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Now & Next: SDKの潜在性について

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Now&NextはExchangeWireのリサーチチームにより取りまとめたコラムである。3週間に一度、最新の調査を振り返り、現在のトレンドと将来の広告やマーケティングの未来に関しての予想と分析を行っていく。今回はソフトウェアデベロップメントキット(SDK)について紹介する。

このトピックスに関して調査を進める際に、オンラインアドテク業界の多くの人々に彼らのSDKに関しての理解度を尋ねてみたが、この記事を書く前の筆者と同様に、非常に多くの人がSDKをモバイル開発に関してだけのものと考えているようであった。

SDKの簡単な紹介について

ソフトウェアデベロップメントキット(SDK)によって、開発者は(AndroidやIOSの様な)ソフトウェアパッケージや(LGやサムソンの様な)ハードウェアプラットフォーム、他の開発プラットフォーム向けにアプリケーションを制作することが可能になる。Androidのアプリ開発時に(iOSアプリではなく)、開発者はSwiftではなくjavaで書かれたSDKが必要になり、MSウィンドウズ向けのアプリでは.netが必要になる。

SDKはアプリ内にインストールされ、分析や活動データについての情報を提供するのに利用される。GoogleやFacebookはこのような活動を行っており、AppAnnieのような小規模の独立企業も同様の作業を実施している。

SDKはライセンスが付随しており、SDK管理者のプラットフォームやソフトウェア以外でのアプリケーションの利用を制限している。多くのSDKが無料でダウンロード可能なことからシステムでの導入を容易にしている。

SDKはアドネットワーク及びモバイルアプリの広告の流れと計測をつかさどる役割を担っている。モバイルアプリにはSDKが予めビルトインされており、それぞれのアプリに流す広告はそのSDKのフレームワークに適用している必要がある。

開発キット以上の役割

SDKはモバイルデバイス用にアプリを開発する事以上の役割をもつツールである。SDKを通じて広告主やパブリッシャーは消費者がコンテンツをどのように利用しているか等様々な機能を利用することが可能になる。

YumeのヨーロッパのGeneral ManagerであるOwen Hanks氏と、SDKがいかにオーディエンス及びターゲット広告配信について計測出来る様になったのか話をする機会を得る事が出来た。

Hanks氏によると、SDKがモバイルアプリの世界においてのみ利用されるようになったのは、世界中でこの用語が共通語になったことが大きいと言う。「AndroidやiOSの開発者ならば、それぞれのSDKに応じてアプリケーションを開発することになります。それによってSDKは一般的なものとなりました」。

「つい忘れられていることですが、SDKは長い間使われており、またウェブサイトのビデオプレイヤーもアプリケーションの一つです。それ故、SDKビデオプレイヤーにおいてもコネクション機能を持つテレビであっても利用可能なのです」

Hanks氏は述べる。「コンテンツが届けられている先にあるツールを利用しているため、SDKによってより適切な情報にアクセスすることが可能になります。例えば消費者の動きや、どの程度ビデオが放送されたか、などの実際のユーザーの情報をより把握することが出来ます。また、ウェブサイト上でプレイヤーが開いたページに留まったのか、プレイヤーはスクリーン上にあったのか、スクロールはされたのか、広告配信においてアクティブタブとタブのどちらの効果があったのか等の観察記録も可能です。ビデオが再生される環境において、どのようなことが起こったのかについてより多くの情報を得ることが出来るのです。」

マーケティング担当者にとっては、モバイルデバイスやテレビなどのデバイスを通じて、トラフィックの品質及びビューアビリティに関してより高い透明度を得ることが出来るようになる。

Hanks氏は、このような理解を深めることは、どの様な広告が消費者に届けられるべきかを考える際に非常に有益だと述べる。「消費者をより理解できる様になると、例えばこの人物は広告の半分くらいを目にしてくれて、スポーツに興味がある人だ、などの情報を得た上で広告を配信することが出来ます。例えば、それならば15秒のスポーツビデオを流そう等の決定が出来るのです。我々は、どのようなビデオをどのようなサイトに流すべきかについてもより理解をすることが出来ます。」

このような消費者理解が得られれば、広告はよりターゲット化され、気味悪がられるようなことも無くなるだろう。ビデオ広告はスケーラビリティの観点からまだ個別にカスタマイズはされてはいない。もし私がサイクリング好きで、犬を飼っており、サイクリングと犬のサイトが好きだったら、そういった情報はSDKを通じて理解され、より適切な広告配信がなされるようになるだろう。

サードパーティのクッキーは本当に長い間利用されてきた。しかしながらクッキーのサンプルは時代遅れで、クリーンな情報とは言えず、いくつもの想像を重ねながら利用した結果、誤った推測だったという事に陥りがちである。またオンライン上の推測作業は、デスクトップ利用のみから、異なるスクリーン機器に加えて、それぞれに異なる利用形態を含む形に複雑化している。SDKにより推測作業が少なくなり、クロススクリーンでのターゲット化の精度を向上させることが可能である。

SDKはPlayStationやRoku、Apple TV、Google TVやアプリケーションベースのストリーミングビデオ機器において用いられている。これらの全てがSDKを利用しているということは、マーケターはこれらの機器のユーザーに関するより優れた情報を入手出来るということである。

Hanks氏はモバイル以外でのメディアのSDK利用は非常に少ないと教えてくれた。彼によると、これはSDK自身の問題ではなく、SDKが常に互換性を保ち、アップデートされ続けなくてはならない点に起因する。Hanks氏はトンネルの奥に光が見えている点に言及する。「エンジニアの時間を必要とする作業であるのは事実ですが、SDKは現在サーバー側から管理をする事が出来るため、アプリ側のアップデートが必要な場合にも多くの作業を要しない様に変わってきています。」

SDKはデバイスIDに100%依存していないため、仮にAppleが過去に行った様にデバイスIDの変更を実施したとしても、SDK側では自身のIDを利用して引き続きトラッキングを行うことが出来る。データを容易に得ることが出来れば、最新に保ち続けるのはより簡単な作業である。

スマートTVと他の接続デバイスについて

スマートTVメーカーはAppleやAndroidと同様、独自のOSを利用している。この事は、開発者がアプリ内のSDKをアップデートしなくてはならないことを意味し、時間とリソースの問題に直面しなくてはならない。しかしながらSmartTVのアライアンスを通じて、アプリケーションの共通化が進んでいくのではないだろうか。http://www.smarttv-alliance.org/

スマートテクノロジーがより多くのデバイスに組み込まれることで、アプリの利用はより一般的になり、メーカー側は標準化のプレッシャーに直面することになる。

YuMeのような会社は、消費者が実際に利用するスクリーンデバイスをまたいで広告を配信する力を持っている。例えば、ある朝電話の代わりにテレビをつけた際には、消費広告主は異なる機器を通じてユーザーにリーチする必要がある。SDKによって、スクリーン毎に予算を割り振り、正しいユーザーにリーチ出来れば良いと感覚的に願っていた現在のアプローチから、より柔軟でリアルタイムターゲティングが可能な形で、このような作業を完了する事が出来るようになるのである。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。