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「先物取引」はプログラマティックにおけるメディア取引の将来像なのか?

先物取引は、元々18世紀の農業の取引において価格を保証する為に使われてきた手法だが、メディアにおける先物取引はアドテク革命の先駆者の役割を担っている。ExchangeWireでは先物取引がオレンジジュースや豚皮などだけではなく、デジタルメディアにおいても成立つものかを調べるため取材を行った。

 

メディアにおける先物取引の基本は、メディア先物ビジネスの買い手と売り手がインベントリーの価格についての取引をする事によって成立っている。

 

仕組みとしてはこうだ。メディアの買い手と売り手が、一定の合意した期間(例えばクリスマスの「サイバーマンデー」)に、あるガジェットのウェブサイトで10,000インプレッションの広告を5ポンドでやり取りをする事に合意したとする。

 

合意した期間が近くなり、インベントリーの価格が同意した価格よりも高くなった場合は、メディアの買い手にはインベントリーを売ることで利益が発生する。そうでない場合は、買い手はクライアントの為にインベントリーを利用し、広告を配信する事が出来る。

 

同様に価格が下がった場合は、買い手は損切りの為にインプレッションを販売することができるのである。

 

MediaGammaは現在、英国政府や世界中の主要学術機関の資金提供を受けて、主要広告主と共に先物取引の仕組みの構築を試みている。ExchangeWireは、英国を拠点とするMediaGammaのCEOであるRael Clineに対してインタビューを行った。

 

 

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ExchangeWire: まずは「先物市場」のコンセプトと、それが現状のメディアに与える影響について教えてもらえますか?

 

Rael Cline: 先物市場は、将来のある一定の期間まで、売り手と買い手が固定の価格とボリュームの売買について合意するマーケットプレイスの仕組みです。この考え方は売買のやりとりにおけるもっとも慣習化された、約2,000年前から存在する方法です。特に農業において1700年代に、売り手は将来の収入を確定させたいと考え、買い手は供給を確保するなどのリスク管理を重んじたことから大きく成長し、仕組みとして進化してきました。現在ではオイル、オレンジジュース、通貨、株などの分野で先物取引が行われています。

メディアにおいても、UpFrontsに代表されるように先物のコンセプトは既に取り入れられています。プログラマティックにおけるメディア購入は、「先に購入」というコンセプトはPMPやダイレクトセールスに当たります。

 

簡単に言うと私たちはこういった取引の形態を、ディール毎に直接パブリッシャーとやり取りすることなく増やしていきたいと考えています。最初の取り組みが上手く進むようであれば、人々が自由に商品のやり取りをするような取引ベースの商品を世の中に送り出し、これらの取引を大きく拡大することができると考えています。

 

実際にはどのような仕組みなのでしょうか?この取り組みに参加することの商業的なメリットは何ですか?

 

MediaGamma独自のアルゴリズムによって、デジタルメディアの供給コストとインベントリーが平準化され、明日また未来の価格が最適化されていくようになります。現在、プログラマティックの全取引に透明性が保たれている訳ではないため、同様の仕組みを実現するのは困難です。取引に関わる人々は、ほとんど情報がないままアクションをとる形になっています。そういった経緯から、私たちがまずやるべきは、売り手のインベントリーを審査し、公平な価格を打ち出すことだと考えています。

 

第二に、私たちのテクノロジーによって、ブランドはより予想可能で安定したROIを実現出来ます。透明性と正確性の向上によって、エージェンシーがクライアントをより満足させ、パブリッシャーとSSPがより収益を確保しやすくなるのです。

 

この方法によって、現状のメディア取引のモデルはどのように変わるのでしょうか?従来のメディア取引が新たなモデルに取って代わる事で、最も恩恵を受けるのはどういった部分でしょうか。

 

驚くかもしれませんが、我々のサービスは裁定取引のような形態にメリットをもたらすと考えています。裁定取引の不透明な取引形態は悪名が高く、メディア価格と技術コストを引き離すことすら難しいと言われています。

 

透明性さえ確保されれば、裁定取引は取引を行う両者にとってのリスクが公平なモデルだと考えられます。例えば、ある消費者セグメントにリーチするメディアのコストが明確になる事は、買い手と売り手の両方にメリットをもたらします。全ての人にとって有益な情報は、買い手と売り手の両者の関係を良好にさせ、より良いビジネス結果を生む事につながるのです。

 

しかし、買い付けしている商品が本物であることを確かめるための正確な分析が必要になります。プログラマティックは、少し前の食品供給における馬肉に似ています。我々は分析を通じて、購入したインベントリーのクリーンアップを行い、無駄なインベントリーを削除しています。残念な事にGoogleなどのエクスチェンジにおいては、自身が購入している広告の状況を把握する事が出来ません。私たちは、彼らを信用するしかないのです。でも、そんな必要はない。私たちは、ブランドやエージェンシーが透明性を欠く企業を選ぶ事なく、より良いトレーディングを行える方法を示していきたいです。

 

価格面では、オーディエンスの品質やコンテキストはどの程度考慮するのでしょうか?

 

それらは価格決定の大きな要素です。私たちはインベントリーをタグ付しているので、何が起きているかを把握することで、それはアルゴリズムに組み込まれます。売り手と買い手の両者は、オーディエンスや配信場所(ここではコンテキストが大きな要素)について容易に確認する事が出来、パブリッシャーはプレミアムインベントリーを把握することが容易になります。また買い手は、広告がどこに配信されているのかを正しく把握する事ができます。

 

このモデルでメディアがコモディティ化する恐れは無いでしょうか?御社のプレスリリースに、ファイナンシャル市場の手法を採用したとありました。数年前のスキャンダルの傷跡が連想されますが、この引用がコモディティ化や悪しき習慣などの恐れを増長することはないですか?市場のブローカーの全うな取引をどうやって確保していくのでしょうか?

 

デジタルメディアで取引されている既存の方法、特にプログラマティック分野においてメディアはコモディティ化するでしょう。多くの場合において、広告配信は公平に扱われている為、パブリッシャーとブランドがより売り買いのコントロールと保っているからです。

 

現在、高付加価値の広告が様々なバンドル化によって見えなくなってしまっている事で、パブリッシャーは収益を機会損失しているかもしれません。一方で、ブランドのメッセージはあまりにも多くの無名な配信先に届けられる事で、消費者にリーチする機会を失っているかもしれない。数年前にファイナンシャル市場で起こった事件は決して褒められたものではありませんが、この市場での先物取引は1700年代に日本で米の先物取引として開始して以来、売り手・買い手の両方に安心を与え、上手く機能しています。

 

悪しき慣習が見られるのは一部の特殊なマーケットだけで、多くの先物市場は歴史上においても上手く機能しています。ですので、ファイナンシャル市場とひとくくりにしてしまう点については注意をした方がよいと思います。私たちは市場にいる全ての人々に対して情報をオープンにしています。私たちは財務的な利益を得る為にトレーディングだけに目を向けているのではなく、ブランド、エージェンシー、パブリッシャーそれぞれのニーズにフォーカスしています。

 

現在のトレーディングメディアにおいて、どのくらい先までの先物取引が適当だと考えますか?というのは、Facebookは10年前には存在していませんでした。今では市場の最も価値のあるインベントリーとなっていたりするからです。

 

売り手と買い手の取引に関しては、見通せる限りの未来で実施していきます。とはいえ、量が把握できない物を取引するのは簡単でなく、例えばモバイルビデオのようなデジタルメディアを例にとれば、これから5年先を見据えた取引を検討する事が出来ると思います。これは買い手と売り手の意欲、またお互いの推測に基づいた取引に依存する部分があり、私たちのパートナーとともに詰めていくべき部分です。

 

MediaGammaのトレーディング業界における役割はどのようなものでしょうか?また、それは市場にどのような影響を与えるでしょうか?

 

現状は1つのアドネットワーク、また見方によっては、トレーディングデスクとして機能しています。トレーディング可能な商品に行き着いた際に、私たちは買い手と売り手がオープンにトレードできるようなプラットフォームを作り、全ての人々にメリットをもたらしたいと考えています。自らを、既存エコシステムを補完する役割を果たす存在であると捉えているため、現存のプログラマティックとも紐づいた形で展開していきます。

 

より大きな量のデータを取り込んで行くとのことでしたが、現時点でどういったデータが利用可能ですか?例えば、オープンに利用できるデータなのでしょうか?

 

現在、大規模なサードパーティのデータプロバイダーと連携しています。このモデルを通じてより多くのトランザクションを行う事で独自のアルゴリズムを作り、オーディエンスに対する将来のインベントリー価値を定めるデータセットを形成します。

 

理想的には、初期の試験導入を済ませた段階で、解析データを使って、例えばFTSEやNYSEのように消費者セグメントや配信毎(例:旅行に特化したもの、パブリッシャーX)に価格を表示するような事ができるようなポジションにいられると考えています。

 

データのターゲットモデル(確定論、確率論等)についても大きな議論があります。MediaGammaはどのような形態を使うのが良いと考えますか?

 

私たちは、パートナーが利用している事もあり、確定論モデルを使うのが良いと考えています。このアプローチが優れているというつもりはなく、確率論モデルについては意見を述べるにはまだはやすぎると思います。

 

プレスリリースには、英国政府より資金提供を受けているとありました。この支援を受けた理由を教えてください。

 

英国政府は、我々のような市場を変える可能性を持つスタートアップの技術革新を支援しています。他の(エンジェルや投資ファンドのような)調達源と話す前段階で、プロジェクト立ち上げの資金援助を受けられるのは素晴らしい事です。アイディアの検証など様々な目的に使われます。この資金があることで、資本金になるべく手をつけずに済みます。会社の初期段階、開発は最もリスク高なフェーズにあり、多くのエクイティが流出してしまうことから、このポイントは非常に重要だと考えています。

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。