×

アプリマーケティング成功の秘訣は、Webの成功を捨てユーザビリティを追求すること <インタビュー>

アプリマーケティングで注目されるのは、新規ユーザーの獲得競争を経て、既存ユーザーのリテンション、リエンゲージメントを重視する施策へと移行しつつある。この流れの先に立ち、海外から先進的なアプリ計測ツールを日本に持ち込み、アプリ広告主のマーケティング支援を行うGMO NIKKO。同社の常務取締役 谷本 秀吉氏に、アプリマーケティング領域の直近の動向と、同社が国内で独占提供するアプリ計測ツール「Apsalar」の特徴について伺った。

(聞き手 ExchangeWire 編集長 野下 智之)

 

数ある海外ツール選定の要件は、広告効果の向上と他にはない優位性

-- 貴社の広告ビジネス全体の直近の動向についてお聞かせください。

スマートフォン広告の取り扱いは増えており、ネット広告代理事業売上に占めるシェアは半分ぐらいになりつつあります。また、ディスプレイ広告領域においてはプログラマティック取引のプロダクトの幅が増えてきており、われわれも売上を大きく伸ばしています。

 

-- 直近のデジタル広告市場全体については、今どのような印象をお持ちですか。

今は非常に好調であると認識しています。昨年よりも広告市場におけるデジタルシフトが進んでいると感じています。多くの広告主が以前より予算を増やす傾向が見られます。

 

-- 貴社はこれまで、海外のマーケティングツールを積極的に導入されていると思いますが、ツールの選定に当たり重視している点はどのようなことでしょうか。

ひとつは、広告取引にかかわる業務がいかに合理化できるか、という点。そして、何より重視するのが、広告効果の向上、クライアントのマーケティング支援サイクルの核となり得るか、という点です。

 

-- 色々なツールがありますが、その中で導入するツール、あるいはベンダーのどこを見て絞っていかれるのでしょうか?導入に至るまでのプロセスについて教えてください。

まずは、色々な会社にこちらから積極的にアプローチして話を聞きます。ツールを選定するには、やはり多くの新鮮な情報を持った状態でいることが大事だと思います。したがってわれわれも、協力会社や外部パートナーなどと連携しながら有力な企業を紹介してもらいます。当グループは、米国のサンフランシスコにも情報収集拠点を持っています。この拠点はビジネスデベロップメントの役割も担っています。この拠点と連携を取りながら、米国で起こっているトレンドを把握しつつ、最適なツールなどのテクノロジー選定を行ない、日本のマーケットに提供するという取り組みを行っています。

海外ツールの選定において重視することは、やはりそれを提供していくことによって得られる効果や期待値の大きさです。端的に言うとそのツールの優位性に尽きます。そして、サポート体制や人的支援という点です。日本マーケットへの進出する意気込みは重要で、優先度を高く持ってもらうために、こちらからは日本マーケットのポテンシャルを積極的にアピールします。日本マーケットは大きいですが、商習慣の特殊性により撤退してしまう海外の有力アドテクベンダーも少なくありません。ここはパートナーシップ同士のコミットメント意識が強く求められる点であります。

 

新規ユーザー獲得競争の次に直面するアプリマーケティングの課題とは?

-- 先ほどスマートフォンの広告の売り上げが半分くらいになりつつあるとのお話でしたが、Webとアプリのプロモーション比率は現状いかがでしょうか?

アプリの広告市場はこれまでゲーム企業が牽引してきました。そして非ゲーム系企業のアプリのプロモーションも増えつつあります。ただし、企業がアプリをリリースして集客することで、マーケティング上、一定の成果をあげているといえる企業は決して多くありません。ここは日米の差が歴然と違う点です。日本マーケットのアプリ市場の活性に遅れがあるという認識です。

 

-- 広告主のアプリプロモーションにおいて、現状直面している課題とはどのようなことでしょうか。

GMO NIKKO 谷本 秀吉氏photo3

 

一番大きな課題は、企業のマーケティングにおいてアプリの位置づけや求められる役割がまだ明確ではないことです。

多くの広告主は、アプリでプロモーションをした際に、Webと比較してどの程度売上に貢献できるのかということが明らかにできていないのが現状です。

企業がマーケティング目的としてアプリを提供する場合、第一に考えるべきは、そのユーザビリティです。現在アプリの効果計測をする際、一般的にはSDKを導入する必要があります。ですがその際に多少なりともアプリへの負荷がかかります。SDKそのものの容量が重いと、アプリ自体の利便性が損なわれてしまいます。また、Cookieで計測する場合、アプリからブラウザに遷移させる必要があり、ここでもユーザーの利便性に影響が出てしまいます。計測ツールを採用する際には、ユーザビリティを阻害しないかについて注意する必要があります。極力SDKはシンプルであり且つ一つのSDKで広告の計測とアプリ解析ができることが望ましく、求められていることであると思います。

 

グローバル市場で探し当てたアプリ解析ツールApsalarの特徴と優位性

-- 貴社は現在アプリ解析ツールのApsalarを取り扱い拡販されていますが、取り扱いを始められた背景や経緯について教えてください。

1_Apsalarの日本語版ダッシュボード画面

<Apsalarの日本語版ダッシュボード画面>

 

アプリ広告の効果測定に関しては、2012年に当社が独自に開発したGMO MARKETING SUITEもありますし、外部のツールベンダーとも接触はしていました。ただ、先ほど申したような観点から、アプリのマーケティング活用においてはユーザビリティが最も大事であることから、その点においてより優位性のあるツールを探し続けていました。そして2014年3月下旬に、ad:tech SanFranciscoへの訪問時にApsalarの紹介を受け、そのツールのスペック等を聞き、非常に優れているものであると感じました。その後6月末に同社と日本における独占契約をしました。日本ローカライズ版の提供開始は、2014年7月です。

 

-- Apsalarの特徴について教えてください。

2_Apsalarのファネル分析画面

<Apsalarのファネル分析画面>

一番の特徴は、アプリ内解析と広告効果測定が1つのSDKで可能となることです。

アプリ内解析機能を使うと、ユーザーのアプリ時間滞在や、特定のレベルまで進んだユーザー数の把握などが可能となります。アプリ内解析は、ウェブの世界で言うアクセス解析にあたります。広告効果測定というのは、広告がそれぞれどのくらいインストールや、その後の収益に貢献したかを調べるものです。今国内の多くの広告代理店が提供しているツールは、後者の広告効果測定に機能が限定されています。

Apsalarは、広告効果測定とアプリ内解析を一つのストーリーとして実施することにより、AARRRモデルに基づいた分析と、収益化に直結する的確な改善アクションの実施を可能にしています。

AARRRとは、米国のシリコンバレーで2年ほど前から提唱されているマーケティングフレームワークで、Acquisition、Activation、Retention、Referral、RevenueというそれぞれのKPIの頭文字をとって名付けられました。最近のモバイルアプリを提供するITスタートアップ企業は、大概このAARRRモデルに沿って自社の事業を大きくしています。このAARRRモデルに沿ってKPI設定して、課題を抽出し、アプリ自体をより収益性の高いものにしていくというフレームワークです。このモデルは、モバイルアプリゲーム会社のビジネスのフレームワークにも当てはまります。

Apsalarは、このフレームワークにそったアプリユーザーの計測が可能です。

 

われわれは、アプリマーケティング課題の解決における本質はアプリ内解析だと考えています。なぜなら、アプリは、そこで企業とユーザが継続的に接点を持ち続けることで収益が生まれるものなので、集客=広告効果のみを最適化しても収益を最大化することは不可能です。むしろ、インストールやアクティベートしてくれたユーザーを逃さずにファン化し、お気に入りのアプリとして使い続けてもらうことのほうが収益化の重要なファクターなのです。

 

また、もうひとつの特徴は対応プラットフォームの広さです。現在、アプリマーケティングの主要プラットフォームであるGoogle、Facebook、Twitterのアクセス解析と広告効果測定を横断的に実行することが可能な計測ツールは、国内はもとより海外でも少数に限られています。

3_アプリ広告分析

-- 最近、GoogleやFacebook、Appleなどがアプリ計測ツールをリリースしていますが、広告主はこれらのサービスを利用すれば事足りるのではないですか。

去年GoogleがAnalyticsにアプリ解析機能を追加したというニュースが流れて非常に注目を集めました。結果的にApsalarのビジネスに影響を及ぼしました。マイナスよりプラスの影響です。このニュースにより、アプリ集客を行う広告主は、よりアプリの計測の重要性に気づき、アプリ解析需要が全体的に増えたのです。Facebookも最近SDKを無料で一般開放するという重大な発表をしました。このことも、基本的にはわれわれは好機と考えています。Google AnalyticsやFacebookのSDKは素晴らしいものですが、これらはお互いに他のツールにデータを開放していません。したがって、プラットフォームを横断的に解析することができないのです。Apsalarの場合、第三者的な立ち位置のツールベンダーとして、GoogleやFacebookと中立的な立場でデータの提供を受けることができ計測が可能です。サードパーティの重要性が際立ちます。Apsalarは、延べ200程度のメディア・アドネットワークと連携をしており、計測できる領域の広さが他のツールとは全く異なります。

 

-- メディアやアドネットワークは、連携する計測ツールを選ぶものなのでしょうか。

はい。特に、Facebook、Google、Twitterは連携先を選別しています。その中でもとりわけFacebookは提携先のツールに対して、特に厳しいルールを設定しています。Facebookが設けているPreferred Mobile Development(PMD)というパートナープログラムは、非常に限られた会社のみが参加できるものです。

 

-- Apsalarの実績について教えてください。

グローバルで、ゲーム会社大手や小売り、Eコマースなど700から800ほどの導入実績があります。

国内でも導入は順調に進んでいます。ゲーム系、非ゲーム系アプリがそれぞれ5割ずつという状況です。現状はEコマースやトラベルなど、ゲーム以外のアプリ広告主からの引き合いが増えています。国内での導入件数は、当初の予定を上回るペースです。

 

-- 導入にあたっての料金体系はどのように設定されているのでしょうか。

一広告によるCVが行われた件数あたりの従量課金制となっています。月額無料のトライアルプランもありますが、広告を実施した場合はインストールあたりの料金が発生します。

 

Web成功体験を捨て、アプリならではのユーザビリティ設計を

-- アプリのプロモーションは、今後どう変わっていくと思われますか。

ユーザーの視点から考えると、例えばECという一つのカテゴリサービスのアプリを3つも4つも併用するということはあまりないと思います。この時、ユーザーから選ばれるアプリになるための競争は熾烈なものになります。ユーザーから選ばれるには、特にアプリのユーザビリティが重要になります。現在成功事例が多くないのは、われわれの視点で言うと、広告主がWebで提供しているユーザー体験の成功事例をアプリにも置き換えようとしているということがあると思います。Webのユーザー体験とアプリのユーザー体験は異なります。アプリの場合、ユーザーはよりダイレクトに、自分が到達したいところにいかに短期間に到達できるかということを重視します。Webのようなツリー上の設計で階層がいくつもあるというものは、アプリとしてはなかなか成立しにくいと思います。アプリがユーザーに受け入れてもらうためには、まずは使い続けてもらえるアプリになるためのユーザビリティの追求が大事です。

そのためには、例えば来訪手段の提供としては最近話題のディープリンクという技術を使うこともよいでしょうし、来訪してくれたユーザーに対しては、より便利なアプリの仕様を考えるべきであろうと思います。

これまでは、アプリをインストールしたユーザーの、アクティベーションや再来訪の動向については今まで分析されることはほとんどありませんでした。したがって、アプリそのもののユーザビリティの良し悪しについてはあまり評価されなかったのです。そのため、結果的にアプリマーケットで売上紐付く効果がないとみなされて、リリース後の放置されている大手企業のアプリというのはかなりあるというのが現状だと思います。

先ほど申しました通り、ユーザーのアプリ体験の観点から設計し直すことにより、ユーザーの再来訪の機会は増えて来ます。広告出稿により新規のインストールを増やす施策はコストが多くかかり、一定のユーザー数を獲得した先の獲得効率の維持はとても困難です。一方で、既にインストールしたユーザーの中には、休眠ユーザー層が一定規模います。この層をいかにアクティブユーザー化させていくかということが、広告の役割としても重要になりつつあるというのが現状です。俗に言うリエンゲージメント広告です。この領域では、データによってユーザー層を複数のクラスターに分けて、各々に最適なメッセージでコミュニケーションをするという手法が効果的です。まずは利用ユーザーの分析を行う。そのためにアプリでもDMP機能を活用することについては米国でも浸透しております。われわれもApsalarのデータを基にそのような施策に取り組んでいます。この施策により、広告効果は劇的に改善されていきます。現在われわれが一番伸ばしている領域です。

例えば米国では、最近AppLovinという会社が注目されています。アプリのユーザーデータを活用して、リエンゲージメント広告を配信するプラットフォームです。

Apsalarも今後DMP機能を搭載して、同様の広告配信が可能になる予定です。

 

-- 貴社の今後の取り組みについて、お聞かせください。

アプリの広告効果測定や行動解析という手法は、広告主がアプリマーケティングにおいて、ユーザーとの接点を増やして収益をあげていく上で、打ち手としては不可欠なものです。アプリサービス市場はWebサービスよりもより競争の厳しさを増す環境となることは間違いありません。この競争を勝ち抜いてユーザーに選ばれ、頻繁に利用されるアプリとして迎えられたときには、企業のマーケティング課題の解決を大いに手助けする役割を果たすことになるでしょう。当社としては、ただ単にツールを提供するだけでなく、広告主に対してアプリがマーケティング課題を解決するための重要な武器になるような支援活動を強化していきます。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。