何故モバイルはアドテクイノベーションが起こる寸前であるのか -そして絵文字アドネットワークについて
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
2/22週はモバイル業界にとっては重要な一週間だ。何千人ものモバイル業界のオピニオンリーダーや経営幹部、ジャーナリストが、モバイルに関わるあらゆるものについて丸一週間議論するためバルセロナに集まる。
ハードウェアが嵐のごとく発表され、業界リーダーがハイレベルの基調講演をする中 (Zuckerberg氏がまたもやキーノートスピーチを担当)、アドテクは今回もこの展示会ではしかるべき注目を集める代わりに脇役の座を担っている。
MWCでは「脇役」しか努めないが、アドテクはモバイルンコンテンツの収益化では決定的な役割を果たしている。現在の苦しい状況を考えると、これは業界にとって極めて重要である。
ここ数か月の間モバイルにフォーカスしたパネルの司会を何度か行ったが、業界がデスクトップ以外でGoogleやFacebookに対抗する方法を見出せずにいる印象を受けた。
多くの代理店はモバイルをうまく利用できず、代わりにFacebook経由でモバイル広告を購入することを選択している。
サプライサイドを見ると、パブリッシャーは引き続き安価なCPM課金のため経済的に困難な状況に苦しめられている。
状況はゆっくり変わりつつある。しかし、パブリッシャーにとってモバイル広告事業はいまだに厳しく、多くはより手っ取り早い解決策を切望している。
Instant Articlesのようなクローズドコンテンツの提供の増加はこの最たる例である。逆境に直面し、パブリッシャーは考えられないようなことを容認している。コンテンツ配信を大きく対立する大手メディア企業にアウトソースし、ユーザーとの直接的なつながりを断っているのである。
このような暗澹たる状況にも関わらず、現在モバイルの領域では多くのイノベーションが起きており、アドテクはこれら業界の悩みを解決するのに適当なポジションにいることを示唆している。
この記事では最近起こりつつあるトレンドを検討し、MWCウィークの今、どうしてモバイル領域はアドテクイノベーションが起こる寸前であるかを説明していく。
デバイスグラフ
ファーストパーティーの支配領域はモバイル広告費の最大部分を占めている。これは主にそのログインユーザー達による決定的データによる。
拡張したファーストパーティーソリューションがない中、業界の残りの企業はFacebook、Google、Twitterが占めるマーケットシェアに食い入るのに苦戦している。
確率論的モデルは、多少偶然によるところがあるが、トラクションを増しつつある。代理店は分断され、ウォールドガーデンによる制限されたエコシステムでは、Facebook、Google、Twitter間の相互運用性を欠いており、クライアントのKPIを満たすのに役立っていないことに今や気付いている。
デバイスグラフはクロスデバイスの難問に対するアドテクの解答であり、業界がファーストパーティーの支配領域に対抗するのに役立つ可能性が十分にある。最近のTelenor によるTapadの買収や、CiscoのAdBrainへの投資は、テクノロジーの重要性が増していることを強調している。
業界の残りの企業にとって、デバイスグラフは広告主へクロスデバイスをターゲットとする実行可能なソリューションを提供している。このテクノロジーは進化しており、確率的データが決定的データの包囲地域を勝ち取るのはもう時間の問題である。
プログラマティックネイティブ広告の台頭
これはアドテクにとっては大きな機会である。モバイルデバイスの空間は限られており、標準のIAB広告ユニットが収益とユーザーエクスペリエンスの点で効果がないことは明らかである。
アドブロックが一部のインターネットユーザーの間で増加していることは、ユーザーエクスペリエンスが損なわれる危険性について業界にしかるべき警告を与えた。デスクトップコンテンツのマネタイゼーションはモバイルでは上手くいかないのである。
新聞社はいまだに古いメディア企業のように考えている。ほとんどのパブリッシャーは今なおバナー、ポップアップ、そして自動再生の動画広告をマネタイゼーション戦略として利用している。この短絡的なアプローチは、ユーザーをアドブロックソリューションの利用へと追い込んでいる。アドブロックソリューションはユーザーのプライバシーについて引き続き文句を言う一方で、アドテクベンダーを数千万ドルでホワイトリストに載せているのである。
TwitterやFacebookなどのネイティブ広告の成功は、ユーザーを第一に据えた広告体験が大規模でも効果があることを示している。
アドテクはネイティブ広告を拡大し、プレミアムパブリッシャーのカスタマイズした広告ソリューションのプログラマティックバイヤーへの提供を検討すべきである。
もし業界がこれを実現できれば、さらに多くの予算が間違いなくモバイルに流れ込み、パブリッシャーはモバイルのプログラマティックネイティブ広告費を取り込み、その恩恵を受けることができるだろう。
絵文字アドネット
ExchangeWireが最近開催したATS Tokyoのイベントで日本の業界の同業者と話した際に、APAC地域での絵文字のマネタイゼーションについて知ることができた。多くはLINEやWeChatのようなメッセージングアプリでユーザーが利用できる専用のスタンプを販売することを中心に展開している。
広告主はより多くのオーディエンスにリーチを広げることを切望しており、それぞれの「ブランド」スタンプをユーザーに提供するために大金を支払っている。
しかし、このプロセスは結局ブランド名の付いたインベントリを販売する不格好な方法を軸にしている。このような緩やかなブランド指標は日本ではうまくいくかもしれないが、世界ではもっと実績に基づいたものでなければならない。
複数のメッセージングアプリでの絵文字の利用を統合し、具体的なダイレクトレスポンス (DR) 指標を補強するのに使うことができたらどうなるだろうか?
以下はメッセージングアプリやキーボードアプリでの絵文字の利用に関する基本的なDRモデルである。現在モバイルの世界に存在する面白い切り口を示している。そしてアドテクが新しいマネタイゼーションの機会を開拓するのにいかに役立つかを示している。
エモーショナル リターゲティング: The Emoji Ad Net Breakdown
以下、図表の説明(和訳)
1. キーボードやメッセージングアプリでの絵文字利用を統合する
2. EmotiGraphで心の状態を特定の絵文字に紐付ける
3. EmotiGraphとアプリIDデータからDMP上でユーザーセグメントを構築
4. DMPデータをモバイルDSPに送りメディアが購入できるようにする
5. モバイルウェブとアプリでのインベントリ購入
絵文字のマネタイゼーションステップの全容
1. キーボードやメッセージングアプリでの絵文字利用を統合する
AndroidとiOSのオープンAPIのおかげで、利用できるキーボードアプリは数百種類もある。二番目のメッセージングアプリと合わせると、世界の絵文字利用を大規模で統合するチャンスがある。
2. EmotiGraphで心の状態を特定の絵文字に紐付ける
このステップではEmotiGraphを構築する為に言語学の専門家の助けが必要になる。EmotiGraphとは絵文字の利用をその時の具体的な心の状態と紐付ける確率的モデル のことを指す。確実に誤差は生じるが、誰かが絵文字で二日酔いであることを示した場合、BeroccaやKFCなどのブランドはその特定のセグメントを利用してメディアを購入するだろう。
3. EmotiGraphと匿名化したアプリIDデータからDMP上でユーザーセグメントを構築し、メディアが購入できるようにする
ここで提案する本当の価値は、EmotiGraphのデータと匿名化したアプリIDを組み合わせてDMPで構築したセグメントにある。これらのセグメントはプログラマティックメディアの購入に利用される。
4. DMPデータをモバイルDSPに送りメディアが購入できるようにする
ビッディング技術や実行するインフラの多くは既に構築されているので新たに作り直す必要はない。本当の価値はプログラマティックで購入できるよう構築したセグメントにある。
5.モバイルウェブとアプリにまたがりインベントリをリアルタイムで購入できるようにする
絵文字の拡大利用を活用することで、広告主は特定の感情のデータポイントをリアルタイムで狙うことができる。モバイルDSP経由でアプリ内またはモバイルウェブインベントリを購入することで、ブランド企業はモバイルデバイス上でユーザーへ送るメッセージをカスタマイズすることができる。
上記の簡単な例は、モバイルがなぜ今なおアドテクのイノベーションの源泉であるかを示している。
たしかにFacebookとGoogleはモバイル広告業界を独占しているが、収益化という観点では、独立したアドテクプレイヤーがたどることができる興味深い戦略はたくさんある。アドテク業界はこの点において引き続き優れている。MWCのほとんどの参加者は決して知ることはないかもしれないが、モバイルアドテクは今とても面白い領域である。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。