市場に大きな変化をもたらす在庫予約型固定単価取引
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
プライベートマーケットプレースの次の進化と言われる在庫予約型固定単価取引 (Automated Guaranteed)については考えられていたよりも少し時間がかかっているものの、ここ数ヶ月で大きな盛り上がりを見せている。RubiconProject社 mobile marketplace international のVP、Steve Wing氏はExchangeWireに対して、成長の経緯及び将来的な潜在性について語ってくれた。
最近、Googleによるパブリッシャー及び広告主へのプログラマティックギャランティード(Programmatic Guaranteed)の提供予定が確認されたが、これは世界的にデジタルメディアのプランニング、バイイング及びセリングが、全ての形態において自動化に向かっていることを示す好例である。また、メディアオーナーやバイヤーたちからは既存のプログラマティックを利用した活動を補完しさらに広げるために保証サービスを求める声が高まっている。
この背景を理解するのは難しいことではない。在庫予約型固定単価取引は、全ての形態の買手と売手に対して、発見からRPF(提案依頼書)、交渉、配信に至る全ての直接的な販売プロセスを自動化する影響力の大きな取引方法である。全てのことが一つの場所で自動化されるのである。時間がかかり、間違いが発生しがちで、保守的であったマニュアルプロセスを過去のものに追いやる可能性のあるソリューションである。
在庫予約型固定単価取引は過去の取引方法に加えて多くの要素を含んでいる。これはオープンオークション及びプライベートマーケットプレースにおけるプログマティック広告のような、現在まで盛んに行われているものの保証がされていなかったサービスを大きく補完するものである。
在庫予約型固定単価取引の現場の能力及び潜在性を理解するためには、このソリューションが現在までどのように進化してきたいのかを知ることが重要である。この取引は直接販売を如何に改善していくかという側面だけではなく、我々が知っている広告そのものを再定義する技術的な革命としての側面も備えている。
オンライン広告が90年代後半に大きく成長していく間、デジタルメディアのバイイングプロセスは皮肉なことに、今までの他の広告サービスのバイイングと変わらない非デジタル的な方法で行われてきた。RTBによって市場での取引方法は根本的に変化し、広告主は今までの特定のサイトからインベントリを予約する方法から、特定のオーディエンスをターゲット化するために行動データを用いるように変化していった。
プログラマティックが急激に成長し、市場をより効率的なものに変えていく中で、一つのソリューションだけでは全ての場合に適合しないことも明らかになってきた。オープンな市場取引は全てのケースに当てはまるわけではなく、プライベートマーケットプレースの形態を好むものもいれば、独自の販売ニーズに合致するような、より複雑なソリューションを欲するものも現れた。
在庫予約型固定単価取引は多くの点で取引形態に変化をもたらした。まずは在庫を保証するという点においてである。広告主は予め決められたCPMに基づいて、前もってプレミアムインベントリを独自のフォーマットにおいてバイイングすることが可能になった。一方で、パブリッシャーは初めて将来的に行われるキャンペーンについて在庫保証を提供することが可能になった。ここでいう将来とは、来週かもしれないし、来月、または来年の保証も可能である。次に、集権的なバイイングによる効率化が挙げられる。そしてもう一つは、バイヤーにプレミアムオーディエンスを提供できる点である。プレミアムパブリッシャーの持つインベントリに対して高度なターゲット化を行うことも可能である。
ちょうど先月、我々はExchangeWireリサーチとともにグローバルモバイル広告リサーチレポートを発表し、モバイルの在庫予約型固定単価取引の展開状況についても取り上げた。今年、89%のEMEA地域のモバイルバイヤーが予算をプレイベートマーケットプレース(PMP)に対して費やそうと考え、1/3のエージェンシーがモバイル向け予算の40%をPMPに振り分けるつもりだと回答した。より革新的なエージェンシーや広告主は在庫予約型固定単価取引にモバイルの予算を振り分けはじめている。彼らはPMPのように個別の取引を自動化する一方で、事前に決定された価格においてインベントリを保証する形の取引に目を向けている。我々は現在二つの明確なトレンドを目の当たりにしている。消費者のモバイル利用と自動化されたプログラマティック広告の急激な成長である。
在庫予約型固定単価取引の潜在性は「伝統的な」デジタル広告の世界のさらに先を行く可能性を秘めている。在庫予約型固定単価取引はデジタル広告におけるワークフローの効率化に留まらず、全体的な広告のエコシステムにおけるメディア取引プロセスを大きく変化させる可能性がある。
例えばRubiconProject社は英国最大のOOHメディア取引のプラットフォーム事業を行うBitPoster社と2015年9月に戦略的なパートナーシップ提携を行ったが、これにより彼らのネットワークに在庫予約型固定単価取引をもたらすことが可能になった。さらに最近の事例でいうと、テレビ視聴者への活用事例があげられる。Media Properties Holdings社のAdMore事業との提携により、米国において広告主に1億を超えるNielsen社のモニター視聴者でもあるテレビ所有家庭へのアクセスを提供することができるようになった。
伝統的な広告方法への自動化テクノロジーの採用は、全てのメディアタイプの進化へと続いていく。潜在性を考えると、まだ表面をかじりだした程度の話にすぎない。
今後より多くのマーケターがクロスデバイスやセカンドスクリーンを通じた消費者との結びつきを求めるようになる。在庫予約型固定単価取引のプラットフォーム内で、アウトオブホーム、デスクトップ、モバイル、伝統的なテレビに至るまで様々なメディアフォーマットのターゲット、交渉、購入を行えることは、産業のゲームチャンジャーと成りうる可能性を秘めている。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。