると、プログラマティックテクノロジーがより一般化され、多くのパブリッシャーがDMPとの提携により、クッキーを利用してオーディエンスをセグメント化し、SSPとともに、オープン又はプライベートマーケットプレイス(PMP)の環境にて、これらを買い手に提供するようになりました。
パブリッシャーのデジタルアセットを収益化する方法は3つあるものの、共通した重要な点は一つに絞られます。それは、非常に多くのインプレッションがデスクトップを経由していた点で、ターゲティングにはクッキーが利用されていました。
これが、パブリッシャーのオーディエンスによるコンテンツ消費が、一つのスクリーン(デスクトップ)からマルチスクリーン(スマートフォンやタブレット)に移行することで全て変わってしまいました。
パブリッシャーは、このオーディエンスの変化のスピードにパニックになりました。率直に準備が出来ていなかったのです。単一のスクリーンがマルチスクリーンに変化するスピードは、ムーアの法則と比べても比較にならない程のスピードだと述べた人もいたくらいです。
どうしてパニックになったのでしょうか?パブリッシャーはSSPに単純にモバイルウェブとアプリのインベントリーの管理を依頼すれば良かったのではないでしょうか?実際その通りで、多くのパブリッシャーがそのような行動に出ました。しかしながら、その当時、非常に多くのデスクトップを中心に考えていたSSPはモバイルファーストのDSPと接続されておらず、そういったDSPに出会えたとしても、彼らの顧客はゲームを中心として広告主ばかりで、最も廉価なインベントリーを探してCPIを実現することを狙っており、顧客生涯価値(LTV)などとは無縁でした。
デスクトップファーストであったSSPが、デスクトップ環境におけるインベントリー価格や物量ではモバイルインベントリーの販売を行えない為、パブリッシャーは徐々に苛立ちを覚えだしました。多くは、「モバイルを理解する」パートナーと組めば全てが元通りになると考え、モバイルファーストのSSPに問題の解決を求めましたが、残念ながらその通りにはなりませんでした。パブリッシャーはモバイルの最低価格を高く設定しすぎました。また、多くのパブリッシャーがクッキーの利用出来ず、ファーストパーティデータやデバイスID、強力なロケーションデータがない状態の中では、殆ど差別化が行えない点を理解出来ませんでした。結果はどうなったでしょうか?伝統的なプレミアムパブリッシャーは、数ヶ月程度前にサービスを開始したばかりの名前を聞いたこともない様なアプリに敗れることとなりました。
それでは、どうして伝統的なプレミアムパブリッシャーにとって、モバイルインベントリーでお金を稼ぐことはそれほど難しいのでしょうか?彼らはデスクトップ環境では何の問題がなかったにも関わらず。
最初の問題はオーディエンスがどこで時間を過ごしているのかという点です。殆どのモバイルインベントリーが消費されるのはアプリ内である為、クッキーの利用は出来ません。クッキーが利用できないということは、ユーザーの特定ができないということであり、その為、DSPはビッドリクエストを見送ることが多く、結果として多くのモバイルウェブのサプライが売れ残る結果となりました。
この問題は、AppleとGoogleにより、アプリ開発者がデバイスIDを獲得し、バイヤー側に届けるメカニズムをリリースしたことで、幾分解決するようになりました。これにより初めて、バイヤーがアプリ内のインベントリーをバイイングした際、リーチやフリークエンシー、アトリビューションなどを管理することが出来るようになりました。バイヤーが、自分たちがバイイングする広告商品について確信を深めるにつれ、パブリッシャーはアプリをより真剣に考えるようになり、独自のアプリを構築し、モバイルウェブでは獲得出来なかった需要の獲得を目指しました。IDを特定出来るようになったことで、多くのゲーム関連の企業がアプリのインストールキャンペーンなどに多くの費用を費やすようになりました。問題は解決されたように思われました。
しかし、実際はそうではありませんでした。プレミアムパブリッシャーはこのお金の流れの恩恵を受けることは無かったのです。ゲームの広告主は殆ど広告ブロックリストに入っていたり、パブリッシャーがこれらの投資をサポートする際のCPI最低価格を高く設定しすぎていたのです。
この点を、長い間、大規模なエージェンシーグループがプログラマティックモバイルに投資をしなかった点と結びつけて考えてみましょう。モバイルはオーディエンスの測定が難しく、アプリのトラフィックはユーティリティやゲームなどによるものが殆どです。ですので、ラグジュアリーブランドに販売するのは難しく、ラグジュアリーブランドのCMOからは、「一体、潰れたフルーツと高級時計のどこに共通点があるのか教えてくれないか」などといった質問をされ、販売をするのは容易ではありませんでした
これに加えて、マルチスクリーンにおけるデスクトップ上のクッキー、モバイルウェブでのクッキーの非サポート、アプリを利用する場合のデバイスIDなどを特定することの複雑さが、モバイル商品の販売を極めて難しいものにしていました。
今のところ、プレミアムパブリッシャーの置かれた立場や、プレミアムパブリッシャーはモバイルでお金が稼げる、という私の主張の雲行きは良くありませんね。しかしながら、プレミアムパブリッシャーは、自身が考えているよりも強力な立場にいるのではないかと感じています。
まず、モバイルウェブのインベントリーにおいてクッキーがないという問題は簡単に解決出来るようになりました。パブリッシャー側がデジタルのオーディエンスをセグメントする際に、DMP上においてデバイスグラフ機能を有していれば良いのです。これによって、パブリッシャーは一つのIDにより、SSP経由でバイヤーに対して、(クッキーを利用して)デスクトップ経由でインベントリーを消費するユーザーと、モバイルウェブやアプリのユーザーが、高い確度で合致させることが出来るようになります。即座に通常のモバイルウェブインプレッションがコンテキストを有するようになり、より効果的にビッディングの管理を行うことが出来る。これは「確率的マッチング」と言われているものですが、もちろん、パブリッシャーがサインインを求められるような環境である場合は、マッチングにおいて確率性に頼る必要はありません。
上記に加えて、デバイスグラフを利用するとパブリッシャーはデスクトップ、モバイルウェブ、モバイルアプリにおいて、単一のユーザーIDを利用することが可能になり、バイヤーがより良いターゲティングが出来、フリークエンシー、アトリビューションの管理を容易にすることが可能になります。これらは、ログインをするか確率的マッチングを利用することなしには不可能だったことです。
そして、オーディエンス拡張があります。PubMatic社では、私たちのプレミアムパブリッシャーである顧客がクロスデバイスにおけるテクノロジーを活用し、更なる顧客の予算獲得を狙ってオーディエンス拡張機能に力を注いでいるのを目にしています。オーディエンス拡張は新しいテクノロジーではありません。しかしながら、デスクトップのユーザーを、モバイルアプリのようなブランドにとって安全でプレミアム感のある他の環境で特定できることは、新たな点と言えるでしょう。
また、プレミアムパブリッシャーが、デスクトップのPMPから獲得したオーディエンスインサイトをモバイル向けPMPのパッケージに活用する事例を見かけるようになりました。パブリッシャーは、徐々にモバイルとデスクトップのインベントリーを混ぜ合わせ、クロスデバイス環境におけるPMPパッケージを生成するようになっています。これは、メディアバイヤーからの関心を集めるとともに、より高額なCPMが見込めます。過去3四半期の間、PubMatic社の調査によると、広告主のバイイング傾向に変化が見られ、よりPMP経由でのモバイルインベントリーへの投資が増えているということが明らかです。
PubMatic社の四半期ごとのモバイルインデックス(QMI)によると、Q1期におけるスポーツカテゴリーのモバイルPMPの支出は前年比で1000%も増えています。
現在の広告では、一人のユーザーに複数のデバイスを利用して、いかに一貫性のあるメッセージを送ることが出来るかということが重要になってきており、全体的な戦略が必要とされています。今まで説明してきたように、パブリッシャーは現在、デスクトップ、モバイルウェブ、アプリの全てにおいて、非常に細かなターゲティング機能を活用でき、サービスを管理し、かつ収益化できる環境が得られるようになっています。これらのチャネルをサイロ化してしまうと、パブリッシャーは必要以上の問題を抱えることになります。パブリッシャーは単一のソリューションから最も成功確率の高い戦略を選択すべきです。
アプリだけが、モバイルにおけるプレミアムインベントリーを担うわけではありません。実際、QMIのレポートによると、PubMatic社のプラットフォームにおけるアプリ及びモバイルウェブの両方の平均CPMが、年比較で50%伸びています。モバイルウェブはパブリッシャーにとって大きな機会を秘めており、全体の戦略に基づいて位置情報やデバイスID、PMPを活用することで、パブリッシャーはサービスの価値を高めることができます。
モバイルインベントリーは広告業界における(米国開拓時代の)アメリカ西部のような(皆が集まるような)状態になっていますが、これは業界のリーダー企業が、困難を乗り越え、新たな領域に入り込み、効果的に収益化が出来るようになった証拠だと言えます。
一つの好例として、UKの最も人気のある旅行サイト「National Rail Enquiries (NRE) (英国鉄道予約サイト)」が挙げられます。このサイトでは2012年の2月から2016年の4月にかけて、広告インベントリーのCPMが平均で25%上昇しました。加えて、モバイルアプリ上のデバイスIDを獲得する為の拡張タグを採用して以来、NREは2014年の後半からモバイルにおける収益を65%も向上させています。
もしあなたが、このインタビューを読むプレミアムパブリッシャーであれば、モバイルから収益を上げることは、正しいテクノロジーと戦略があれば、実現可能であるということを理解していただきたいです。私たちが見てきたここ数年の進歩はもの凄いもので、収益を高め、オーディエンスを喚起し、デバイスによって最適かつエンゲージメント性の高いコンテンツをオーディエンスに届ける為の、全ての分野において進化しています。ブランド企業が接触をしたいオーディエンスの全てのアトリビュートが存在します。
あなたがオープンで、プレミアムなコンテンツの管理人であることを忘れないでください。そしてこれらを活用できる機会は全て目の前にあるのです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。