ビューアビリティ(Viewability)の現状を考える
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
ビューアビリティとエンゲージメントは異なるものではあるが、測定としての目的を担っている点では同じである、と語るのはThe Exchange Labの北米オペレーション及びビジネスインテリジェンス部門VPのEdward Lee氏である。
パブリッシャーが、その広告が消費者に見られるかどうかを保証できないのは、テレビ、看板、ウェブのどれであっても同じで広告の常である。しかしながら、消費者が複数のデバイスを使い分け、アドテクが発展を続けるデジタルの時代には、広告主は消費者がオンラインの複数のチャネルでのインプレッション保証を求めるようになっている。
進化は続けているものの、ビューアビリティは技術的な制約で望むべき進化を遂げられていない。現在のIABのディスプレイ広告の基準は、最低でも50%の広告がスクリーン上で1秒以上閲覧できる状態にあること、となっている。しかしながら、キャンペーンにおいて、どの程度広告が見られるのが適切なのかというような基準はなく、Integral Ad ScienceやDoubleVefify等の多くのサードパーティーの検証サービスプロバイダーが、独自のベンチマークを利用している。広告主は広告が100%閲覧されることを望んでいるが、業界がそこに追いついていない。
将来に目を向けると、デジタルパブリッシャーは広告が消費者に露出された量に応じて広告販売を行う様なアイディアに、将来的に徐々に興味を示し出すだろう。The EconomistやFinancial Timesのような出版社は時間軸に応じて広告を販売する方法について既に検討していると述べている。もちろん広告が閲覧されたということで、広告が効果的だったということは出来ないのだが。
もし広告が閲覧されたが、コンバージョンが発生しない場合は、インパクトがあったと言えるのだろうか?広告が閲覧されるということは重要である一方で、ビューアビリティとエンゲージメントを混同しないように気をつけないといけない。広告が閲覧されたかということを知るだけでは十分でなく、消費者が広告と意味ある形で接触をしたのかどうかを計測することが必要である。
消費者は広告を楽しんでいるのだろうか?彼らは目の前に届けられるコンテンツから役に立つ情報を得ているのだろうか?そして、さらに商品やサービスについて情報を調べたいと思うようなきっかけとなっているのだろうか?広告主がキャンペーンからできる限りのエンゲージメントを得ることは重要である。プログラマティックマーケティングにおいては様々な創造性溢れるメッセージをデザインし、クロスデバイスで異なるデモグラフィックスにリーチし、オーディエンスがメッセージにより反応しやすくするような仕掛けがし易くなっている。
近いうちに、広告主がメディアをエンゲージメントによる基準や、消費者がコンテンツを読む、シェアするコメントする等による時間に応じて購入出来る様になるだろう。Adobeの調査によると、インタラクティブな広告は、スタティックな広告よりも高い購入意思につながり、これらのリッチメディアによる広告では、例えばユーザーが広告にマウスを重ねていた時間や、様々なアイテムへのクリックといった、より知的な形での価格体系を提供することが出来る。とりわけ、comScoreの調査によると、ユーザーが広告をマウスに重ねていた時間はクリックよりもコンバージョンのより明確な意思表示と言える。
プログラマティックディスプレイ広告は、世界中の全てのディスプレイ及びビデオ広告支出の31%を占め、約142億ドルもの市場を構成していることは、考慮に入れられるべきである。だがパーソナライゼーションが鍵となる今日においても、未だ広告コンテンツの多くが全体に向けて作られたものである。広告主が、クリエイティビティの実力を発揮したり、正しいオーディエンスにリーチし、彼らの注意を引くことが出来るコンテンツクリエイティブを作る方法を考えたりするには、またとない良いタイミングである。
去年の夏にブラジルで実施されたAxeのRomeoのリブートビデオキャンペーンは非常に素晴らしい例として思い当たるものだ。CUBOCCによって制作されたビデオシリーズはロミオとジュリエットのストーリーを題材に、視聴者の好みによって音楽から話の内容に至るまで10万通りもの組み合わせが用意された。
ビューアビリティは常に広告ファネルの中に存在するものである。ウェブセキュリティ会社のIncapsulaが発表した様に、56%のウェブトラフィックはボットであり、そのうち29%はなりすましやハッキング、スクレイピング、スパムなどによるもので、検討すべき課題である。
パブリッシャーや業界団体は、オンライン広告が邪魔を受けることなく容易に閲覧されるようなフォーマットの検討など多くの取り組みが必要である。ビューアビリティが標準的なKPIになりつつあるのは変化を加速させる非常に良いニュースである。しかしながらビューアビリティは重要である一方で、これは必ずしも必須となるKPIではない。広告主はいつでもスタティックバナーの先にある、彼らのアイディアを実現させてくれるようなテクノロジーに最大の関心を持っている。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。