ディスプレイ・動画ソリューションを統合、新ブランドOne by AOLが日本の広告主にもたらす新しいベネフィットとは?[インタビュー]
2015年4月、AOLグループのディスプレイ広告ソリューション「AdLearn Open Platform 」と動画広告ソリューション「Adap.tv」が統合され、新ブランドOne by AOLに生まれ変わった。One by AOLを先行リリースしている米国の状況、日本でのローンチ計画、そして直近の日本の動画広告市場の動向について、AOLプラットフォームズ・ジャパン株式会社COO 橋本 久茂氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire編集長:野下 智之)
あらゆるテクノロジーを統合したOne by AOLの全貌とは?
-- 今回、貴社がサービスを統合してリブランディングし、統合された背景についてお聞かせください。
AOLの広告ソリューションには、もともとディスプレイ配信向けDSPとしてAdLearn Open Platformがありました。その後、2013年にAOLがAdap.tvを買収したことにより、ビデオ向けDSPが新たなラインナップに加わりました。さらに、Convertroというマルチタッチアトリビューションの会社も買収しました。こうして揃えた広告主向けの様々なソリューションラインナップを一つの広告主向けプラットフォームとして提供することにより、広告主に対してより高い付加価値する。これが今回のサービス統合の背景です。そして、このサービス統合に合わせて、すべてのブランドをOne by AOLという一つのブランドに集約させることにしました。
米国では2015年4月にOne by AOLというプラットフォームで一部の広告主に限定し、ディスプレイ広告、動画広告のDSPサービスを同じプラットフォーム上で提供を開始しました。
-- 日本での提供開始予定時期はいつごろでしょうか。
日本におけるOne by AOLへのディスプレイ広告、動画広告向けDSPのサービス統合は、今年の後半を予定しています。
まずはグローバル市場においてブランドの統一化を進め、その後日本においても統合プラットフォームの展開を開始する予定です。
-- 先ほどのお話にあったConvertroとは、どのようなサービスでしょうか?その他One by AOLで提供されているソリューションについても具体的にお教えください。
Convertroは、マルチタッチアトリビューションというサービスカテゴリに属します。広告主がテレビ広告、ディスプレイ広告、動画広告など様々なフォーマットの広告を出稿する際に、最終的にどのようにアトリビュートし、コンバージョンしたかを複数の広告フォーマットにわたり計測し、全体予算をどのようにフォーマット別に最適配分するかを自動的に把握することが出来るソリューションです。
アメリカの百貨店やeコマースサイトは、Convertroを使っており、これらの事業者のCMSにConvertroのデータベースが接続されています。オフラインで商品を購入する顧客を会員番号データで管理したデータとCookieを結び付けることにより、オンライン広告とオフライン広告を含めた統合的なアトリビューション解析が可能となります。
このソリューションは、米国ではOne by AOL Attributionというソリューション名で提供されています。将来的には日本のOne by AOLの中に取り込んでいくことを計画しています。
米国のOne by AOLには、One by AOL AudienceというDMPも搭載されています。これまでは、当社がAdvertising.comとして提供してきたディスプレイ広告プラットフォームの内部機能として既に持っていた機能を、今回DMPとして外部提供をすることとなりました。この機能も数か月後には日本で提供を開始する予定です。
-- 貴社の事業ごとの組織体制は、現状どのようになっているのでしょうか。これまでの経緯と合わせてお教えください。
Advertising.com、AdLearn Open Platform及び、Adap.tvの事業は2015年の1月1日にAOLプラットフォームズ・ジャパンに移管しました。これを機に、これら3サービスは、AOLプラットフォームズ・ジャパンから提供されることとなりました。また、基本的には各事業のチームメンバーもAOLプラットフォームズ・ジャパンの中に参画しました。そして今回2015年4月のOne by AOLへのリブランディングに合わせて、AdLearn Open Platform及び、Adap.tvはそれぞれOne by AOLの傘下に入り、One by AOL:Display、One by AOL:Videoとなりました。(Advertising.comは引き続き現サービス名で提供。)
-- ちなみに、One by AOLというサービス名の由来はどこにあるのでしょうか
「一つにする」です。(笑)
実際に日本の組織も、Adap.tvのチームはAOLプラットフォームジャパンの中に統合されましたが、グローバルにおいても同様です。これまでは組織がプロダクトごとに分かれていましたが、今回の統合に合わせて、パブリッシャーサイド、エージェンシーサイドという分け方による組織体系に変更されています。
One by AOLの日本での本格展開と、広告主にもたらされるベネフィット
-- 日本で今年の秋に提供開始を予定されている新サービスは、米国で提供されているサービスと同じラインナップを予定されているのでしょうか。
いえ、日本では、市場の動向を踏まえて最適なタイミングを見計らいながら、順次ローンチしていく予定です。まずは、ディスプレイ広告、動画広告、そしてオーディエンスターゲティングソリューションであるDMPを今年の秋ローンチする予定です。One by AOLのもとで、システム上統合も三つのソリューションが統合されることになります。
-- 今年の秋のローンチ後、広告主や広告代理店に対してどのようなベネフィットが提供できることになりますか
簡単な例で申し上げます。現状は、ディスプレイ広告、動画広告の両方のキャンペーンを実施する際、それぞれのキャンペーンを個別に作り、例え同じターゲティング設定やオーディエンスデータを管理するのにも個別に行わなければならないという状況でした。One by AOLに両者が統合されると、これまでの二度手間がなくなり、一元管理が可能になります。
-- 米国ではテレビの広告も取り扱いがあるとのことですが、取り扱い状況についてお教えください。
我々がいうテレビというのは、ケーブルテレビのスポット広告です。現在完全にマニュアルでやり取りされている取引が、今プログラマティックに移行しつつあるところです。
海外でいわゆるプログラマティックTVが普及し始める際、最初に取引対象となるのは、基本的にはケーブルテレビです。地上波の広告をプログラマティックで取引することは、制御が難しいのが現状です。
成長を続けるも課題が残る日本の動画広告市場の現状
-- 次に、動画広告の市場環境についてですが、足元の動画広告市場につてはどのように見ておられますか
過去にシード・プランニングがリリースした市場規模予測に沿った程度には成長しているのではないかと思います。一方で、依然としてYouTubeが高いシェアを持つという構造に変化はないと思います。
米国では、YouTubeのインベントリベースでのマーケットシェアは3割程度と聞いております。ですが、日本では7割~8割を占めています。この状況は、以前から大きく変化がありません。
このことが動画広告市場の課題であると認識しています。もちろん、他の媒体のインベントリも増えつつありますが、米国市場などと比べると絶対的にプレミアムといわれるメディアのインベントリ量がやはりまだまだ少ない。今年10月に民放キー5局が見逃しチャンネルと、ビデオ広告ビジネスを共同展開する予定です。まだその部分のマーケットは、短期的には量的にそれほど大きくはならず、現状の全体シェアをすぐに大きく変えることはないかもしれないですが、数年後、放送局をはじめ、新聞や雑誌などのメディアによるビデオ広告の活用が進むでしょう。そしてこれにより動画広告市場に新しい流れが出てくるはずです。
-- 日本の広告主は、2年前あるいは1年ぐらい前と比べて動画広告の利用層や、取り組み方などについて、変化はみられますか
2年前は割と先進的な方々のみが取り組まれていましたが、最近は裾野がだいぶ広がってきたようです。ただ、全ての広告主が動画広告を出すというような、完全な普及期には至っておらず、アーリーマジョリティ層までが、出稿を検討されているような状況であると認識しています。
統合されたソリューションで差別化、米国の高いプレゼンスを日本でも再実現
-- 今後のDSP事業の拡大に向けた戦略についてお聞かせください。
DSPの差別化は、一般的には容易ではありません。ですが、私たちのメリットは、日本でローンチした当初から、デマンドサイドからサプライサイドまでのエンドツーエンドで独自のソリューションとして提供していることです。DSPによるバイイング対象となるインベントリは、自社のSSP、エクスチェンジから調達している割合が大きいです。この点は、他社と差別化することを可能とします。当社はDSPからSSPまでを1社で運営しているため、流通コストが他の単体のDSP、SSPを利用するよりも安くなる構造にあります。したがって、広告主はインベントリを経済的に有利な条件で購入できる、これが一番大きなメリットです。二番目のメリットは、同じプラットフォーム上でパブリッシャーとエージェンシーがつながるため取引の透明性を担保でき、想定インプレッション数の精度が高いことです。そして三つ目は、プライベートマーケットプレイス機能です。まだ日本では提供をしていませんが、機能として持っております。直近では、ディスプレイ広告のプライベートマーケットプレイス領域が盛り上がっていますが、この流れはそう遠くないうちに、動画広告にも訪れるでしょう。
-- 最後に、ExchangeWireの読者へのメッセージをお願いします。
当社は、2015年1月からAOLプラットフォームズ・ジャパンとして事業を行っています。日本において、一時期AOLという名前が忘れられていた時期がありました。ですが、グローバル市場では高いプレゼンスを保ち、変化を続けています。日本でも皆さんに様々なソリューションやサービスを提供することでAOLを再度認識していただきたいと思っております。
AOLは、この度Verizonに買収され、その傘下に入ることになりました。買収完了後の動きとしては、AOLが現在保有する事業の他にVerizonのモバイル&動画メディア事業、及びインターネット広告事業を総括することになります。当面の間、日本国内で提供をしているサービスへの影響はありません。今後は米国通信市場最大手の1つ、Verizonの強みであるモバイル分野において、モバイル向けの動画・広告コンテンツの配信事業にAOLの持つアドテクノロジーを発揮していくことになります。両社の強みを生かして世界最大のメディアテクノロジー企業となることを目指します。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。