「5秒」は、新しい広告ビューアビリティの基準としてふさわしいのか?
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
ビューアビリティ。ブランド企業は、騙されることにうんざりし、かつて無いほどの透明性を求めるようになりました。ビューアビリティは今、オンライン広告業界が直面している最も大切な課題の一つです。大石油会社のシェル社は、現在オンライン広告・スペースの購入を検討しており、これを機にこれまでの業界標準の5倍の水準を求めています。
IABは、ビューアブルなアドとは、広告の50%が1秒間に画面上で見られる状態という『業界全体のコンセンサス』をもって、業界をリードしようと試みました。
しかしながら、世界中で最も高い評価を受けているブランドの内の一社が今、投資決断をする前に、その5倍の水準を求めてきています。
この発表は先週のIABのRTA(リアルタイム広告)会議において行われ、この会議において、シェル・インターナショナル・ペトロリウム・カンパニー・リミテッド社グローバルメディア・マネージャーのアメリコ・キャンポス・シルバ氏(右写真)は、聴講者を前にして、アドテック・スペースにおける大きな改善への期待を述べました。特に、ブランド広告が果たして人に見られているのか、またどこで見られているか、という点についての情報改善を求めました。
ブランド広告主であるシェル社は、同様にプログラマティック広告に対しても大いに関心を示す一方で、懸念も抱いていました。彼らは出版社とアドテック業者は等しく各々のメディアプランについての価値を明示し、それによりその価値が確実に供給されるようにすべきであると主張しています。
『広告を買うことは株式市場へ投資を行うこととちょうど同じようなものです。』
キャンポス・シルバ氏は、プレゼンテーションにおいて「勿論、私たちにとってはプログラマティックも重要ですが、同時にブランドに対する安全性と透明性にも非常に重きを置いております。正直に申しますが、私は『アービトラージ』という言葉はあまり好きではありません。ビューアビリティの観点から言うと、私たちが見ているのは驚異的な青写真なのです。
「私たちがIABから(ビューアブルなアドとは何であるかという議論において)理解しているのは、広告が1秒間見られるべきものであるという考えですが、少なくとも私たちにとってそれでは不十分です。私たちは、最低でも5秒間は見て貰いたいと思っております。私はIABの定義よりも、我々の意見を優先したいと思います。」
「様々なプログラマティックのサプライヤーに対して行ったテストを通じて、プログラマティックの利用とビューアビリティ・レベルの減少には相関性があることが分かっています。これは私たちの例に限定的な事象かもしれませんが、私たちがテストを通じて発見した事でもあります。」
更に、キャンポス・シルバ氏は、「ビューアビリティについての『1秒』は受け入れる事が出来ません。私たちは5秒を目標としています。それがベンチマークであり、またゴールです」と述べました。
「広告主として、私たちは広告を買うことを株式市場へ投資を行うことと同様に捉えており、自社の広告がどのようなパフォーマンスを見せるかを常に推測しています。しかしながら、(プログラマティックにおける)問題は、広告を購入しても一体何を購入しているのかわからない事です。」
更に「(私たちが取引をしている)代理店もこの問題に突き当たっている場合があります」と述べ、ビューアビリティに関しては、必ずしも全てのパブリッシャーが、このような需要を率先して満たそうとしているわけではないと付け加えました。
キャンポス・シルバ氏は更に、パブリッシャーのウェブページ上に掲載された「見えない広告」及びその他の詐欺的な掲載を例示し、シェル社の注意を引くことになったその他諸々のミスについても指摘しました。
また「パブリッシャーの方に一言お願いしたいと思います。つまりそれは、詐欺的行為を見逃さないでください、ということです。出版社の方々の努力や注意で上手くクリックを稼いでいる業者の数を随分減らすことができるはずだと思います。」と述べ、ビューアビリティの水準を高めようとして頑張っているパブリッシャーは一握りにしか満たない点に言及しました。
Millennial Media社の欧州・中東・アフリカ担当プログラマティック責任者ポール・ガビンズ氏(右写真)もIABのイベントに出席し、IABのガイドラインは最小限の基準であり、基本的な基準としてのみ使用されるべきであると述べました。
ガビンズ氏は、エクスチェンジ・ワイヤーに対して次のように述べました。「IABデジタル・トレーディング協議会の審議員として、『1秒間に50%のアドが視聴された場合にビューアブルであるとみなされる』というIABのデスクトップ用のガイダンスは最良の手法ではなく、詐欺防止を簡単に実施するために設定された必要最低基準でしかないということを指摘するのは重要であると思います。業界としては、勿論、デジタルメディアの取引が必ず、最低基準をはるかに越えて実践されることを望んでいます」と述べました。
またガビンズ氏は、ビューアビリティの取り組みについては、特に視聴者がモバイルに移行していく際に取り組まれるべき課題であると指摘しました。
「MRC(メディア・レイティング・カウンシル)基準とIAB基準はまだモバイルには適用されておらず、Millennial Media社はこれらの団体及びその他のパートナーの方々と共同で作業を進め、ブランドの安全性、アド認証及びビューアビリティのクリティカルな部分においてベストプラクティスを定義するよう努力していきます。私たちは、独自のSDKフットプリントにより、ブランドの信用に足るような公正で実証可能なトラフィックを提供出来ると信じています」とつけ加えました。
一貫した測定基準
IABプログラムズ・マネージャーのデイビッド・フリュー氏(左写真)によれば、シェル社の広告が『ビューアブル』であると判定されるためには5秒間視聴されるべきであるという考え方は一つの可能性ではあると述べたものの、広告市場に対してそれ程までには敵対的なアプローチが必要で、一貫性のある測定方法がより高いレベルのエコシステムへの手がかりとなると付け加えました。
「透明性の高いプロセスにより効率を最大化することができます。5秒間ビューアブルのマージンは、パートナー間の相互合意により達成できるものです。IABの1秒間で50%ビューアブルといったガイドラインはあくまで基準値であり、全ての人にぴったりと合うような万能なものではないのです。要は、視聴者を理解することが重要です。」と付け加えました。アドテク業界は、アドのビューアビリティに関する見解の不一致については、オンライン出版業組合(AOP)、広告代理店協会(IPA)及び各団体のメンバーに対してアドのビューアビリティを測定するための基準を作り上げるために働きかけているIABと共に解決しなくてはならない重要な課題の一つである断言しており、簡明な取引基準を設定することを長期的なゴールとしています。
つい最近、 IAB Europeは、ヨーロッパ大陸のデジタルアド分野の関係者を対象に、ビューアブルなアドのインプレッションについて更に詳細なガイドラインの白書を発行しました。
本文書では、ビューアブルなインプレッションについての助言や、またデジタル広告エコシステム内の様々な関係者の見地から、より幅広いポートフォリオからいかにビューアビリティを評価するかいついてのガイダンスを提供しています。
更に、とりわけブランド広告主によるデジタル広告への投資を引き立てるために、この分野において使用される専門用語の一部について、その定義づけを行っています。
しかしながら、パブリッシャーの要人の中には、それぞれの立場を主張し様々広告形式に独特のメトリクスを適用することを進め、また一方では、アドテクベンダーからのレポートに見られる差異を今でも認めるわけにはいかないと主張する団体もいます。
La Place Media社マネージング・ディレクターのファブリアン・マガロン氏は、最近実施したパブリッシャーの組合員監査において確認された違いの大きさは許容できないと述べました。
マガロン氏は、「私たちの経験から言うと、ビューアビリティを測定する会社は、似通った広告配信のビューアビリティに対して全く異なった評価を行う傾向があります。実際、こんなにも異なった評価をするのかと驚く例があるくらいです」と述べました。
2015年のビューアビリティ処理の状況
アメリカ合衆国で2014年12月に同業の販売組合である4A’s及びANAと共同して発行されたIABの広告ビューアビリティ・ガイドラインの最新版では、2015年は『視聴者の課金単位』に関しては、『過渡期』であると定義付けしました。
『2015年のビューアビリティ処理の状態』という題名の報告書内に掲載されたガイドラインには、買手と売り手のしきい値を70%としており、100%のビューアビリティは、『ビューアブルなインプレッション数を課金単位としている広告主、代理店およびパブリッシャーにとっては合理的ではない』というMRCの主張を後押ししております。
同じ時期に発行されたプレスリリースには、米国、IABの会長兼最高経営責任者ランドール・ローセンバーグ氏の「MRCの『100%という数値は現在合理的ではない』という発言は実態を最もよく表現しています。なぜならば、異なった広告単位、ブラウザ、広告配置、ベンダー、そして測定方法は、著しく異なったビューアビリティの数値を生み出すからです」というコメントを引用。
この報告書はまた広告主はキャンペーン中のアドインプレッションの数字に基づいて費用を請求されるべきであると主張し、また更に測定できるものと測定できないものの2種類に分類されるべきであると助言しています。
現在の技術的な制限や、パブリッシャーが認識している30-40%の測定値誤差を考慮に入れた場合、過渡期にある本年(2015年)においては、測定されるインプレッションはビューアビリティ値の70%とすることが適当だと考えられます。キャンペーンにより、測定されるインプレッションが70%のビューアビリティに達成されない場合は、パブリッシャーはその値が達成されるまで、ビューアブルなインプレッションを追加するべきです。
そのような保証によって、有料の測定可能な広告インプレッションは、最低限の基準と計測された値の範囲においてビューアブルであることを確定させることが出来ます。詳細は以下のビデオにて確認ください。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。