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オンラインセールスだけにとどまらないeコマースの可能性

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

オンラインからオフラインへの購買行動と、その逆のオフラインからオンラインへの購買行動は、効率的な顧客獲得方法を新しく探す上で挑戦しがいのあるeコマース 分野だ。HookLogic社主催で最近行われたパネルディスカッション形式のイベントでは、eコマースについて、またオンライン販売が依然として発展途上であることについて、ブランドとマーケティング担当者が熱のこもった討論が行われた。

Heineken社、Nomad Foods社 (Bird’s Eyeブランドのオーナー)、iProspect社、Criteo社等の企業を代表して出席したパネリストたちは、eコマース部門内の様々な課題 (モバイルデバイスの大幅な成長、ブランドとその小売業パートナー間の透明性、実店舗の取引データを効果的にリンクバックしてオンラインからオフラインへの戦略を策定する能力等)に言及した。

ECブランド は、オンライン販売を推進することと、オフラインで販売を済ませる顧客向けにオンラインでの利用を推進することをはっきり区別すべきであると感じている。鍵となるのは個人向けカスタマイズだが、オンラインでの関わりを店舗での取引に結び付ける処理が、業界全体でコンセンサスを得られるように、消費者への教育が必要となる。

Criteo社の EMEA 北部地域担当マネージング・ディレクター Jon Buss氏が紹介したArgos社は、実店舗を訪れた顧客に、レジでeメールアドレスの提供をお願いすることで上記を実現した。これによりArgos社では取引レベルのデータを把握し、eメールアドレスを暗号化して、匿名のファーストパーティオーディエンスを構築し、カスタマイズしたメッセージを配信できるようになった。これはArgos社が実行して大きな成功を収めたリザーブ (予約) & コレクト(収集) モデルの拡張版であり、このおかげでArgos社ではオンラインとオフラインを効果的に結ぶことに成功した。実店舗の顧客はeメールアドレスを提供することで、レシートの電子化というメリットが得られる。ただし、消費者の信頼とロイヤルティを維持するには、消費者にeメールアドレスのビジネス価値を知ってもらうことが不可欠であるという点でパネリストたちの意見が一致した。

パネリスト全員が賛成したのは、モバイルデバイスの普及度と、消費者がモバイルデバイスを取り扱う方法に注意を払うのが非常に重要だという点である。消費者は毎週のオンラインショッピングをPCのデスクトップで済ませるが、「途中で」モバイルデバイスを使ったショッピングもする傾向がある。その利用行動に基づいて、個人向けにカスタマイズされた関連性のある適切なユーザー体験を提供することが重要である。HookLogic社のCEO Jonathan Opdyke氏は、米国でのモバイル利用のトレンドは減速する気配を見せておらず、サンクスギビング(感謝祭)の午前中にはモバイル通信量が70%に達したと述べた。有料メディアiProspect社のディレクター David Hutchinson氏もこれに同調し、モバイルファーストの戦略を採用しているブランドはこの分野の最終的な勝者となるだろうとコメントした。ブランドにとって重要なのは、モバイルを単に新しく追加されたデバイスとみなさず、モバイル利用が条件次第でどのように変化するかを理解し、それがブランドのために最大限に利用できる方法を考え出すことだ。それも、顧客にうるさがられたり、顧客の生活の邪魔になったりすることのないように行うことが肝心である。

モバイル分野での個人向けカスタマイズと、顧客と物理的な店舗場所の距離に基づいて消費者をターゲティングする機能については、多くのブランドがテスト中だ。上記の能力がモバイル戦略の主要な部分になるまでにはまだ時間がかかるという点についてはパネリスト全員の意見が一致した。その一方で、モバイル店舗 を対象としたモバイルロケーションターゲティングとその効果について、若年層の顧客に対して、購買時に新しいSnapchatフィルタという謝礼を渡しているSubway社の事例などを用いて紹介された。

この場合も、このメディアの有効性を最大限にするうえで重要となるのが消費者への教育だ。Criteo社のJon Buss氏は、的確な個人向けカスタマイズの実現にはまだ時間がかかると述べたが、それが2016年の主要な戦略となる点については皆の意見が一致した。Buss氏によると、このことを実現するには消費者を理解し、個々の購買履歴を結ぶことで線として全体的に見ることが必要になる。

HookLogic社 ヨーロッパ担当マネージング・ディレクター Ben Cooper氏は、ブランド主導の広告主が自分たちのブランド戦略をいかにしてeコマース戦略に変換できるかについて関心を示した。eコマース企業グループNomad Foods社を統括するFrancis Nicholas氏は、eコマースではオンラインとオフライン両方で販売を推進できるため、自分たちはeコマースを販売網と広告媒体の両方として見ていると述べた。実店舗での販売は定量化が難しいが、オンラインとオフラインはどちらも同じくらい重要であり、オンラインでの支出がどのようにしてオフラインでの売り上げに変換されるかをある程度理解しておくことが不可欠になる。

Heineken社のオンライン&デジタル開発マネージャーであるNicola Harrison 氏もCooper氏に賛成し、Heineken社では自社ブランド戦略とeコマースのマーケティング活動を積極的に結び付けようとしているが、それは自社ブランド戦略とeコマースで重なりあう部分がますます増えているからだと述べた。彼女はまた、オンラインは販促チャネルとして非常に重要であり、オンラインを自社のマスメディア広告と結びつけて、認知度を高めるだけでなく全社的に販売を推進していくことが出来るとコメントした。

有料メディア iProspect社 のディレクター David Hutchinson氏は、ブランドとその小売業パートナー間の透明性の課題について言及した。ブランド企業が、小売業者のデータやマーケティング戦略から得られるインサイトがほとんど無い点に彼は言及した。ブランドは自社の小売業パートナーに共同広告のための予算を提供しているが、その予算がどう使われたかについて小売業者がブランドに報告する義務はない。製品をどのように販売し、自社の見込み客をどのように獲得するかについてほとんど何もできない状態で、オンラインとオフラインで製品の販売戦略を効率的に管理するのは至難の業だ。このことについてはパネリスト全員が同じ所感であり、この習慣は変える必要がある。

最後に、HookLogic社主催のこのイベントにより、現在のeコマース業界で働くことが非常に刺激的であることが明らかになった。eコマースの発展スピードがイノベーションを推進し、広告主間のインフラの完全な変化に拍車をかけており、常に変化し続けている顧客の購買行動に対応できる態勢を確実に整えられるようになっている。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。