「メディアの成長を共創する」 VOYAGE GROUPのSSP事業拡大戦略 [インタビュー]
SSP国内最大手のVOYAGE GROUPは、ゴールドスポットメディアを傘下に収め、更に事業拡大を進めている。2016年の戦略や直近の市場動向に関する認識について、株式会社VOYAGE GROUP執行役員兼、株式会社fluct 取締役兼COO 土井 健氏と、株式会社fluct 執行役員の今井 悠介氏に話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
プロダクトライフサイクルでは、成長期の後半
―まず自己紹介をお願いします。
土井氏:VOYAGE GROUPの執行役員及び、 fluctにて今年4月からCOOとしてSSP事業全体を管轄しております。
今井氏:私はfluctにて、主にDSPやアドネットワークとのビジネスアライアンスを担当しています。
―まず、昨年1年の貴社SSPビジネスについてまた、足元の市況感についてお願いいたします。
土井氏:SSPビジネスは好調で、直近の決算ではこの1-3月は前年同クォーター比で24.5%、売り上げは22.4億です。SSPというプロダクトライフサイクルは成長期の後半に差し掛かっていると感じており、事業成長はしていますが、市場の成長曲線も緩やかになったかなという感じです。
―去年SSPの再編が相次ぎましたが、環境の変化は感じますか。
土井氏:去年の市場予想と変わっているのは、SSP市場への新規参入部分だと思います。もともとのSSPは統廃合されましたが、外資含めメディアやプラットフォーマーのSSP領域への進出が増えてきました。
―そこに対してどういった戦略を立てていますか。
土井氏:いかにメディアの収益を上げるかの仕組みは2008年から取り組んでおりますので、そこを研ぎ澄ませていくことが重要であると考えております。
―今回のゴールドスポットメディア子会社化について、経緯からお聞かせください。
土井氏:資本関係は去年10月に出資をしたのがきっかけですが、それ以前よりビジネス取引はありました。一緒にビジネスできればという話をしていたのですが、ゴールドスポットメディアさんが動画を含むリッチメディア領域で一定のポジションを取られており、また当社でも動画をしっかりと取り組んでいきたいということで、今回のお話に至りました。
―今後組織はどのようになっていくのでしょうか。
土井氏:いきなり統合するイメージはなく、まずは組織や人の交流から始めてまいります。まずビジネスで強く連携し、オフィスやシステムの連携はそれに並行して随時統合していくというような流れを想定しております。
営業面では、両者の商材を案内できるようにはしたいのですが、システムは両者の良い面を残しつつも、今後新しい取り組みをする領域で一緒にやっていきたいと考えています。
―組織の規模を教えて下さい。
今井氏:ゴールドスポットメディアは7人です。開発、デザイン、エンジニアがそれぞれ数名おり、全員フロントエンドのエンジニアでもあります。一人二役以上の役回りをしているのが現状です。
動画広告市場における存在感が魅力
―VOYAGE GROUPとして、ゴールドスポットメディアの一番魅力的であったところはどのような点ですか。
土井氏:VOYAGE GROUPとして動画広告に取り組んでいく上で、ゴールドスポットメディアがリッチメディア、第三者配信の分野でプレミアムメディアに使われる、DSPの中で使われる、などの事例がかなり増えておりました。他の日本市場のリッチアドの会社と比べてかなりパイを取っていた印象があります。この領域で、VOYAGE GROUPが一から始めるよりも、M&Aをしたほうが早いという判断に至りました。
―ゴールドスポットメディアの経歴について教えてください。
今井氏:もともとは米国の企業として2007年に西海岸で起業し、2009年に日本に参入しました。その頃はフィーチャーフォン向けのサービスを提供しておりましたが、スマホにシフトしてリッチコンテンツの制作も始めました。動画素材を組み合わせて広告コンテンツに組み上げる、動画コンテンツの制作ツールもあわせて提供するようにもなりました。
動画広告は「アウトストリームに予算が来る」
―動画領域では、今後どのような展開を考えていますか。
今井氏:色々なフォーマットを用意し、メディアに合わせて配信をしていくというスタイルです。
―動画広告市場を現在どのように見ていますか?
土井氏:アウトストリームに予算が流れて来ると思っています。モバイルに広告主が入ってくると、ゲーム会社やブランドなどが広く予算を投下するようになると思います。
今井氏:アメリカに比べて、日本では動画コンテンツを配信するメディアが多くないため、プレミアムコンテンツに対してインストリーム在庫のみ買い付けすることは、広告/プロモーションとしてスケールしにくいという課題が出てきています。
確かに動画コンテンツの中に広告が挿入されているが、「動画コンテンツは本当にプレミアムなのであろうか?」という疑問を、アウトストリームにより解決することが出来ます。例えばプレミアムメディアだけの動画広告枠を設けてそこに動画広告を配信すれば、配信先がプレミアムメディア/コンテンツであることを保証することが出来ます。市場はまだインストリームメインですが、このことは、アウトストリームに流れて来る一つの要素であると考えています。
内外のリソースを活かし、コンサルティング人材を育成し「メディアの成長を共創」
―今年の貴社SSP事業の戦略についてお聞かせください。
土井氏:SSPは、成長期の後半に差し掛かりつつあるため、各社による競争が激化しております。そんな中、弊社が一部のメディアに提供を始めたのが、メディアに訪れるユーザーの回遊率を増やす等の広告マネタイズ以外のコンサルティングサービスです。これまで広告のメディアマネタイズを進めてきて、そのサイトの流入元がどこかは見ていました。しかし離脱したユーザーはどこに行っているかまで追いかけ、離脱先が例えば保険商品だったら保険の記事を増やす。それによって1ユーザーあたりの回遊数を増やすというような、サイトコンサルティングサービスの提供を始めました。
近年はGoogle DFPを使うメディアが増えておりますが、皆さんが完全に使いこなしているとは言い切れません。そこで、Googleと強いパートナーシップを持つ当社が、その知見を活かし、DFPのコンサルティングサービスを提供し、メディアからフィーを戴くこともしています。
DFPは機能が盛り沢山で、これらを活かすことにより収益の向上が期待できます。そこで日々の運用やチューニングを行い、それにより収益を上げる取り組みを行っています。現在、大手メディアへのコンサルテーションも実施していますが、好評をいただいております。
―自社プロダクトのみならず、DFPのコンサルティングに対応するような人材まで、多く抱えておられるのですね。
土井氏:はい。当社は2008年からメディアと向き合うビジネスに取り組んでおり、これまでの8年間、そのことを考えてきた人材が多いのです。ですので、高い水準のコンサルタントが、ご提案をしています。
既存のfluctメンバーが高度な提案できるようになってきたのですが、労働集約的なビジネスなので、全メディアには提供できません。Win-Winのところに限って今はご提供しております。
今井氏:DFPコンサルやサイトの回遊をどう上げていくかをメディアの立場になって事業展開していきたいと考えています。広告は一手段でコンサルや課金、デバイスの拡張なども見据えています。今まではPCとスマホでしたが、IOTやVRが広がると、今後どこがメディアになるかは変わってきます。そのチャンスも狙っていきたいですね。
―今後も、SSP領域に関連して貴社グループによるM&Aはあり得るとみてもよろしいでしょうか?
土井氏:VOYAGE GROUPとしては、SSPに限らずいわゆる内製できる部分と、外部と一緒に取り組むべき部分とは、選択肢として常に考えています。単なる事業提携から出資、そしてM&Aもあり得ることです。このことは、SSPの領域に限らず、アドテク全体で考えられます。VOYAGE GROUPはメディア事業にも取り組んでおり、そこも視野には入れています。
今井氏:土井も申し上げたように「メディアの成長を共創する」がfluctのコーポレートメッセージです。今まではSSPというプロダクトをメディアに提供してきましたが、今後は解析ツールやDFPのコンサルなど、他社と協業も含め、メディアビジネスがスケールするために何を提供すればよいのかを考え、準備することが大事なポイントです。SSPでもアプリ、動画、PMPなどのキーワードが出てきています。動画はゴールドスポットの参画により、クリエイティブ力を武器にスピーディーな展開が出来るようになると考えております。
土井氏:これまでのM&Aにより現在、fluct組織の人員が100人以上になりました。改めて会社として何を大事にするか。立ち返った「メディアの成長を共創する」ところを意識していこうとしています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。