AOLインターナショナルトップに聞く-Google、Facebookに対抗していくためのグローバル戦略- [インタビュー]
メディア部門とアドテクノロジー部門を擁するAOLは、広告会社などの買収を重ねてグローバル展開を推進してきた。昨年の米通信大手Verizon(ベライゾン)による44億ドルの買収や、マイクロソフトとの提携など、AOLを取り巻くビジネス環境は激変している。マイクロソフトの広告事業部門に在籍していた社員はAOLへ移籍し、広告事業にも本格的に参入。今年、日本でも新オフィスを作り組織の強化に努めている。今後、グローバルや日本でどのような戦略を描いているのか。海外統括のGRAHAM MOYSEY氏に語っていただいた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
2015年はAOLにとって躍進の年
―ご自身のこれまでのキャリアについてお聞かせ下さい。
デジタルメディア、デジタルテクノロジー業界に20年ほどおりました。まずカナダの大手通信会社、そこからベンチャーキャピタル、インテグレイテッドメディアなどを経て5年ほど前にAOLに入社しました。
―昨年から去年にかけて、貴社のビジネス環境は大変化したことと思います。ベライゾンによる買収などで、貴社の環境はこのように変わったのでしょうか。
2015年は本当にAOLにとって大きな躍進の年でした。グローバルなコンテンツブランドになり、拡張性のあるプラットフォームを築いていく上での必要な投資が実行されたと思います。
Verizonによる買収は、本当に驚くべき素晴らしい出来事でした。我々がグローバルプレーヤーになるために、あれだけの投資をしてくれたことには本当に感激しています。
マイクロソフトとの戦略提携は、グローバルにおいて9地域の市場規模を迅速に拡大する効果をもたらしましたし、優秀な人材も獲得できたと思います。
もうひとつはMillennial Mediaの買収です。これで戦略的なモバイルの一手である、アプリ内のインベントリの進化を深めることができました。これらの提携や買収によって、社員総数は615名も増えましたし、サービスのユニークユーザー数が3億から7億へと増えました。米国以外の市場も拡大を続けています。
巨大組織ではコミュニケーションが最重要
―非常に大きな組織になりましたが、新しい組織作りはどのように進めていらっしゃるのでしょうか。
いろいろなことを学びましたが、コミュニケーションが一番大事です。意思疎通が成功のテコです。Millennial MediaとMicrosoftとVerizon、これにAOLの4つの文化が一つになった訳です。そのため、共通の目標を持って、戦略的意思決定は適材適所に任せるようにしています。
グローバルでは、その国にあった製品や商品を厳密に考え、意図的にしっかりコミュニケーションをとるようにしています。この8か月間はいろいろな経験の共有が進み、大成功だったと考えています。
―日本で分散されていた各事業部門のチームを今回一つのオフィスに統合されましたが、他の地域でもこのような動きがあるのでしょうか。
意思疎通が大切なので、チームが一緒にいることが大切です。カナダではすでに実行されています。これから数か月の間に英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ブラジルと進めていく計画を立てています。
日本のAOLはフルスタック市場
―地域ごとの事業の状況と、日本の位置づけについてお聞かせください。
AOLの戦略として、コンテンツとテクノロジーの2つにフォーカスしています。日本は両方の資産がフルスタックで備わっている市場ですので、戦略としてはコンテンツからアグリゲ―ションしたデータを、ファーストパーティのテクノロジーにフィードして利益を上げる、という方針をとっています。
欧州、北米は既に成熟している市場ですので、日本を含むAPAC地域という成長市場をこれから特に大切にしていきたいと考えております。
モバイルと動画広告市場の成長を確信
―グローバルで、ディスプレイ広告とビデオ広告の領域でプログラマティックビジネスの動きが進んでいます。この市場環境をどう認識し、どのような戦略をお考えでしょうか。
この業界の特徴として、とても変化のスピードが速いことが挙げられます。この動きに対応すべく、モバイル動画とビデオに我々も相当の投資をしていますし、今後も続けていきます。その理由はユーザーのふるまいがモバイルと動画に移行しており、広告支出もそちらに移行しているからです。
AOLはマルチデバイス/クロススクリーンで表示できるようにするコンテンツと、さらに広告配信のトラッキングを全画面で可能にするビジネスをやっていきたいと考えております。モバイルと動画はこれからも成長を続けると確信しています。
―インストリーム広告とアウトストリーム広告の2種類がありますが、グローバルでみた場合に貴社はどちらによりポテンシャルを感じて、投資比重を高めていますか?
我々は両方に投資しています。アウトストリームは今のところインストリームより多いのですが、だからといってインストリームが重要でないということはありえません。技術的には両方に対応できるように備えています。
―まだ流れを見定めるには早すぎるということでしょうか。
そうですね。ユーザー体験がプラスに、ポジティブになるところに投資をするのが我々の戦略です。いろいろなフォーマットがありますが、リッチメディア、ターゲティングされていること、レリバンシーが高いことを重視しています。今後も広告フォーマットや動画はどんどんかわっていくでしょう。ですから、ユーザー体験がベストになるものにこれからも投資をしていくつもりです。
アドブロックにはユーザーとのバリューエクスチェンジの実現により対応
―グローバルでも課題になっている、アドブロックなどに対するソリューションは何かお考えでしょうか。
2つの切り口から対応しています。ひとつは純広告です。リッチメディアを念頭においた投資を強化し、それによってユーザーに(広告を見たくなるような)おもしろい体験を提供していきたいと考えています。2つ目はデータです。ユーザーと1対1の関係、つながりを作っていけるような投資をしていきます。
アドブロックの議論については、ユーザーとパブリッシャーとの間で機能するバリューエクスチェンジ的なマーケットプレイスが出来上がれば対処できます。最も価値あるデータにアクセスでき、ユーザーにとって最も重要な広告だけが送られるような仕組みにする。アドブロックが話になるのは、それをユーザーが選んでいるということで、つまり現在の広告に非常に不満を持っているということです。期待にそぐわない、という意思の現れとも言えるでしょうか。リッチメディアの美しい広告に投資し、1人1人に最適のターゲティングをされた広告にも投資をしていく予定です。
―欧米で一般的に認識されている、広告主のプログラマティック対応のトレンドについてお聞かせ下さい。広告主が代理店を通さずにインハウス化が進み、直接ダイレクトに投資する動きがある、と言う話と、そうではないという話の双方があります。いかがでしょうか?
インハウス自体は確かにありますが、代理店は存在意義があると考えています。データが新しい価値になるからです。つまりエージェンシーとクライアントがデータを共有化し、双方がそこから利益を上げられれば両者の協業は成り立つ訳です。
社内で堅牢なプログラマティックなものを、広告主と一緒に作る例はあるにはありますが、今後も代理店モデル自体は維持され続けるのではないでしょうか。
GoogleやFacebookへの対抗手段は、コンテンツとテクノロジーへの投資とオープンエコシステムの構築
―今後グローバルでGoogleやFacebookと競争してく上で何を重視していらっしゃいますか。
データに関してのAOLの戦略は、ユーザーのアセットから得られたファーストパーティ-のデータを活用する、というものです。この戦略は非常に成功しています。米国内ではVerizonの傘下に入ったことで、同社の端末から得られたデータを技術プラットフォームに乗せて活用することで他社との差別化を実現しています。
AOLはコンテンツとテクノロジー両方に投資をしていきます。テクノロジーの強みでいろいろなデータを作って、代理店などと共同で制作して商品化、配信していく。これはFacebookやGoogleにはできない大きな強みと言えます。また当社はオープンなエコシステムを常に標榜してきたのも、この2社との差別化要因の一つとも言えますね。
日本市場は今ある資産を最大限に活用
―今後のグローバル戦略と日本の戦略について、ローカライズの視点なども踏まえてお聞かせ下さい。
グローバル戦略はやはりコンテンツとテクノロジーの投資です。もう一つは動画とモバイルにフォーカスする、という点です。
日本市場は(オフィスが一つになった)今日が一つのきっかけになると思います。短期及び長期的に、日本の広告スタックをうまく活用していくいことが日本における重要な戦略です。このオフィスの中には、動画のプロダクションルームも備えてわっています。ここで動画コンテンツなど作ってくことができるようにするために、設けました。こうした資産をうまく使って今後はビジネスの成果につなげたいと考えています。いまある資産を、着実に成果につなげていくということです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。