年率20%成長を遂げる台湾デジタル広告市場の現状とプログラマティックの普及状況 [インタビュー]
日本の海外進出先として近年注目が高まりつつある台湾のデジタル広告市場、プログラマティックの普及状況について、元Vpon バイスプレジデント、APAC事業責任者で、コンサルティング会社 Bobby Consulting Company ファウンダー CEOのBobby Shiu氏に聞いた。
年率20%成長を遂げる台湾デジタル広告市場の現状とは?
―まず、Bobbyさんの自己紹介をお願いします。
私はこれまで台湾において、デジタル広告エージェンシー、リクルーティングサイト、Yahoo!Taiwan、CondeNast、電通メディアパレット、中国大手SNSを運営するRenRenグループが台湾で立ち上げたNoumiというフラッシュマーケティングサービス、そしてVponなどで、セールスやビジネスデベロップメント、マネジメントなどの業務を経験するなど、デジタル広告領域で14年様々なキャリアを積んできました。
私は、これまでのキャリア、特にVponに在籍していた折に、日本、中国、香港、マカオ、それ以外の地域でビジネスを経験してきました。その中で特に日本において多くの事業者が中華圏への海外展開に関心があり、またそのトリガーとして台湾に展開したいというニーズを非常に多く感じました。そこで、私の経験と実績をもとに、マーケティングの支援、あるいはコンサルティングという領域で日本の会社に対して、台湾展開のお手伝いをさせていただきたいと強く感じました。そこで、この度コンサルティング会社を設立しました。
―台湾のデジタル広告市場の状況について、お聞かせください。
台湾デジタル広告市場の規模は、年々20%ずつ成長をしています。2015年も前年に比べて20%以上の成長が見込まれます。特にモバイル広告の需要が急激に伸びており、2013年から2014年にかけては2倍以上に成長しました。2015年の市場規模も前年に対して2倍~3倍の規模に成長することが見込まれます。
また、モバイル広告と同様に、ビデオ広告が現在非常に注目を浴びてきています。ビデオ広告も伸びしろが非常に大きい領域です
―台湾におけるビデオ広告の媒体としてシェアが大きいのはどのような媒体でしょうか?
日本と同様に、YouTubeが多くのシェアを持っています。恐らく、70%~80%くらいのシェアがあるのではないかと思われます。その他ではFacebookや中国から参入しているYouTubeのようなメディアも非常に注目を浴びています。Facebookの売上が上がることにより、日本と同様にYouTubeのシェアは落ちてくるでしょうが、YouTube、Facebookが2強となることについては、恐らく日本と似ているのではないでしょうか。
また、Vponのような台湾で有力なアドネットワークからも、ビデオ広告の配信は増えています。各パブリッシャーもビデオ広告枠の対応を進めています。
―台湾の大手パブリッシャーとして、Yahoo!Taiwanが挙げられますが、現状はいかがでしょうか?
Yahoo!Taiwanは、PCの領域では依然大きな影響力を持っています。ですがモバイルのトラフィックが急増する中で、デジタル広告市場全体における相対的な影響力は低下しています。モバイルやビデオ広告の領域では、大きな影響力を発揮しきれていません。過去5年間でGoogleが検索やディスプレイ広告などの領域で、Yahoo!Taiwanを上回る売上規模になっていると思われます。
台湾デジタル広告市場の構造、普及が遅れるプログラマティックの現状と課題、そして今後
―台湾のデジタル広告業界の構造について教えてください。広告代理店のレイヤーでデジタルの領域に強いのはどの企業ですか?
台湾のデジタル広告業界の広告代理店レイヤーでは、GroupMなどを傘下に置くWPPグループ、電通イージスグループ、PHDグループ、そしてZenith Optimediaグループが、大きなプレゼンスを持っております。恐らくこれら4社で台湾デジタル広告市場全体の70%近いシェアを持っています。ローカルプレイヤーとしてはMedialandとWebgeneなどの会社が有名ですが、シェアは限られています。
プログラマティックの領域についてですが、現在台湾にはローカルSSPプレイヤーが存在していません。DSPとしては、Vponが一番大きなシェアを持っています。そのほか、Appierや、Tagtooなどのプレイヤーがいます。他にも、DSPとアドネットワークを兼業している事業者として、AD2、urAD、MobiForceなどがいます。
―台湾ではRTBで配信されているディスプレイ広告の市場規模は限定的であると聞いたことがありますが、実際にはどのくらいの規模感ですか?
まだ、ディスプレイ広告市場の4%程度です。市場は伸びているともいえない状況です。台湾では、アドテクノロジーのビジョンについて語る人は多いですが、実態がビジョンに追い付いていません、したがって、このような規模の小さい数字になっているのです。
―日本と台湾のデジタル広告市場の違いはどのような点において感じられますか?
日本と台湾の違いについては、大きく三つあると考えています。一つは、配信面における違い。台湾の場合は、やはりモバイル、アプリへの配信というのが非常に多いです。しかし日本は、モバイルウェブの存在が非常に大きいです。
もう一つは、プライバシーデータの広告配信への活用に関する許容度について。台湾と日本とでは、広告配信向けに取得できるデータに違いがあります。台湾では、よりパーソナルなターゲティングをすることが出来ます。一方、日本ではそれが難しい。これは、私がVponにいたときに、非常に強く感じたことです。
日本は非常に厳しく、個人情報ではないものまで、個人情報であるかのようにセンシティブです。例えば位置情報の活用についてもそうです。
そして最後に最も感じた点は、市場競争の環境です。台湾には同じ領域にローカルプレイヤーの競合は少ないのですが、日本ではアドネットワーク、DSP、SSP、DMPなどすべてのレイヤーに強力なプレイヤーが数多くおり、そこで日本独自の技術を生み出しています。実はこれは、海外プレイヤーにとり大きな参入障壁です。
―台湾のデジタル広告業界の課題について、感じていることはありますか?
個人的な観点ですが、台湾は小さな国で人口も少なく、それほど伸び代のないマーケットだと思われがちです。しかし、デジタル領域においては非常に魅力的なマーケットです。ユーザーのアプリ課金率も高いです。ビジネス規模は決して小さくないです。ですので、台湾のローカルプレイヤーは、もっとローカル市場向けのプロダクトを磨くことにより専念をし、他の国から進んだ技術を取り入れて、自らが台湾の市場を盛り上げていくことが必要であると思っております。
―今後の台湾のデジタルの広告市場についての見通しをお願いします。
広告主のデジタル広告への投資は、2016年、2017年も恐らく前年比プラス20%増くらいのペースで伸びていくでしょう。
成長のドライブになっているのはモバイルです。従来デジタル広告に投資をしてこなかった広告主が皆、モバイルがもたらす大きな変化に気づき始めており、PCを通り越してモバイルに広告予算を投下するようになっています。このトレンドは、今後も台湾では続くでしょう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。