KAIZEN 須藤氏による「導入決定後に陥りがちな罠」を回避する方法 [チェックリスト付き] |WireColumn
皆様こんにちは。
KAIZEN platform Inc.の共同創業者 兼 CEOを務めています須藤です。
私は、前職リクルートで沢山のアドテクノロジーの導入をしてきました。
前回はツールの選定方法と投資回収の考え方についてお伝えしましたが、今回は「導入決定後に陥りがちな罠」と「それを防ぐための運用体制」について、過去の失敗も含めお伝えしていきたいと思います。
導入までの8Step
マーケティングツール導入のプロセスには、細かく分けると下記8つのステップが必要です。
① | ゴール設定(何を実現したいのか?コスト削減?バリューアップ) |
② | ①を実現するためのシナリオ、ユースケース設計 |
③ | ②を実行するための体制づくり |
④ | ③を実施していくためのトレーニング |
⑤ | フィジビリティ設計 |
⑥ | レポート設計 |
⑦ | 本格導入 |
⑧ | 振り返り |
これは基本的に、どんなマーケティングツールの導入にも必要になってくるステップです。
導入が決まってから陥る罠というのは、ほぼ全てがこのプロセスになんらかの不全がある時に発生します。
逆にいえば、これらのプロセスをしっかり実施することで、ほとんどの罠が回避できるということになります。
それでは、一つ一つ見ていきましょう。
“ゴール設定”の罠
ゴール設定には大きく分けて2パターンの失敗ケースがあります。
① そもそもゴール設定をしていない/あるいは曖昧 |
② ゴール設定に無理がある/無理をしないとそもそも費用対効果が出ない |
前回の自社に合うツールの選定方法と投資回収の設計方法でもお伝えしましたが、ゴール設定は基本的にはコスト削減か、バリューアップ(売上拡大、利益拡大)かの2つに修練されていきます。
どちらを目指すのか。どのような運用体制を組んで、どのような効果を狙っていきたいのか?をクリアにしておかないとそもそも振り返るべきポイントを見失ってしまいます。
なので、①のような状況は最低限、避けなければいけません。
よくあるケースは、②の無理のあるゴール設定です。
素晴らしいマーケティングツールを導入するのですから高い効果を望むことは当然ですが、無理しないと投資対効果が得られない場合は、往々にしてそのツールが自社の規模の間尺にあっていないということになります。
再度、導入について見直すべきです。
無理に導入しても厳しい結果になる可能性が高いので、導入のトライアルなどでしっかりと見極める必要があります。
シナリオ、ユースケース設計の落とし穴
これは前回前々回、ツールの選定のところでもお伝えしたのですが、一番よく実施される方法は、エクセルで機能と価格を比較して選定する方法だと思います。これは、一般的に機能と価格という2軸での比較を行っていくことになります。
マーケティングツールはツール単体では効果を上げてくれません。実際に運用していくことで効果を上げていくものがほとんどです。その際に、どのキャンペーンでどのように使っていくのか?具体的な利用シナリオとユースケースをしっかりと設計しておくべきです。
なぜ機能比較ばかりして、自社の具体的な利用シナリオを考えないのか非常に不思議なのですが、多くの企業はそもそもこのステップを忘れていることが多いです。
ですので、導入後にどれくらいのキャンペーンでどのように使っていくのかをしっかり想定してみてください。
そうすることで、機能比較の際に、自社にとって必要な機能の優先順位も見えてくるはずです。
体制づくりの盲点
さて、ここも意外と盲点です。導入後にどのような体制で運用していくのかという問題です。
そもそも現在の体制のままでツールを導入するつもりでいる企業がほとんどだからです。
本当にそれでいいのでしょうか?多くの企業が、今の体制にツールを入れれば効果が上がると考えがちです。ただ、ほとんどの場合、そんな風にはいきません。現場の業務フローをしっかり見てください。現実は、今の業務を回すことだけでも必死の状態ではありませんか?
そんな状態で、新しく導入したツールを学習して、新規の業務が発生していくというのはどんなに優れたチームにとっても至難の技です。かつ、ほとんどのマーケティングツールというのは、運用者の時間や手間をかけることで効果を上げるように設計されています。
つまり、運用者の時間を奪うものがほとんどなのです。この事実から目を避けることは出来ません。ですから、新しいマーケティングツールをどのように使うかは、時間を捻出する、または人を増やすかの2択を迫られるケースがほとんどです。
代理店に運用してもらおうと考える時も同じです。結局自社のマーケティング運用にあたってくれている人の時間を使う必要がありますので、必ずなんらかの業務に影響が出ます。きちんと優先順位を決め、捨てる業務を明確にしておくのもクライアントのリスクマネジメントの一環だといえます。
そして、なかなか効果が出ていないケースの多くはリソースをしっかり用意しないことから起きているというのも事実です。
大きなインパクトとなる人件費にはあまり手をつけたくないという決裁者の方も多いですが、それではせっかくのツール導入も台無しになってしまう可能性があります。体制をしっかりとつくることで、想定通りのシナリオやユースケースでの運用が可能になり、ゴールを達成するという構造がつくりやすくなります。
ゴール設定、シナリオ・ユースケース設計、体制づくり。導入の成否はこの3つが分けているといっても過言では有りません。
お気づきだと思いますが、この3つに関しては導入決定前から開始できますので、ツールベンダーや代理店と一緒にしっかり検討いただくだけで、
「こんなはずじゃなかった!」
という事態の9割くらいは防いでくれるはずです。
導入決定してからのこれらのステップをベンダーと一緒につくることをお勧めします。ツールベンダーは色んな企業の導入を見てきているはずですから知見が沢山あります。それを最大限引き出しながら、その後のプロセス設計を恊働することでいっそう考慮漏れを防ぐことができるはずです。
トレーニングにおける考慮漏れ
ここは、至ってシンプルです。高機能なツールを使えば使うほど、長い学習期間が必要です。
この学習期間をしっかり想定しているかが重要です。導入した直後から使えて、すぐに効果が出るなんていうマーケティングツールはなかなかありません。
かなりシンプルなツールでも一週間。実際に使ってみると、色々な疑問点が出てくるはずです。
高機能であればあるほど使いこなすのに時間がかかります。最近多く見かけるようになった、ツールが学習してくれる自動学習型のツールも、結局データを読み込みながら学習し、最適化していくのに2週間から1ヶ月ほどかかります。
このトレーニング期間というリードタイムをしっかり計算しておかないと、せっかくツールを導入したのに繁忙期に間に合わないなんていうこともありえます。ご注意を!
フィジビリティスタディ設計の必要性
さて、マーケティングツール導入後のフィジビリティスタディとは何か?導入前であればやるけど、導入後にやる必要があるのか?これは、キャンペーン全体、あるいは全社へ導入していくスケーリングのためのフィジビリティスタディの設計です。
導入前に実施するテストケースは、大抵導入障壁の少ないライトな案件を選んで実施されているケースが多いのではないでしょうか?その後の本格導入に際しては、明確にスケールできるかどうかのテストが必要です。
これはツールだけではなく、運用体制も含めてテストする必要があります。本格的に導入していこうとすると、手を付けづらい重たい案件を進めていく必要があります。それには、要望や運用難易度の高いところでしっかりと成果を残すことができるかを見極めること。その目的に合致した案件を実施してみて、しっかりとスケールさせるイメージを持つことが重要です。
レポート、運用設計の重要性
さて、ここはマーケターの皆さんにとって重要なところです。どのようなレポートが自分にとって必要か?ステークホルダー、特に経営に対してどのようなレポートを提出すべきか?この2点にしっかりフォーカスして検討する必要があります。
・ 項目 |
・ 各数値の定義 |
・ 頻度 |
・ 見せ方 |
ターゲットや目的によって大分異なる形式になると思いますが、重要なことは、レポートを設計することでゴール設計の見直しが出来るということです。
レポート設計まで実施しておくことで、ゴールにたどり着くようなモニタリング体制になっているか?その数字を見ていくことで自分たちの活動は改善されていくか?課題や成果を見える化できているか?などさまざまなことを見直すことができます。
また、レポート設計をしていくことで、運用設計もクリアに見直すことができます。
以前、60社程度のマーケティング業務フローを調査したことがあります。
その時に驚いたのが、半数近くの企業で現場のマーケティングリソースの30%以上がレポーティングに割かれていたという事実です。多い企業では、40%以上をレポーティングのために費やしていました。
およそ半分の時間が自社のレポーティングのために使われているのです。
マーケティング活動におけるPDCAの中で、PlanningとCheckに大半の時間を使ってしまうと、ExecutionするためのDoへの時間がどんどん減ってしまいます。より有効なマーケティングを企業が望んでいるのに皮肉な結果です。
結果を出していくために、いかにExecutionに時間を使うか。そのために、いかにレポーティングを自動化するか、省力化するかが非常に重要だということを改めてお伝えしたいと思います。実際に運用していくことで効果を上げていくものがほとんどです。その際に、どのキャンペーンでどのように使っていくのか?具体的な利用シナリオとユースケースをしっかり設計しておくべきです。
本格導入〜振り返りについて
さて、最後に振り返りですが、当初のゴールが達成できたのか?をきちんと振り返ること。
そして、未来に向けて、起きた問題や対応をまとめてナレッジ化し、マーケティングツールのROIを計算しておくことをお勧めします。というのも、必ずそこで起きた問題や対応などの情報は、今後につながる極めて重要な知見になりますし、人が変わるとナレッジがなくなってしまうと何度も同じ失敗を繰り返す構造になってしまいます。
それらを振り返るところまでがマーケティングツールへの投資だと強く認識のうえ、取り組んで頂けると非常に幸いに思います。
チェックリスト
ここまでお話ししてきた導入までの8stepのチェックリストを作成しました。
ぜひ、ご自由にご活用ください。
“ゴール設定” の罠 | |
きちんとゴール設定をしているか?曖昧にしていないか? | |
ゴール設定に無理はないか?妥当なものになっているか? | |
シナリオ、ユースケース設計の落とし穴 | |
自社の具体的な利用シナリオをきちんと考えているか? | |
導入後にどれくらいのキャンペーンで、どのように使っていくのかを想定しているか? | |
何の機能を使うか、あるいは使わないかが明確になっているか? | |
体制づくりの盲点 | |
現在の体制のままでツールを導入できる状態になっているか? | |
そうでない場合どのようにして時間を捻出するか?何をやめるか明確になっているか? | |
あるいは人を増やすか? | |
トレーニングにおける考慮漏れ | |
学習期間をしっかり考慮しているか? | |
自動学習型のツールの場合、効果が出始めるのはいつ頃か?それを考慮しているか? | |
フィジビリティスタディ設計の必要性 | |
全キャンペーン、全社へ展開してスケールさせていくためのF/Sはきちんと設計しているか? | |
レポート、運用設計の重要性 | |
必要なレポートがどんなものか設計できているか? | |
ステークホルダー、特に経営に対して出すべきかレポートが設計できているか? | |
きちんとゴールにたどり着くようなモニタリング体制になっているか? | |
その数字を見ていくことで自分たちの活動は改善されていくか? | |
課題や成果を見える化できているか? | |
そのレポートも含め、きちんとExecutionできる時間を確保できているか? | |
本格導入〜振り返りについて | |
当初のゴールは達成できたのか?きちんと振り返っているか? | |
きちんと起きた問題や対応をまとめてナレッジ化できているか? | |
マーケティングツールのROIを計算できているか? |
最後に
最後に、マーケティングツールのROIですが、繰り返しお伝えしているようにマーケティングツールはツール単体では効果を上げてくれません。実際に運用していくことで効果を上げていくものがほとんどです。実際のマーケティングツール導入のROIは、下記のように計算されます。
※前回の再掲です
このROIを最も最大化することが真の意味での比較になります。
そこで、自分も経験しましたが、運用コストをきちんと設定していないために成果があげられていないケースがほとんどです。しっかりとした運用体制を追加で投資するだけで、採算にあうような投資を沢山見てきました。
マーケティングツールのようなハード面だけではなく、ソフト面、特にマーケティング人材への投資をしっかりと実施していくことでROIを高めていくことができることをお忘れないようにご注意ください。
次回は、マーケティングツールの新潮流についてお話ししたいと思います。
ABOUT 須藤 憲司
KAIZEN platform Inc. Co-founder & CEO
2003年リクルート入社。マーケティング局、事業開発室を経て、2009年アドテクノロジーを活用しビジネス展開するアドオプティマイゼーション推進室へ。
2011年より室長を担当。最新アドテクの導入を4年間リード。
2013年6月末退職し、シリコンバレーでKAIZEN platform Inc.を創業。
驚くほど簡単にA/Bテストができる WEB サービスの Growth Platform 「planBCD」を提供。https://planb.cd/