プログラマティックをより多くのチャネルに配信するテクノロジーは既に存在する
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
IABのディスプレイトレーディング協議会の最近の寄稿にて、AOLインターナショナル社の企業戦略部門のトップであるLewis Sherlock氏が、より広い分野へのプログラマティックの適用について議論を持ちかけている。
元々、デジタルディスプレイのインベントリー取引をアドネットワーク経由で実施する考えが生まれた際には、パブリッシャーにとっては売れ残った在庫を電子的に収益化し、エージェンシーにとっては、クライアントに代わりデータを活用してこれらのターゲットに対してインプレッションを稼ぐ手段として捉えられていた。現在、プログラマティックを利用したインベントリーは量的にも質的にも大きく増加している。我々はすでに、デジタルディスプレイ、モバイル、ビデオのインベントリーがマニュアル作業ではなく、プログラマティックによって取引される点においてはティッピングポイントに達していると考えている。IAB UKの調査では、これらの分野でのプログラマティックの活用は2018年までに70〜80%に至る。
現在、より広い分野で広告産業に関わる人々が、プログラマティックによる取引が、全てとは言えないまでも、より多くのマーケティングチャネルに将来的に活用される可能性について興味をもって見守っている。オーストラリアや米国では、既にラジオやテレビへのプログラマティックバイイングの実験が始まっており、同様のことをUKで実施する為の議論がなされている。問題点は、元々のテクノロジーにより構築された遺産をいかに活用するかという点にある。これらは膨大なデータや100万分の1秒ベースでのデータ処理等のプログラマティックに必要な機能を兼ね備えていない。明らかなのは、プログラマティックによる取引が、現在よりも多くのチャネルで活用されるためのテクノロジーは既に存在するという点である。広告主は、全てのキャンペーンが、全てのニーズを満たす単一のシステムを通じて計画され、配信されるようになる日々を待ち望んでいる。彼らが望むのは、アウトドア・テレビ・デジタルのそれぞれ、もしくは全てにおいて、同様のデータ・ターゲティング・アトリビューションが利用されることである。
MediaIQ社のチェアマンであるStewart Easterbrookはこう述べる。「プログラマティックのツールや技術をテレビやアウトドアなどのメディアに適用させるには技術的な困難が付きまといます。一方で、プログラマティックの最も面白い要素は、データから生じるインサイトを知的に活用できる点にあります。よく注目を集めているのは、より正確なターゲティングであったり、より最適化されたユーザー獲得だったりしますが、このアプローチが、より広い意味でメディアコミュニケーションにおけるブランド測定であったり、顧客とのインタラクションといった分野に活用できない理由は全くありません。短期的な技術的問題は解決されるべきで、一方で、クライアントは彼らにとっての成功をどのように測るべきか再度検討すべきでしょう。しかしながら、この変化により、あらゆる角度からより情報を活用したメディア展開を実現できる世界が確立されるのです」。
これによるインパクトはどのようなものであろうか?プログラマティックバイイングのような科学的な方法が、このような機械的な方法で配信されるキャンペーンのクリエイティビティの品質にどのように影響を与えるのか、という議論が活発に行なわれている。私の考えは、機械は人間よりも、データの売買や、クリエイティブを正しい場所、時間、オーディエンスに配信する能力においては遥かに優れており、データ配信の結果からクリエイティブを最良化し、ターゲティングを精緻化できるようになる、というものだ。しかしながら、極論を述べるとこれは人間のプロセスにおける役割が変わるだけで、決して人間に置き換わる作業ではない。データが改善されれば、広告クリエイティブも改善される。広告主はトレンドやインサイトについて、より分析を深めることで戦略的なアプローチが可能になる。クリエイティブをテストしたり、それらが機能する限られたユーザーにのみ配信を行い、優れたユーザーエクスピリエンスを提供したりといった自由を得ることができる。スケール感を伴ったパーソナライゼーションである。テレビを含むデバイス間およびオフラインの同期化が解決すべき最大の課題となるだろう。
マーケティングチャネルにおけるバイイング、セリング、アトリビューションなどの過程におけるプログラマティックの適用によって、業界はより上手に且つ賢く、買手・売り手・消費者・全てのメディアを含めた全てに対して、より大きなリターンをもたらすことが可能になるだろう。
Radium One社でアカウントマネージメントを率いるCaioimhe Cox氏は、次の様に述べる。「我々が、消費者に対してよりカスタマイズされたクリエイティブを届けることができる様になると、メッセージが配信されるプラットフォームについても目を向ける必要があります。2020年には500億のネット接続デバイスが存在し、1人あたり26個のデバイスを所有すると予想されています。ブランドがこのような新しい世界でどのようにエンゲージメントを高めるかについては、ストーリーが描かれていません。プログラマティック配信及び取得データ量の高まりにより、コネクテッドな状態にある消費者については、より理解できる様になりました。しかしながら、複数のプラットフォームでどのように消費者を特定し、接していくのかという問題は残っています。今こそ単一の顧客視点というのを構築する必要があります。これによって、より適切なメディア配置を行うことができ、より優れたブランド体験につながっていくのです」。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。