プログラマティック取引のパイオニアが語る、PubMaticが日本で選ばれる4つの理由と今後の展望
2014年4月、日本市場に参入して1年が経ったPubMatic。日本での市場開拓を着実に進める同社CEO Rajeev Goel氏の来日に合わせて、ExchangeWireはインタビューを行った。
グローバル市場におけるプログラマティック取引のパイオニアであるGoel氏に、日米プログラマティック市場の違いや同社の強み、日本での今後の展開などについて聞いた。
(聞き手:ExchangeWire編集長:野下 智之)
グローバル売上成長率プラス90%、日本市場も急成長
--貴社のグローバル展開の状況や、各地域のマーケットのプログラマティック取引の現状についてお教えください。
プログラマティック取引市場の成長は、グローバルなトレンドです。どの地域でも急速に成長を続けていますが、特に成長が目覚ましいのはAPAC地域です。二番目がヨーロッパで、三番目が米国です。
これは、それぞれの地域がどのようなステージにあるかによります。日本をはじめ東南アジア、インドなどはまだ市場が成熟していません。一方米国は既に成熟しています。当社は、2013年から2014年の1年間、グローバル全体でプラス90%の売上成長を遂げました。これは業界平均の成長率水準のプラス40%~50%をはるかに上回ります。また、当社の利益については、売上よりもさらに高い成長率を達成しています。
--昨年の日本参入から1年が経ちました。日本でのビジネスの進捗について教えてください。
私たちの日本でのビジネスは順調に発展しています。我々が当初設定した目標のパブリッシャー提携数を超え、1年間で60を超えるパブリッシャーに当社のSSPを導入することが 出来ました。これは非常に早いペースでの成長です。
現在、日本のチームは在インドのオペレーションチームを含めて8名ですが、2015年末までに5名増やす予定です。また、私たちは既に20以上の国内のアドネットワークやDSPと提携しています。日本にデータセンターも構えました。
--ソネット・メディア・ネットワークスとのパートナーシップの状況はいかがですか?
ソネット・メディア・ネットワークスとは非常に良い関係を構築しています。ソネットはパブリッシャーと非常に良い関係を持っていますし、アカウントマネジメントやサービス体制の規模も大きい。ソネット・メディア・ネットワークスが持っていないSSPの技術を当社が提供し、上手い補完関係が出来ています。
パブリッシャー数をここまで早いペースで増やすことが出来たのは、ソネット・メディア・ネットワークスとの関係が大きいですし、当社が8名で事業を展開できているのもまた同様の理由です。
PubMaticが日本で選ばれる4つの理由
--貴社が国内で契約したパブリッシャー60社は、なぜ貴社を選んだのでしょうか?
理由はいくつかあります。まず、当社はグローバルSSPであり、またパブリッシャーにフォーカスした専業SSPとして、パブリッシャーのビジネスに沿ってサービス対応が出来ます。パブリッシャーが長期的な関係を築くSSPを選ぶ際、自社のビジネスの意向に沿ってくれるパートナーを選ぶ必要があるからです。
また二つ目の理由は、当社がパブリッシャーの広告ビジネスにおける全ての広告フォーマットやセールスチャネルに対応できている点です。ネイティブ広告、モバイル広告、ビデオ広告とそれぞれのフォーマットで、ダイレクト、インダイレクトそれぞれのチャネルに対応しています。
広告タイプごとに異なるソリューションを導入するのは手間ですし、煩雑になってしまいます。一つのプラットフォームで全てのフォーマットやセールスチャネルに対応できることは、パブリッシャーにとって管理がしやすいことを意味します。当社はこれに対応していることが三つ目の理由として挙げられます。
ローカルSSPは、まだ充分な量のデータを蓄積していないということもあるでしょうし、私たちは9年以上のSSP事業の歴史があり、300名ものエンジニアを抱えていますので、サービススケールの点でも優位性があると考えています。これは四つ目の理由として挙げられるでしょう。
プレミアムパブリッシャーの意味と意義
--貴社はプレミアムパブリッシャー向けのSSPという打ち出しをされていると認識していますが、御社が考える“プレミアムパブリッシャー”の定義を教えてください。
プレミアムという言葉の意味は何か客観的な指標を持って定義されるものではなく、主観的な思考によるものです。
オーディエンスがハイクオリティであるということ、コンテクストの観点からもハイクオリティであるということ。対象としているコンシューマーが高所得層、あるいは教育レベルの高いといった要素が“プレミアム”という言葉の意味に含まれてくると思います。ウェブサイトやモバイルアプリもそのデザインが優れているということが、“プレミアム”であることの必要条件として含まれます。
そしてビジネスの観点からは、そのパブリッシャーが、直販の営業部隊を持っているということも、“プレミアム”の一つの要件です。広告を人が直接売ることができるということは、広告主に対して興味深い価値提案ができるということです。
--貴社は専業のSSPであることが、パブリッシャーに高い利益をもたらす、と。DSPを同時に展開している事業者と比べると、パブリッシャーとの取り組みや還元する利益が違うのでしょうか。
DSP、SSPの事業を両方展開するということは、つまり仕えているご主人様(クライアント)が二つあるということになります。一方ではSSPとしてパブリッシャーの収益を上げようとしているが、同時にもう一方では広告主に対して出来るだけリターンを多くしなければならない。このように相反する二つの目的を持つこととなり、両者を満足させるということはなかなか難しいと思います。
当社のビジネスの場合は、純粋にパブリッシャーに向いています。それによってお客さんに対する価値を最大化するということができるのです。
また、収益還元力の観点以外、例えば開発能力についても、両方に対してそのリソースを分けなければいけません。私たち300名のエンジニアは、全員がパブリッシャー向けに取り組んでいます。
背景が異なる日米プログラマティック取引市場の今後
--日本では2011年頃からRTB取引が普及し、昨今はプライベートマーケットプレイスに対する関心が高まりつつあります。米国では過去どのような経緯を経て現在に至っているのでしょうか?
米国では、オープンマーケットプレイスのRTB市場が非常に大きいです。当社は2009年に米国で初めてRTB取引を始めたSSPであり、米国のプログラマティック市場を見続けていますが、米国では確か2012年にプライベートマーケットプレイスがスタートしたと記憶しています。
日本では、現在プライベートマーケットプレイスあるいは、プログラマティックダイレクトへの関心が高いですね。これは恐らく日本のオープンマーケットプレイスのRTB市場での取引では、CPMが低くなってしまうことに対する媒体社の懸念が背景にあるのではないかと思われます。日本と同じような道をたどったケースは他の国の市場でもありました。
--そうすると米国でもオープンマーケットプレイスのRTB取引が始まり、CPMが下がり、そこからプライベートマーケットプレイスやプログラマティックダイレクトの取引が普及し、CPMが再び上昇するというプロセスをたどってきたのでしょうか。
米国の場合、CPMを高めるソリューションとして、プライベートマーケットプレイスや、プログラマティックダイレクトに対するパブリッシャーの関心が高かったというよりは、パブリッシャーが自ら広告主との直接的な関係を維持し、チャネルをよりコントロールしたいという要望があったのではないかと思います。
リザベーション広告の取引においては、もともとパブリッシャーは広告主との直接関係を持っていたため、この関係を維持したかった。
一方広告主としては、どこのパブリッシャーに自社の広告が掲載されるのかを知りたいという透明性を求めた。オープンマーケットプレイスのRTB取引では、そのような関係性が構築しづらい。このことがプライベートマーケットプレイスや、プログラマティックダイレクトの普及の背景として挙げられると思います。
--プログラマティック取引は、金融市場が由来であると聞きます。金融市場にあるような、例えば先物取引のようなオプション取引が生まれてくる可能性はありますか。
先物取引という概念については、もう何年か前から出ているものの、実際に機能する取引形態の一つのキーワードとしてはまだ出てきていません。金融市場であれば、スポットで買うよりも先物で買ったほうが安く買えることがありますが、広告取引の場合にはその逆で、先物のほうが高くて掲載開始期限が迫ると安くなります。そうすると、広告のバイヤー側にとって、その先物を買うインセンティブが低くなる。ただ、プログラマティック取引はまだ始まって3、4年ほどの市場です。例えば15年後くらいには、先物という取引形態も出てくるのかもしれないですね。
世界有数の日本市場に対する想いと投資、そしてPubMaticの今後
--貴社の日本市場での今後の展開について聞かせてください。
日本での今後のビジネスに関しては、2015年は二つのKPIを設定しています。まず一つ目は、売上を2014年の2倍にすること。売上を倍増させるためには、おそらく大手パブリッシャーとの取引することになると思いますので、必ずしも提携先のパブリッシャー数が増えるとは限りません。今後は、大手のパブリッシャーとの取引を拡大していくことになると思います。
二つ目は、現在8名いる日本市場にフォーカスしているメンバーですが、この人数をこれから13、14人ぐらいにしていきたいと思います。
日本の広告市場は、世界でもトップ3に位置する規模の市場です。ですから、プログラマティック市場の観点でも世界でトップクラスの規模になるであろうと予想しています。PubMaticにとっても、日本における売上が世界で2番目、3番目の市場になるよう取り組んでいきます。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。