Microsoftによるアドテクビジネスからの撤退は一体いつまで続くか?
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
今週発表されたいくつかの興味深いプレスリリースの中でも、特に目を引いたものが2件あった。2件ともMicrosoftがらみで、AOLとAppNexusが関与したものだ。本稿では、ExchangeWireと業界トップの分析チームが、Microsoftにとって今回のニュースが意味すること、またその戦略について分析した。
今週の大きなニュースとは、AOLとMicrosoftの間で結ばれた契約の発表だ。それによれば、アメリカ、イギリス、カナダ、ブラジル、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、日本の9か国の市場で、Microsoftのディスプレイ、モバイル、動画の広告インベントリーすべてをAOLが受け持つことになる。
すなわち、AOLがMSNホームページ、Outlook Mail、Xbox、Skype、アプリ内広告などで、Microsoftの広告インベントリーをマニュアルで販売することになる。残りは、すべてプログラマティックにより販売される。
同日発表の2本目のプレスリリースはどうだろう。ここでは、MicrosoftとAppNexusがプログラマティック分野での2社間独占提携を拡張し、10か国の市場を追加すると発表した。提携市場は合計39か国となる。
この2つのプレスリリースを要約すると、AOLがMicrosoftのマニュアル販売による広告インベントリーを管理する一方で、実質的にAppNexusがプログラマティック事業をすべて販売することになる。したがって、本記事のタイトルである「Microsoftは広告事業に見切りをつけた…」という結論に至る。
前兆はあったのか?
この提携で1,200名の仕事に影響がでると複数のメディアレポートが伝えている。現職者は社内異動かAOLへ移る機会を得るということだ。9か月前にはMicrosoftが世界各地で広告担当者を解雇しているという報告もあった。
したがって、IOに関して実際に作業している営業担当者はほとんどあるいは全くいないことから、先のように推測しても差し支えないだろう。また、この2社の検索事業者の統合は、AOLの広告収益の純利益を大幅に高めるはずだ。
以前のオピニオン記事で、Vivaki社のEMEAプラットフォーム部長であるDanny Hopwoodは、Microsoftの広告エコシステムはGoogle、AOL、Amazon、Yahooなどの同業各社と比較しても一貫性に欠けるとし、Microsoftはデジタル広告戦略に大幅な対策を打たなくてはいけないと指摘をしていた。
「Microsoftはエコシステムですが、プログラマティック活動の大部分が内製でないテクノロジー (例えばAppNexus)上で実行されているという点で、他の企業と比較して一貫性がないように感じます。Microsoftはライバル企業と同様の特長や属性は有していますが、独自技術という要素に欠けています。
Microsoftの問題は、プログラマティック分野ではAppNexusと同じ程度の速さでしか動けないということです。Microsoftは他社の助けを受けてパワーアップする、または買収をしない限りスピードを高めることができません」
AOLとAppNexusの関係はどうなのか?
Microsoftが技術力を高め、AOLが実質的にMicrosoftのメディアを販売すると、反Google連合は、今までよりも更に効果的に継続していく。しかし、この同時発表で興味深いのは、AppNexusとAOLの関係性という観点においてだ。
AOLが実質的にMicrosoftのメディアを販売するならば、その取引を(AppNexusのテクノロジーと反するものとなる)独自の広告スタック上で実行したいと思わないだろうか? ここでの疑問は、なぜAOLが自社テクノロジーのライバル企業(すなわち、AppNexus)と実質上のビジネス関係を結ぼうとしているのか、ということである。このアライアンスを必要とするようなテクノロジーの限界が存在するのだろうか?
ForresterがAOLのDSPを業界リーダーと呼ぶようになってまだ1か月も経っていない。ConvertroとAdap.tvの買収が同社プラットフォームを大幅に強化し、将来に向けて良い足場を築いたと同レポートは述べていた。AppNexusもリーダーとして挙げられていた。
面白いことに、その回のForrester Waveでは5社がリーダーとして挙げられていた。ほとんどのWaveレポートでは、リーダーとして挙げられるのは1社〜3社なので、これは珍しい。このことから、DSP市場の過半数確保を目指した合併統合等の計画があると考えるべきなのだろうか?
マーケティングテクノロジーとビジネステクノロジーに移行?
その他にも、Microsoftが実施しているパブリック向けの広告の展開手法一つを見ても、同社のその他のビジネス上の意思決定について疑問を投げかけることもできる。例えば、昨年2月から「Microsoft for Work」キャンペーンを開始しMicrosoft Cloudサービスを推進していた上のビデオにある広告では、誰に対してマイクロソフトのクラウドサービスを訴求しているのであろうか?(上記ビデオ参照)。
ExchangeWireの調査分析部長、Rebecca Muirは次のような独自評価をしている。「Microsoftはクラウドサービスのテレビ広告に大規模な投資をしてきました。クラウドサービスの分野では、Microsoftの名は知られていません。Microsoftが有名なのは、各種Windowsプログラム、MSN、Bingです。Microsoftはブランドの再構築を試みていると考えられます」
このことを踏まえると、Microsoftはマーケティングテクノロジーや「ビジネステクノロジー」のゲームに参入し、OracleやSalesForceなどと競合しようとしていると論じることが可能ではないだろうか。
しかし、ExchangeWireの多数の投稿が証明しているように、アドテクノロジーとマーケティングテクノロジーはますます競争が激しくなっている。
ExchangeWireのCEOであるCiaran O’Kaneは最近、「メディアの実行レイヤーにおいて、CRMデータと他のデータポイントを結びつけるというビジネスチャンスは、見過ごすには大き過ぎるのではないでしょうか」と書いている。
この2点を踏まえると、次の質問を投げかけざるを得ない - Microsoftがアドテクノロジーの領域に再び足を踏み入れるまでどのくらいかかるだろうか?
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。