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Google Analytics 360 Suite:閉じられたエコシステムへの第一歩か?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

3月15日にGoogleがAnalytics 360 Suiteを「マルチスクリーン時代のエンタープライズクラスのソリューション」として発表した。このSuiteでは既存の製品を新たな新機能と組み合わせ、全てのデータとインサイトを1つのサービス上で管理するものである。

GoogleのDMP、データ分析およびビジュアル化の製品はまだベータ段階にあり、バーションアップしたタグ管理機能やGoogle Analyticsプレミアム(現在のGoogle Analytics 360)及び2014年に買収したAdometry(現在はGoogleアトリビューション360)などがSuiteを構成することになる。

サービスのオープン性についての議論が頭をよぎるが、Googleはこのサービスは完全にオープンで、サードパーティの商品とのインテグレーションも可能で、個々の商品を独立して利用することも可能だという。

興味深い開発であるが、特に驚くべきサービスではないだろう。Googleのアドテクにおける独占状態を考えると、他のエコシステムに踏み出すのは時間の問題だったからだ。

Google Analyticsは大小を問わず、マーケターにとって長い間人気のツールである。しかしながらGoogle Analyticsプレミアムは単独、且つ有料の分析パッケージとしては他の競合と比べると少しだけ見劣りがした。Google AnalyticsプレミアムにGoogleの新機能や機能拡張を組み合わせることは、多くの広告主にとって魅力的に映り、Adobe、Oracle、Salesforceといった新たな競合に対しても競争力のあるサービスとなるだろう。一方の競合は、このサービスを恐れているかというと、そのようなことはないであろう。

企業にとって分析ツールを導入することは大きなことで、通常インフラの変更や時間、お金、リソースの面で大きな投資を要する。企業はマーケティングスタックを即座に導入完了するようなことはないのである。調査、分析、テスト、インサイトなどの項目は広範囲に用いられ、一つの商品が利用されることが通常である。これらを考えると、企業が現在利用しているエンタープライズ分析SuiteからGoogleのサービスに乗り換えることは考えづらい。

Google Analytics 360 Suiteが市場に変化をもたらす点は、現在多くの広告予算をGoogleに投資し、様々なツールを利用してGoogle広告効果を分析している様な企業におけるそれぞれのサービスの利用拡大ではないだろうか。実際Googleのメディア予算に占めるシェアは容易に向上することが予想される。Facebookのような競合が、アドテク分野から抜け出し、先日発表があったようにDSPを自身のAtlasサーバー上に展開するような中、Googleはよりアグレッシブな立場にたつことになる。

Google Suiteは完全なオープン性を保っているということだが、それぞれの機能で異なるサービスを利用している企業にとっては、この新たな提案についても大きく影響を受けることはないだろう。メディアバイイングについてのバイアスを嫌う場合は特にである。更にSuiteの個別6つの商品それぞれを見てみると、Googleにはそれぞれ高い競争力を持つ競合が存在する。その為、Googleが簡単に市場を席巻するとは考えづらい。

我々はMedia iQ社、Visual IQ社、Greenlight Digital社、Sizmek社及びthe7stars社のそれぞれの業界リーダーに対して、Googleの最新製品リリースについての印象を聞いた。

相互接続性について懸念あり

「これはGoogleが後発による利点を利用する新たな例と考えられます。このサービスの最も興味深い点は、マーケティングテクノロジーの広い応用分野において一つのサービスで展開が可能な点です。Googleはもはやオンサイト分析やタグ管理などの細かな分野での競争を考えておらず、マーケターがどのようにしてマーケティングコミュニケーションや効果測定を管理するかという点に集中しています。相互接続性に関しての古くからの懸念は今後も続くでしょう。全てのデータを一つの会社のサービスを用いて管理するということによって、コミュニケーションをどう改善すべきか、消費者のエンゲージメントを高める為にどのようにメディアを利用し管理すべきか、といった点を知ることができ、利害の対立を防ぐことに繋がります。ツールセットが簡単で、拡張も容易な場合には問題は少ないでしょう。このサービスの提供によって多くの企業が脅威にさらされ、競合がどのような反応を示すのかは、非常に興味深い点です」。

– Paul Silver氏, Media iQ社 COO

企業は全てのデータをGoogleへ公開が強いられるのでは

「Googleの新たな360 Analyticsによって、マーケターが多くのアプリケーションを利用できる様になる一方で、全てのサービスを利用する場合に、企業は全てのデータをGoogleに公開することが強いられます。Googleは以前と比較してより多くのデータへのアクセスが可能になります。この点は業界における信頼問題へと繋がるでしょう。というのは、企業側は明確でバイアスのかかっていないマーケティングパフォーマンスを確認したい一方で、Googleはデジタルメディアの販売を担っており、企業の希望に合致しているかは疑問です。最も考えられる結果としては、ブランド企業が多くのメディア予算をかけるよう誘導しない中立的なマーケティングパフォーマンスを提供するベンダーにより着目するのではないでしょうか」。

– Manu Mathew氏, Visual IQ社 共同創業者兼CEO

市場のゲームチェンジャー

「マーケティングは顧客との全ての鍵となるタッチポイントを所有することに進化してきました。これはメッセージアプリであってもソーシャルメディアのポストを通じたコミュニケーションであっても同様です。長い間、マーケターはこれらのチャネルからのデータを統合できるようなサービスを求めていました。Google Analytics 360 Suiteは最適な商品です。この商品はゲームチェンジャーとなる商品で、全てのチャネルにおける顧客に対してシームレスな経験を提供することができます。Googleのオールインワンソリューションによって、マーケターは全ての利用可能なデータを把握することが可能になります。周囲の雑音を消し去り、消費者が長く求めているシームレスな経験を提供することが重要です。分析及びコミュニケーションの相対的なアプローチは、業界に革命をもたらし、多くの問題を解消してくれることでしょう。」

– Andreas Pouros氏, Greenlight Digital社 共同創業者兼COO

Facebookとの競争の激化

「アドテクとマーケティングテクノロジーの融合ペースが早まっています。そのため、Googleがエンタープライズ分野に更に踏み込み、既存・新規を問わず究極的にクライアントへのコミュニケーションの全てのプロセスに介在しようとしている点については驚きではありません。この動きは顧客の動きを常に管理するという点において、Facebookとの一層の競争になるでしょうし、OracleやAdobeなどの既存の企業ソリューションプロバイダーにとっても大きな競合となるでしょう。企業にとっては大きなジレンマとなります。エンドエンドのサービスを一つの企業から受け入れることが容易になる一方で、(メディアの購買をも担う)一つの企業からのデータのみを信頼するようになる点では葛藤があるでしょう。メディア利用の効果を測定する面でも同じことが言えます。 独立したテクノロジーマーケットプレースにおいては、企業がシステム間のデータのスムーズな移行や相互接続性を保った製品へのニーズが高まる一方で、ブランドがデータの管理及び支配権を保ち続けることへの新たな需要が生まれるでしょう」。

– Ben Walmsley氏, Sizmek社, 北ヨーロッパリージョナルVP

企業シーンにおける魅力的なオプション

「それぞれでみるとGoogle Analytics 360 Suiteのそれぞれの製品は革新的とは言えません。実際のところ、これら個別の商品がどれだけ既存の競合製品に立ち向かえるかは大きなテストと言えます。アトリビューション、最適化、分析に関する商品はすでに多く存在しています。しかしながらこれら全てを統合し提供している点は非常に革新性に溢れています。またこのサービスによって、Googleは完全に閉じられたエコシステムへのさらなる一歩を踏み出したと考えられます。既存のAdWordsやDoubleClickなどのGoogle製品を統合しつつ、データ管理における間接費や複雑な処理を省くことで、360は企業用途における非常に魅力的なオプションとなるでしょう。

– Callum Adamson氏, the7stars社

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。