業界リーダーによる2016年の市場予想
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
オンライン広告市場は消費者及び技術の進化により急速な発展を遂げている。ExchangeWireは業界をリードする企業のシニアマーケティング担当者から2016年の展望について話を聞くことが出来たので、ここで紹介する。
技術の進化により管理が容易で透明性が向上
「ビューアビリティやアドフラウドの問題により、マーケターはよりプログラマティックによるキャンペーンにおいてより良い管理体制を求めるようになりました。結果、透明性が2016年の大きなトレンドになると考えられます。IABは既にプログラマティックにおける透明性の確保についての業界イベントを予定しています。マーケターが、より優れた管理を行うことが出来、オフラインを含む全てのチャネルにおけるアクティビティを一つのプラットフォームで管理出来るようなオペレーションシステムを持ち、望むべき透明性を確保できるようなテクノロジーの進歩が求められています」。
Richard Beattie氏, MediaMath社コマーシャル部門SVP
「新しい年を迎えるにあたって、広告主がより許容できるアドフラウドの範囲についてより多くのリクエストをしていくのを目の当たりにすることになるでしょう。詐欺的なインプレッションは20%程度に抑えられれば良いのではないかという声もありますが、私たちは広告主が翌年5%程度のレベルをリクエストしてくると確信しています。より明確でしっかりとして基準が設定されることで、2016年にはデジタルアドフラウドの広がりについて今までよりも厳格な閾値が設定されるようになると期待しています」
Julia Smith氏、Forensiq社 インターナショナルコンサルタント
TVがより計測可能に
ここ10年もの間デジタル広告への投資が増え続ける一方で、テレビは多くの企業にとって王様であり続けています。メディア商品がより計測可能になるにつれ、マーケターはデータを使って、視聴者の行動やテレビ広告投資の効果性についてより理解を深めるようになってきています。進化したテレビのアトリビューション手法により、テレビのインプレッションデータを細かく集めることが可能になり、マーケターはネットワーク、テレキャスト、放送区分時間などのテレビ広告の属性ごとにテレビのデジタルへの反響に関するインパクトを測定できるようになるでしょう。その結果、マーケターはより細かく、また今までの調査ベースの測定方法よりもより早いテンポで、テレビ広告の購入の測定や最適化が出来るようになるでしょう。
Ben Sidebottom氏、Visual IQ社 ソリューションアークテクチャーディレクター
クリエイティブの自動化
「プログラマティックの進化によりデジタル広告の配信方法が進化し、初めてブランド企業は正しいオーディエンスに、正しい場所で、正しい時間におけるターゲットティングをすることが出来るようになりました。しかしながら、プログラマティック配信が多くの広告主にある意味影響を与えた一方で、広告のクリエイティブは全てのデバイス・スクリーンにおいて最大のインパクトを与えることが未だに出来ていません。
その結果として、多くの広告主がターゲットオーディエンスに対して、デバイスやチャネルに最適化されたコンテンツを届けられず、効果的な消費者経験を提供出来ていません。2016年にはダイナミッククリエイティブ制作の技術が、プログラマティック配信を補足する形で大きく注目されるでしょう。制作プロセスを自動化することによって、広告主は全てのデバイスにおいていつでもコンテンツの潜在性を最大化させることが出来ます。」
Omi Ducat氏、wayve社 ビジネス&クライアントデベロップメントVP
アドブロッカーと新たな広告提案
「アドブロッカーに関する論争の一部として、パブリッシャーはユーザーの「広告体験」についてより大きなコントロールを行うようになります。ユーザーを苛立たせるのではなく、エンゲージを高めるようなUXを提供する為に、広告やフォーマットについてより多くの努力が費やされるようになりました。私たちは広告がよりクリエイティブで、面白く、結果として(少し)適切なものに変化をしていくことになると思います。ページ毎の広告数は少なくなり、CPMの価格は高騰していくことになるでしょう。また、より多くのパブリッシャーが無料コンテンツを提供する代わりにアドブロックを無効化するような動きを行うと考えられます。」
「パブリッシャーやSSPはプログラマティック取引が可能なフォーマットの収集に、より多くの関心を示すようになるでしょう。より大きなインパクトや高付加価値を考えましょう!プログラマティックエコシステムの「こんがらがったWeb」において、新たなフォーマットを提供することはかなり複雑なことで、非常に多くの企業によるテストやプラットフォーム適用への検討が必要となります。しかしこのようなチャレンジは2016年には乗り越えられ、フォーマットの発展が期待できると思います。特にプレミアムパブリッシャーが恩恵を受け、多くのプレミアムフォーマットが“プログラマティックギャランティード”された中でPMPを通じてやりとりされるようになるでしょう。」
「パブリッシャーは昨今Snapchat Discoverと仕事をすることに熱心です。Discoverについて知らない方に説明すると、これはSnapchatのメディアパートナーによりキュレーションされたSnapchat Storiesを提供する機能です。Discover向けにコンテンツや広告を作成する場合に、パブリッシャーは消費者からのアテンションが短期間しか向かないことを念頭に置きながら、視覚性の高いストーリーを作成する必要があります。作成後、モバイルの縦画面に向けて作成された、短いフルページのビデオとアニメーションがスペースを埋めるように表示されます。Snapchatのパブリッシャーによると、これらの縦型ベースのビデオの完遂率は通常の横型のビデオの9倍にも及ぶとの事です。そして、この経験から学んだことを、パブリッシャーは自身の独自コンテンツや広告に活かし始めています。Daily Mailの北米CEOのJon SteinbergはDaily社も縦型のビデオコンテンツを「積極的に」開発していく予定だ、と述べていました。このトレンドは2016年以降も継続して成長し、モバイルコンテンツと広告の形態に大きな変化をもたらす事となるでしょう。」
Lolly Mason氏、Celtra社 EMEAメディアパートナー長
ビデオが次のプログマティックの注目に
「ビデオは確実にプログマティックにおける注目アイテムです。しかしながら、ユーザーへの押し付けを避けるために、広告主及びパブリッシャーはユーザー体験を妨げず、高めるための優れた広告フォーマットについて検討をする必要があるでしょう。ユーザー作成によるビデオは有力なコンテンツで、広告主に広告の実視聴と視聴時間についての優れた洞察をもたらすでしょう。」
「パブリッシャーがクライアントと一緒に魅力的、適切かつダイナミックなコンテンツを作成し、ビデオを贅沢な物語に仕上げる様になるに伴い、エディトリアルと広告の境目は更に曖昧なものになっていくでしょう。」
「2015年にモバイルデバイス向けのプログマティックビデオに大きく投資したGoogleや2015年11月にビデオアドエクスチェンジを立ち上げたChannel4に続く独自のビデオアドエクスチェンジを行う企業が現れることになるでしょう。」
Lisa Menaldo氏、Sublime Skinz社 UKマネージングディレクター
「テレビは世界的な広告市場の中で引き続き大きなシェアを持ち続けることでしょう。テレビからデジタルビデオへの投資のシフトは、ある一点によりスローダウンしています。それは「リーチ」です。サイロ化された競合同士が競い合う現状ではテレビの圧倒的なリーチに届くことはまずないからです。」
「リーチや、意思に応じた閲覧、エンゲージメント、ターゲットなどデジタルビデオの潜在性を十分に生かすには、マーケターはYouTube、Facebook、Instagramなどの主要プラットフォームを組み合わせて考える必要があります。それぞれのプラットフォームの強みを生かし、全体的な購入サイクルに結びつくようなクロスプラットフォームのビデオキャンペーンが、テレビと広告の未来を結びつけるアキレス腱となるのです」
Chris Bennett氏、Pixability社 EMEA MD
「ビデオ広告はプレミアム広告フォーマットの先頭に立ち、パブリッシャーはエディトリアルコンテンツに上手く織り込まれたネイティブフォーマットに注力していくでしょう。私たちはしばしば、日常生活のコンシューマージャーニー全体を、全てのデバイスを跨がって物語を伝えていく「ネイティブモーメンツ」をエンゲージすることの必要性を目の当たりにするでしょう。広告主とパブリッシャーは同様に、プレミアムコンテンツに視覚的にフィットするビデオ広告を提供することでユーザーの取り合いを続けることになります。世界の広告が消費者の目の前にデビューを果たすことになります。」
「何年もの間、消費者をピンポイントでターゲット化する為に、どの様にデータを利用すべきか議論してきた一方で、どの様にデータを利用すればブランド企業はより適切でインパクトのあるクリエイティブを届けることが出来るかという議論は殆どしてきませんでした。私はデータがデジタルクリエイティブ産業における革命を産み出し、今まで見たことのない様なクリエイティブのメッセージとフォーマットを生み出してくれると考えています。」
「私たちが話を聞いた大手メディアグループのマネージャー達から15-35%のオーディエンスが広告をブロックし、彼らの収益機会が失われていると述べていました。実際アドブロッカーの利用ユーザーは最近まで増えており、5人の1人の英国の成人がブロッカーを利用しています。「アドブロッカー」という単語がオックスフォード辞典の「Word of the Year」の選考に残ったのも不思議な話ではありません。」
「しかしながら現状の利用方法は私たちにとって脅威としてではなく、機会と捉えるべきです。この急激なブロッカーの採用は、消費者の手により選択肢を残す持続可能なフォーマットによって、広告がよりユーザーによって適切な形であるべき機会をもたらしています。」
「最後に、2016年は今までに無いレベルでモバイルにフォーカスすることになるでしょう。スマートフォンはUKにおいては無くてはならないデバイスで、朝起きて最初に手にして睡眠前に最後に確認するものになってきています。マーケターはキャンペーンが本当にクロススクリーンになっており、ビジネス戦略を考える際モバイルファーストになっているかを確認する必要があるでしょう。そしてもちろんモバイルでのプログラマティックバイイングへの支出が増え、プレミアムや質の伴ったフォーマットがより即座に利用できる様になるでしょう。」
Justin Taylor氏、Teads社 英国MD
「2016年は、クリエイティブの発展とインベントリー発見におけるパブリッシャー側の進化によって、ネイティブフォーマットへの支出が増えることになるでしょう。これらの新たなフォーマットへの投資はネイティブビデオを中心に行われ、テキストベースのパブリッシャーにとっても、新たに成長しているビデオ広告に進出する機会を提供しています。
ビューアビリティは2015年のデスクトップビデオ広告にとって大きなトピックでした。このインパクトはモバイルビデオ広告にももたらされ、広告主が支出を振り分け、価格が実際のユーザーエンゲージメントに応じたものに変化するきっかけとなるでしょう。モバイルビデオは実際の閲覧から、アプリのインストールや、消費者ファネルへのコンバージョン等、強いエンゲージメントを産み出す大きな潜在性を秘めています。
バーチャルやARが人気になるにつれて、それらの効果がモバイル広告に広がっていくのを目にし始めるでしょう。コンテンツ作成、リーチ、トラッキング、パーソナリゼーション、パフォーマンス等の観点からインフラが充実していくのを目にし始めるでしょう。これはこれらのフォーマットの性質を考えるとモバイル広告業界に大きなインパクトを与えるでしょう。」
Janis Zech氏、Fyber社Founder/COO
バーティカルトレーディングデスク
「2016年に多く耳にすると思われるデジタルマーケティングトレンドの一つが「小売のトレーディングデスク」とでも呼べるものでしょう。私がここで言いたいのは小売店がエージェンシー化していくようなことです。小売企業は、例えばレシピや季節毎のアレルギー対処法等のコンテンツを自社サイトの為に制作することで、パブリッシャーの世界に入ってきました。次の論理的なステップとしては小売のトレーディングデスクです。POSやCRMなどのスーパーマーケットチェーン店が常時集めているデータはメディアエージェンシーやブランドがアクセス出来るものよりも内容の充実したものです。これらのデータはオフラインとオンラインの両方が揃い、顧客を理解したいと考えるブランドが是非入手したいと考えるものです。
この一例が、主力スーパーマーケットチェーンがUnileverやP&Gといった企業に接近し、メディア支出を抑え、小売データを活用しキャンペーンを行うように提案した事例に見られます。アマゾンやウォールマート、またはオーストラリアのColesのように、いくつかのグローバルベースの小売は既にこのようなアプローチを行い始めています。2016年はグローバルの小売分野において小売トレーディングデスクの潜在性が活かし始められる年になると思います」。
Jay Stevens氏、Rubicon Project社 GM International
統合とコラボレーション
「相互作用」は新たに注目すべきキーワードです。来年、様々なソースを一つにし、全体的なマーケティング戦略の立案に生かすようなデータの統合が大きな飛躍を見せる事になるでしょう。マーケターは今後もデータ管理プラットフォーム(DMP)を利用し続け、マーケティングと広告データ、メッセージングの組み合わせにより集中し、このことによりアドテクとマーケティングテクノロジーの実質的な統合がより進んでいくでしょう。統合が進むというのは、必ずしもデジタル大手が単体のソリューションを買い漁って総合力を高めるという意味ではありません。中間サイズの企業間によるコラボレーションや技術提携などによって、個別のソリューションが共通のマーケティング目標に向けて相互作用するような例も考えられるでしょう。」
Ben Walmsley氏、Sizmek社、北ヨーロッパ地域VP
データの価値と品質の評価
「ファースト、セカンド、サートパーティデータの競争は更に増え続け、広告主はデータ管理プラットフォーム(DMP)を採用するだけでは十分でなくなってきています。サードパーティデータの価値はより精査され、マーケターによる、誰もが購入可能なデータにどの程度の価値があるのか、といった質問に対処する必要が出てくるのでしょうか。またアクセス制限により、セカンドパーティのデータはより細分化されていくのでしょうか。広告主が消費者としっかりと結びつく為の最高の機会を提供するにはファーストパーティデータは引き続き重要視されなくてはなりません。DMPを強化し、消費者の関心や購入傾向を特定する為のユーザープロフィールを行う事で、広告主は関心を抱き、オファーを本気で検討する意思のある適切な消費者と結びつく事ができるようになります。」
Giovanni Strocchi氏, ADmantX社CEO
ビューアビリティの方向性
「私たちは現在、広告の50%以上が1秒以上継続して表示される、というビューアビリティの境界線を意識しています。正しいかどうか分かりませんが、公式なIABの標準のもあるようにトレーディングにおけるベンチマークとなっています。」
「しかしながら、業界標準の適正に関する不満やベンダー毎の測定数値の誤差によって、2016年は以下の2つのエリアがキーとなると思います。1) ビューアビリティ測定方法の標準化、2) 何をビューアブルと見なすかという点から、どのくらいの長さと量がインパクトを伴う閲覧に必要かという議論への移行、です。2016年は標準化に関しての議論が成熟し、ビューアビリティは全てのデジタルキャンペーンの中心的な測定値として認識されるでしょう。」
「2016年に、ビューアビリティがエンゲージメントを測る為の試金石以上の役割を兼ね、トレーディングに用いられる程に強力な指標となる為には以下の5つが必要であす。
- どのように標準が決まるかの透明性を示し、それらを推進出来る様な業界団体
- 異なる計測方法をまとめ上げ、更に進化した「ビューアビリティ」の考えを示せる意欲。エンゲージメントの考えを推進し、広告インパクトの計測に注力する為には必要な項目です。
- 統合によるアイディアの推奨(キャンペーンの常に正確に継続して追いかけることができるように)
- 広告確認作業におけるコミュニケーション。クライアントKPIのヒエラルキーに関する要素。
- 実行アプローチを行う為のオープンソースのソリューション」
Steve Doyle氏、InSkin社 メディアチーフコマーシャルオフィサー
モーメントマーケティング
「2015年はアドブロックの論争が席巻し、消費者の疲労を和らげる為に文脈に沿った、関連性の高い広告の必要性について注目が集まりました。私たちが2016年にブランドやエージェンシーがデジタルキャンペーンをよい盛り上げる為に必要なのは、モーメントマーケティングへのフォーカスだと思います」。
「簡単に言うと、モーメントマーケティングとはデジタルマーケティングとオフラインの世界で起こっていることを即座に結びつけることです。キャンペーンは消費者の活動に影響を与えるような様々なイベントと同期されます。例えば、天気の変化やサッカーの試合の点数、主要なテレビ広告キャンペーンのスクリーン等です。つまり、あなたのメッセージが、消費者がスマートフォンでソーシャルメディアや検索機能などを使うまさにその瞬間に届くようなことです。」
「これから18ヶ月に渡り、マーケティング戦略はテレビ「広告ジャック」とともによりアグレッシブなものになるでしょう。競合ブランドの広告がテレビで放送されているその瞬間がマーケターにとってソーシャルメディアで逆襲を行うまたと無い機会となります。この方法により、テレビへの巨大な投資が出来かねないようなブランドであっても、競合のキャンペーンによって巻き起こった会話やバズに相乗りすることが出来ます。」
「2016年は、ブランド企業にとってモーメントマーケティングを利用する機会はUEFAヨーロピアンチャンピオンリーグ、オリンピッック、オスカー等多くの機会があります。ただこういった大きなイベントだけではなく、例えば毎日の天気の変化のようなことであってもデジタルキャンペーンに活用するのには非常に良い機会であったりします。どうしてこれが重要なのかを考えるのは簡単です。例えばSainsbury社は数度の温度上昇によってBBQの売上が200%も伸びることを発見しました。例えば汚染レベルの上昇等といった出来事も2016年には活用出来るかもしれません」。
Antoine de Kermel氏, TVTY社 EMEA MD
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。