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コンデナスト社が明かす「デジタルイノベーションと広告による、収益とエンゲージメントを加速化する方法」 [Maxifier Summit 2014]

Conde Nast社 クリストファー・グンサー氏

-- Maxifier Summit 2014レポート その1 --
コンデナスト社 デジタル・オペレーション/マネタイゼーション部 ヴァイスプレジデント クリストファー・グンサー氏

 

媒体社の広告管理最適化ツールを提供するMaxifieは、主に媒体社を対象とするアドテクノロジーにイベントを毎年開催している。7月16日、3回目となる「Maxifier Summit 2014」がプログラマティクをテーマにして開催された。そのセッションの中から、プレミアムパブリッシャーによる基調講演を取り上げる。

(ライター: 柏木 恵子)

 

 

 

コンデナストのプログラマティック広告への対応

 

Conde Nast Publications(以下、コンデナスト)は、米国を本拠地とする多国籍雑誌の出版企業である。ファッションやトラベル、テクノロジーなど20以上のブランドを持っている。日本では、VOGUE、GQ、WIREDなどのメディアを展開している。

 

デジタルへの取り組みは早期から行っており、従来の紙媒体に加えてデストップ向けのオンラインメディア、スマートフォンやタブレット向け、ソーシャルメディアと、コンシューマとのタッチポイントを拡張して広告主の期待に応えてきた。ビデオ、デジタルアドバタイジング、インテグレーテッドマーケティング、データといったまだ新しい分野への投資も進めている。

 

出稿のプロセスをなるべくシンプルにし、かつ効果的な広告を出したい広告主は何より合理的であることを求める。そのニーズを満たすのが、上述した4つの分野のうち「データ」に含まれるプログラマティック広告だ。

 

多くの場合、プログラマティックは余剰在庫を効率的に(つまり低コストで)販売するためのものと考えがちだ。しかし、それだけではないとグンサー氏は言う。プログラマティックによって広告出稿のプロセスを簡易化し、ミスをなくすことに意味があり、プレミアムな広告枠であってもプログラマティックで販売することができる。むしろ、プログラマティックにすることで従来より高額で販売できる可能性もあり、さまざまなデータが取得できるため効果や効率の可視化が実現する。これを理解しているプレミアムパブリッシャーでは、プログラマティクへの対応が進んでいると言う。

 

 

 

社内に「キャタリストデスク」を結成

 

2-3コンデナストでは、2013年にGoogleなどからアドテクノロジー各分野のエキスパートを採用し、キャタリストデスクを結成した。社内トレーニングやオーディエンス拡大、戦略的投資に対するアドバイザリーなどの業務を行うが、最も重要なのはコンデナスト内におけるプログラマティックのためのベストプラクティスの開発・実行だ。

 

コンデナストでは、プログラマティック買い付けの種類として以下のIABの定義を採用している。

 

(1) 在庫予約型固定単価取引:固定レートで在庫予約

(2) 余剰在庫固定単価取引:固定CPM、在庫は予約不可

(3) 非公開オークション:CPMは変動、広告主は招待制

(4) オープン制オークション:オープン取引プラットフォームでの予約不可な在庫

 

キャタリストデスクが提供するサービスは、このうち (1) から (3) である。

 

固定レートで在庫予約可能な(1)は伝統的なディスプレイ広告と似ているが、これをプログラマティックのパイプを使って行う。広告枠販売を手売りしていた従来型の方法は多くの手間とコストがかかっていた。プログラマティックによってプロセスを簡易化すればコスト削減につながり、人的リソースを付加価値のある作業に投入できるようになる。

 

また、透明性のレベルでもレートが変動する。最もレートが高いのは個別パブリケーションで、例えば「CNTravel.comに出稿」などメディアを決め打ちする場合である。次にレートが高いのは、例えば「女性向け最新ファッション」などカテゴリーに対してターゲットする場合。その他、何も指定せず広告主自身が持っているデータを使うのがRON(run-of-network)である。

 

プログラマティック活用のステップは以下のようになる。

 

(1) プログラマティックチームを構築

(2) 営業部隊を教育

(3) 既存製品とプログラマティックオプションを同時販売

 

プログラマティックチームを構築した後は、プログラマティックはあくまで従来型の営業活動を補完するもので、営業部隊の脅威ではないと理解させることが必要だ。広告主のニーズを満たすためには、従来営業とプログラマティックの両方を提供できる体制にすべきである。

 

 

 

ユーザーにとって有益で面白い「ブランデッド/ネイティブコンテンツ」

 

コンデナストは、プログラマティックへの対応と並行して、より付加価値の高いデジタル広告商品開発を行っている。ひとつは、最近バズワードともなっている「ブランデッド/ネイティブコンテンツ」だ。

 

ブランデッド/ネイティブコンテンツとは、「非メディアブランドが開発、あるいはそのブランドのために開発されたコンテンツ」という意味である。コンデナストの「コンテンツとは、ユーザーが純粋に有益または面白いと思うものであり、売り込みではない」という哲学に基づくと、ネイティブコンテンツは「売り込みではなく、楽しみや有益な情報などの付加価値を提供するもの」ということになる。「記事」と「広告」の中間に位置すると言ってもいい。クライアントと長期的な関係性を築きたい、ユーザーともっと関係性を深めたいと思っている広告主にとってうまく機能する。

 

 

ブランデッド/ネイティブコンテンツには、以下のような長所がある。

 

・従来の広告では受容性の低いオーディエンスとのエンゲージメントの実現

・表現したいトピック、テーマ、課題などとブランドをつなげる

・ブランドによるアクションのニュアンスや複合的なストーリーを語れる

・価値あるものを提供することで、オーディエンスとの関係を徐々に構築する

 

 

一方、一般的にブランデッド/ネイティブコンテンツが苦手とされるのは以下のような点だ。

 

・製品バリューの直接的コミュニケーションや明確なブランドストーリーを語る

・オーディエンスをただちに購入につなげること

・オファーやインセンティブ、クーポンなどの提供

 

 

主な米国の事例として、Dove(ダヴ)の「Real Beauty Sketches」(ブランドへの言及がない)や、Intel & Toshibaの「The Beauty Inside」(ビデオに東芝製品が登場するものの、製品の紹介が目的ではない)、Patagonia(パタゴニア)の「Worn Wear」(ドキュメンタリー手法を用いてパタゴニアの商品を説明)などのコンテンツがある。これらはYouTubeなどで見ることができる。

 

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コンデナストで取り組むベストプラクティスは以下のようなものだ。

 

(1) ユーザーを中心とした記事レベルのアイデア

(2) 編集・ジャーナリズムのプロセスを利用

(3) プロフェッショナルと協働(クレジットを与え)し、意見を尊重

(4) 環境に対して「ネイティブ」になる見出し・画像・フォーマット・トーンなど

(5) リンクやCTA(Call to Action: 行動喚起)使用はなるべく控えて有効に

 

インテグレーションとエンゲージメントは反比例するため、ブランドの価値やその製品・サービスについての直接的な表現をぎりぎりに留めることが重要だ。

 

 

 

コンデナストのマルチでバイス対応

 

2-2コンデナストによるもうひとつの取り組みがモバイル対応である。スマートフォンやタブレットの普及は世界的に進んでおり、米国や日本も例外ではない。デジタルデバイスの利用時間は、PCとモバイルでほぼ半々になっている。また、モバイルには他のプラットフォームと比較してオフラインのコネクションが強いという特長がある。一方で、広告出稿額は依然として紙媒体が多く、利用時間と広告出稿額の落差が激しい。

 

 

例えば、メールマーケティングで受け取ったメールをスマートフォンで開いた時のリンク先がPC用ページだとしたら、良いユーザー体験にはならない。そこでコンデナストでは、Webサイトのすべての記事、広告をモバイルに最適化している。

 

 

広告主のニーズは、正しいオーディエンスにリーチし、品質のよい広告を出すこと。本来、どのプラットフォームであるかを意識する必要はないはずだ。コンデナストでは、一度広告枠を買えばすべてのプラットフォームにクリエイティブが最適化されるため、ユーザーのスクリーンに関わらず確実にリーチすることを確約している。広告主にとっては広告の効率化が実現し、パブリッシャーもまた在庫をよりよく活用できる。

 

最後に、グンサー氏は「ビューアビリティ」という言葉を取り上げた。この1年くらいで大きく取り上げられるようになった、エンゲージメントの指標のひとつだ。広告費を支払ったのだから、広告は当然見られているものと広告主は考える。パブリッシャーには、コンテンツと広告の両方を引き立てる「クリーン」な環境を提供することが求められる。現在はまだ試行錯誤の段階であるため、測定値と現実との整合性が重要となると指摘した。

 

 

(編集: 三橋 ゆか里)

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。