プログラマティックの価値、トレーダーに求められるスキル、将来像 [Maxifier Summit 2014]
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on 2014年7月30日 in(ライター: 柏木 恵子)
7月16日に開催された「Maxifier Summit 2014」では、株式会社デジタルインテリジェンスの代表取締役 横山隆治氏をモデレーターとしたパネルディスカッションが行われた。4名のパネリストが、プログラマティックの価値、トレーダーに求められるスキル、また将来像について議論を交わした。
・Xaxis 、アジア太平洋地域 マネージング・ディレクター マイケル・デ・リジック氏
・株式会社プラットフォーム・ワン 代表取締役社長 秋葉典秀氏
・株式会社イーグルアイ 代表取締役社長 近藤洋司氏
・Mediabrands Audience Platform ディレクター(Cadreon担当部長)富田匠氏
異なる立場から見るプログラマティックの価値とは?
パネルディスカッションは、プログラマティックの定義とその現状、将来に関する話から始まった。
Xaxisのリジック氏は、他の講演者とは意見が違うかもしれないと断った上で、「プログラマティックの一番のメリットはワークフローの効率化ではなく、大量販売が可能であること、そしてチェリーピッキング(良いものだけを選ぶ)ができること」だと述べた。将来の方向性については、「活用はまだ始まったばかりだが、今後接続されるデバイスが増えると思う」とした。
プラットフォーム・ワンの秋葉氏は、「プログラマティックはプラットフォームを使ったメディアトレーディングの総称」と定義した上で、オートメーション化によって流通量が拡大するとの考えを示した。
イーグルアイの近藤氏は、「自社データやサードパーティデータを含めて、データを駆使して買い付けを行うという行為自体がプログラマティック」だとし、「現時点ではまだ人間の勘に頼っている部分が多く、部分最適になっている。今後は徐々に自動化される部分を増やして行くべき」と述べた。
「広告出稿がデータ獲得の手段になる、そのためにあるのがプログラマティック。現状は日本国内で流通しているデータに限りがあるが、今後はデータ流通の拡大によって統合的な分析やモデリングが可能になると思う」と話すのはMediabrandsの富田氏。データの蓄積によって、インプレッションしたユーザーの情報が可視化され、従来の純広告にはなかったメリットとなる。それによって枠の取引価値を説明し、次にアクションを判断をしてPDCAをまわすことができる。
プログラマティックの価値を、広告主や代理店、メディアに対してどう説明しているのかという質問に対して、富田氏は「得られるデータの量が違う」という点を真っ先に挙げた。また、顧客企業のCRMと連携して統合的に分析しながら広告出稿の最適化ができるといった未来像を提示しながら説明するという。
多様なターゲティングや詳細なレポートといった利点があるが、広告主に対して強調するプログラマティックの最大のメリットは「パフォーマンス」だと話す近藤氏。
秋葉氏とリジック氏は、パブリッシャーと広告主はそもそも求めることが違うと指摘。いかにそれをWin-Winにするかを説明するという秋葉氏に比べて、リジック氏は「広告主はそこを気にする必要はない」と提言。広告主の目的はターゲットにリーチすることで、手法はさておき結果さえ出ればいい。パブリッシャーが提供できるプログラマティックの価値は、広告主の費用対効果を上げることに他ならないとまとめた。
プログラマティックのトレーダーに求められるスキルとは
横山氏は、リスティング広告の運用者をオペレーターと呼び、プログラマティックの運用者のことをトレーダーと呼ぶ。リスティング広告のオペレーションはキーワード選定や日々の入札調整などいくらでも細かく入り込むことができる。一方プログラマティックのトレーダーの役割は、世の中の変化を24時間365日見ながら対応を考えることだ。
リスティング広告のオペレーションでは担当者が日々の個別最適に埋没することでバーンアウトしてしまうケースも多く、人材が定着しないのも問題だという。プログラマティック広告のトレーダーのスキルセットの価値が高まり、スキル向上が年収に直接反映されるような環境を作りたいと横山氏は話す。
欧米での取り組みについてリジック氏は、「金融業界など他業界からアナリストが参入してトレーダーになる例がある」と紹介。高収入業種の象徴とも言える金融トレーダーが就くほど、スキルセットノ価値が高く認識されていることになる。
近藤氏は、「トレーダーよりもマーケターになる感覚」だと話す。市場規模がそこまで大きくなく、一般的評価のための共通言語がないため、トレーディングのパフォーマンスとスキル評価が連携する環境が出来ていない。だが、少なくとも広告主のKPIを達成することは社内での評価に直結する。トレーダーの星などによるランキングを導入するなど、プラットフォーマーとして、こうした環境整備には力を入れていくべきだとの考えを示した。
一方リジック氏は、「人材不足だけが課題ではない」とする。「異業種からトレーダーを連れてくる以前に、ビジネスを推進する立場の人たちを教育することが必要」ということだ。トレーディングそのものも大事だが、広告主がプログラマティックの有益性をきちんと理解していることがその前提となる。
人材やデータにかかるプログラマティックの未来
最後の議題は、プログラマティックの将来像とそれに必要となる準備。まずリジック氏は、「プログラマティックはグローバル化を推進するが、グローバルな広告主に効果をもたらすためにはローカルデータやローカルインベントリをしっかり把握することが必要」と指摘。
富田氏は「まずは人材の開発が急務」とした上で、最大の課題はエージェンシーがチームとして動くことになる際の従来の営業担当者への啓蒙だと提言。彼らにも、プログラマティックによって実現することなどをしっかり理解してもらう必要がある。
またデータの問題も避けて通れない。高級車を買った人のデータは他に活用することもできるが、それを外に出すわけにいかない。データを金銭的価値で流通させるのではなく、データ自体を通貨のように取引するなど新たなパラダイムが求められる。富田氏は、「プログラマティックやデータ分析を広げる上で、データがアノニマスな(匿名性の)状態で流通する基盤が必要」と述べた。
データの重要性については、近藤氏や秋葉氏も同意見。特にエージェンシーの立場ではデータの蓄積が重要になる。近藤氏は「プログラマティックはバイイング全体の数%に過ぎず、それ以外のキャンペーンデータも含めた蓄積が必要。それを転用できてこそ、エージェンシーでやる意味がある。データの蓄積と、それが全方位に使えるようにしていく準備が必要不可欠」と話した。
(編集: 三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。