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日本のインハウス・リスティング広告の3人のキーマンに聞く、近年の検索広告業界の実情と今後のトレンド予想

検索広告の業界マップ2014年版を更新するにあたり、昨年「インハウス・リスティング広告」を執筆したハイパス株式会社 代表取締役 小西一星氏、リスティングラボ株式会社 代表取締役 西村多聞氏、株式会社ディレクタス 経営企画室室長 橋野学氏に、検索広告の最新トレンドと2014年の展望を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)

 

 

 

 

個人事業レベルの少額予算にまで検索広告が浸透

 

 

--まず皆様のバックグラウンドも含めて、普段のお仕事の概要を教えてください。

 

inteview-3名小西:前職は、広告代理店の営業マンでした。解析やリスティング広告をかなり触っていて、それを突き詰めるために独立しました。運用の専業、企業代行の個人事業主になり、現在は法人化しています。独立した直後にSEMカフェというコミュニティを始めて、勉強会や情報交換のイベント、情報発信をしています。

 

西村:リスティング広告のメディア側にいました。2002年の年末、リスティング広告が日本上陸して、Yahoo!とGoogleがサービスを開始しましたが、僕は2003年4月にOvertureの日本法人に入社しました。リスティング広告のサービス提供側の営業を経験しました。Overtureで4年過ごした後にGoogleに転職しましたが、2010年に小西さん達と出会って刺激を受けて、起業しました。

 

橋野:代理店で、広告運用組織の構築に取り組んでいました。未経験の人を雇って一からトレーニングする必要があるのに、そのトレーニングをきちんと行う仕組みの不在を課題に感じたんです。それで、デジタルマーケティングに特化した人材育成会社TATEITOを立ち上げました。現役トッププレイヤーによる教育コンテンツの作成に取り組み、私自身もクライアントサイドのトレーニング講師を担当していました。現在はTATEITOを離れ、株式会社ディレクタスにてクロスチャネルのマーケティングに取り組んでいます。

 

 

--近年の検索広告業界のトレンドは。

 

小西:検索広告利用の裾野が広がって、個人の方、例えば、治療院からキャバクラの店長、個人事務所の弁護士の方々など、誰もが認知するようになったと思います。皆さん、ご自身で運用していることも多いですね。インハウスというより、予算がなくて外注できない方々です。

 費用のかけ方が月額数万円クラスになると、YDN(Yahoo!ディスプレイアドネットワーク)が非常に良くなってきています。YDNの精度が良くなってきているのを感じます。日本全体でみると、広告費に月額数十万円というのは予算が多いほうでしょうね。

 

西村:アドは、Yahoo!プロモーション広告だけでも、ある程度まかなえてしまいます。Googleのネットワークも、YDNのネットワークも十分広い。YDNのターゲティングの精度が向上したこともあって、リスティング広告の中でのディスプレイ広告の利用が伸びていると感じます。

 

橋野:バナー素材やランディングページなど、クリエイティブを作るハードルも下がってきましたしね。数年前は制作会社に一式頼む必要がありましたが、今ならランサーズやクラウドワークスといったクラウドソーシングを使えば、小規模でも手軽に依頼出来る環境が整ってきました。

 

 

リスティングラボ株式会社 代表取締役 西村 多聞氏
西村多聞氏

--色々な意味でハードルが低くなってきているわけですね。

 

小西:予算が30万円から50万円程度で、高額予算をかけられないところは、安いクリック単価で活用できるYDNで助かっています。予算が100万円を超える、使える手法の幅がかなり広がりますが、50万円程度でも十分YDNを回せます。それこそ、予算総額10万円程度でも、YDNは力を発揮すると思っています。

 

西村:リスト取りや無料サンプル、お試し版のような、コンバージョンの敷居が低いものは、YDNディスプレイ広告に向いていますね。一方、高額商品や比較検討をされる商品は、入り口としてディスプレイネットワーク、YDN、GDNがあったとしても、最終コンバージョンには大きく貢献しないのかなと感じます。

 

 

 

広告主と広告のプロが、インハウスで築く Win-Win の関係

 

 

--昨年、皆さまが執筆された『実践 インハウス・リスティング広告』について伺います。なぜ、このタイミングでインハウスを取り上げたのでしょうか。

 

西村:本では、リスティング広告を型分けし、それぞれヘビーインハウス、ミドルインハウス、ライトインハウスと呼んでいます。ヘビーインハウスは自社完結型。外部リソースを一切使わず、リスティング広告の運用を全て自社内で行います。僕たちのクライアントのような、外部リソースを活用する人達はライトインハウス。ヘビーインハウスは、安易に目指せるほど簡単ではないことを伝えたいという思いから、この本を書きました。

 

 

--反響はどうでしたか。

 

西村:じっくり読んだ広告主の人には、「やっぱりヘビーインハウスきついよね、難しいよね」ということが伝わったようです。それを認識したことで、ライトインハウスというか、僕のところにも運用依頼が増えたという感覚があります。

 

 

株式会社ディレクタス 経営企画室 室長 橋野 学氏
橋野学氏

--海外ではプログラマティックな広告やDMPの運用にはインハウス化が重要だと認識され盛り上がっています。日本の検索広告でもこの言葉が出てきたということは、デジタル広告全般で考えていくべきタイミングなのかな、という印象を受けました。

 

 

橋野:僕たちが本を書く前くらいのタイミングが、「(リスティング広告の運用には)インハウスっていいかもしれない」という風潮が一番高まっていた頃ですね。

 

 

--それは特定の広告主でしょうか。

 

橋野:中堅規模の予算を持つ会社が多かったと思います。代理店に出すお金があるなら、ちょっと中でやってみればいいじゃない?という話が出ていたのがこの時期です。逆に今は、一回社内でインハウスをやってみて、外部に戻した会社も多いですね。

 

 

--どこが課題で上手くいかなかったのでしょうか。

 

西村:リスティング広告の運用も非常に難しいんですよ。今、リスティング広告のシステムの大半が、Google AdWordsをベースとしています。Googleはヘビーインハウスで使われることを目指して、自動化や機能追加を進めています。でも、作り手であるGoogleの人たちは頭が良すぎて、一般利用者の能力レベルが分からないのかもしれない。彼らが新しいことをやればやるほど複雑化が進み、一般の広告主が付いていけない状況になっているのかな、と。

 

小西:運用が難しいという問題だけでなく、体制や人、組織の問題も大きいと思います。インハウス化をサポートしているコンサルタントや、実際にインハウス化を推進している担当者、インハウスで運用している方などに話を聞いてみると、上層部の方からの理解が足りないという声が非常に多いです。

 

 本などで仕入れた情報を基に、「うちは何万キーワード入っているのか」「除外キーワードは設定しているのか」「リターゲティングは止めろ、消費者を追いかけるのは迷惑だ」などと言ってくる。第一線で頑張る30歳前後の広告主の人たちは、つらい思いをしているようです。放っておけば結果を出すだろうと思われるような人でさえ、かき乱されて結局上手くいかないケースがあるほどです。

 

 

 

鳥の目と虫の目を持って全体戦略を考える

 

 

--インハウスはヘビーからライトまである中で、何を専門家に任せて、何をインハウスでやればいいのでしょうか。

 

西村:リスティング広告で使える機能を、僕たちはプロとして知っています。広告主にはそれぞれ抱えている課題があります。その課題を明確にできれば、それを解決するためにリスティング広告でできることを提案することができます。リスティング広告の知識を増やし、広告に近いところで問題を特定してもらえれば、プロとして僕たちも課題解決がしやすくなる。そんな関係になっていくことが望ましいですね。

 

 

--広告主への啓蒙も重要ですね。橋野さんは数年間啓蒙、教育に携わってこられましたが、まず何から勉強すればいいのでしょうか。

 

橋野:鳥の眼と虫の眼ではありませんが、近視的なところと、ちょっと引いて見るような両方の視点を備えた上で、バランス良く知識と視点を身につけていくことが必要だと思います。まずは、大きな全体像を把握することです。

 

小西:細かい機能というよりは、全体のマーケティング戦略をどう考えるか、戦略と戦術をきちんと考えられるようにすることだと思います。その中にリスティング広告があるわけですが、全体のマーケティング戦略をきちんと立てれば、リスティング広告のキーワードを決めることもできます。

 

 

--最後に、今後の検索のトレンド予想をお願いします。

 

ハイパス株式会社 代表取締役 小西一星氏小西一星氏

小西:今まで以上に、リスティング広告はネット広告の中心的存在になっていくと思います。解析ツールとの相性、解析データの連携、タグマネージャーとの関係性、自然検索の検索クエリが取得出来なくなっている中で、リスティング広告だから見えることなど、良くも悪くも捉えることができるでしょう。ただ、Google AdWordsとYahoo!プロモーション広告は、今後デジタルマーケティングのプラットフォームのようになっていくと予測しています。

 

西村:大げさな言い方をすると、人類は検索という便利なものを手に入れてしまったので、もう手放すことができなくなってしまった。この先、全く違うデバイスが出てきても、そこにはGoogle AdWords、Yahoo!プロモーション広告が引き続き、広告を配信していくと思います。

 

小西:それに、これからは動画が来ます。YouTubeの配信プラットフォームもまた、Google AdWordsですよね。

 

橋野:プラットフォームやツールが進化していく中で、マーケッターに求められる能力がどんどん幅広くなっています。リスティング広告を含めたプロモーション施策だけではなく、マーケティングにちゃんと取り組む人材がさらに必要になると思います。

 

 



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最終更新日:5/30/2014

 

 

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本マップは、米LUMA Partners社のLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみ掲載しています。

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問い合わせ先: japan[アット]exchangewire[ドット]com

 

(編集:三橋ゆか里)

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。