アドネットワークの終焉?
IABが6月29日に発表した統計で、従来のアドネットワークビジネスモデルが次第に姿を消し、広告主やメディアオーナーの間で、自動取引化のメディアバイイング技術やトレーディングモデルが次第に人気を集めだしている事が明らかになった。
IAB統計データによると、オンライン・ ディスプレイ広告のおよそ半数(45%)がプログラマティック・バイングと呼ばれる広告枠の自動買い付け技術を利用して購入され、これに費やされる予算額は10億ポンド近くに達する。同データはまた、オンラインディスプレイ広告におけるアドネットワークの割合が一桁にまで落ちた(6%)ことも示している。
この統計データは、同広告業界団体の第2回目のMedia Owner Sales Techniques(メディアオーナー購入技術)年次調査に発表されたものだ。同報告書はまた、去年、オンラインディスプレイ広告に費やされた総額が21億3000万ポンドに達したことも明らかにしている。これは31社のメディアオーナーから提出された額と、シニアレベルの業界関係者との対話を元にした数字である。
ダイレクトセールスが最大シェアを維持
昨年の51%から落ち込みは見せたものの、ダイレクトセールスは今でもオンライン・ ディスプレイ広告支出額で最大のシェア(49%)を占めている。これに対し、全市場におけるアドネットワークのシェアは、22%から6%と大幅に降下している(チャート参照)。
こうしたなか、データを細かく見ていくと、「プログラマティック広告支出」(自動取引システムおよびRTB(リアルタイム入札)といったプロセスを使って購買購入された広告)は、オープンメディアとクローズドメディアの半々に大きく分かれることもわかった。ディスプレイ広告の24%が「プログラマティックダイレクト」環境によって購入され、21%がオープンエクスチェンジを利用した購入となっている(チャート参照)。
ATDの台頭とアドネットの衰退
デジタルメディアビジネス全体における従来のアドネットワークのシェアが衰退していることについて語った ExchangeWire 社CEOのCiaran O’Kane氏(写真右)は、このように述べた。
「このプログラマティックの成長ぶりを見ると、イギリスでデジタル広告市場がいかに進化してきたかが分かります。メディアバイイングのサービスを管理してきた中間業者は、独自技術の開発やエージェンシーのトレーディングデスクとの差別化を行ってこなかった。彼らは、新しいプログラマティック環境では生き残れないでしょう。」と述べている。
今年の初めに発表されたアドネットワーク衰退の早期段階アセスメントの中で、O’Kane 氏はアドネットワークがエージェンシートレーディングデスク(ATD)の台頭に少なからぬ影響を受けている様子に触れている。エージェンシーを持つ事業体の多くが、ライバル企業から人材を採用しているというのである。
アセスメント文書にはこう書かれている。「ホールディンググループは現在、さまざまな機会を吟味し、顧客の要望に応えながら、ビジネスモデルとしての親和性を考えた最良のモデルを検証中です。」
そんななか、IABはこのパワーシフトの動きを前向きに捉えている。IABのCSOであるTim Elkington氏は、2018年までにはデジタル広告出費の総額の70~80%がプログラマティックバイング技術を利用した取引となるであろうと予測する。
同氏はこうも付け加えている。「プログラマティックのデジタル広告購入における役割は、5年の間に、ゼロに近い状態から総取引の半分近くにまで達しています。」「ですが、さらに大きな影響を受けているのがモバイル分野です。エコシステムがより断片化しており、中間業者の繁殖地となりやすかったからです。」
プログラマティック企業の台頭
Elkington氏はさらに、これまでダイレクトレスポンスへの対応として設計された広告キャンペーン用ツール(営業リードの登録、オンラインショッピングバスケットを完了しなかったユーザーのリターゲティング等)として捉えられてきたプログラマティックバイングが、最近では「ブランド構築」に広く利用されるようになっていると述べている。
「プログラマティックをまだ主にダイレクトレスポンスとして捉えている人もいますが、動画広告における役割と存在感は増加しています。テレビというのはブランディングのメディアですし、プログラマティックが広告のトップの座にあることが分かります」とも付け加えた。
この説は、Tremor VideoとTubeMogulが最近公開した「ブランド側のマーケターによるプログラマティックバイング技術の利用増加とプログラマティックTVの台頭」に関する調査でも裏付けられている。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。