サイト滞在時間が2.5倍に:UVケア商品、再生回数120万回突破の大ヒット動画誕生に隠された日本ロレアルのデジタル戦略とは? <インタビュー>
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on 2014年3月25日 in本シリーズでは、企業の第一線でデジタルマーケティングを推進するリーダーを『デジタル CMO』と定義。デジタルCMOへのインタビューを通じて、組織の壁、人材と予算の確保、経営への橋渡し等、彼らが日々直面する課題を浮き彫りにしてい く。読者に対して、データドリブンな(データに基づく)マーケティングと経営で成功するためのヒントを提供できれば幸いである。
今回は、再生回数120万回突破の動画の生みの親である 日本ロレアル株式会社 コンシューマー プロダクツ事業本部 ロレアル パリ事業部 デジタルマーケティング マネージャーの宮野淳子氏にお話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan編集長 大山忍)
幅広いマーケティング経験を基にデジタル分野を統括
-- 現在の役割と責任範囲を教えてください。
宮野:日本ロレアルで、ロレアル パリのデジタルマーケティング全般を担当するマネージャーです。オウンドメディアからソーシャルメディア、CRM、PRまで、データマーケティングとインターネットに関わる全ての業務を担当しています。
ロレアル パリでは、ブランドがそれぞれ営業やマーケティングといった運用体系を持っています。ブランドごとに予算があり、メディア予算もブランドで一つの財布です。その中からカテゴリーや商品に分けられ、それをテレビと雑誌、デジタルに割り当てます。
一般的にマス市場の一番の営業ツールはTVで、「テレビならこれだけGRPが入ります」といった説明が小売さんの店頭を動かしています。そこで、デジタルのすごさや効果を話して予算を確保し、実際に効果を出すことが仕事です。
-- 現在のデジタルマーケティングのポジションに就いたきっかけは
宮野:2003年から2005年、PRの中にインターネットチームがあった時に人員が必要になりました。私はオーストラリアの宇宙工学系の大学を卒業していますが、その経歴を見て声がかかったんだと思います。当時はダイレクトマーケティングと、店舗イベントを行うリテールマーケティングを兼任していましたが、さらにデジタルマーケティングが加わりました。
動画主導のキャンペーン施策で商品の売り上げが大幅に増加
-- 最近実施したデジタルのキャンペーン事例をご紹介いただけますか。
宮野:2013年のUVケア商品のマーケティングは社内でも評価されました。UVケア商品は競争が激しく、3月から8月末には店頭に大量の商品が並びます。また、販売店ではTV出稿が大量にある日本のメーカーさんの商品が見えやすい所に陳列されます。私たちは他社さんの10分の1に満たないメディア予算ですので、店頭化してもらうのが難しい状況でした。そこで、お店に行く前に指名買いしてもらうことを考えました。
メディア予算をほぼ全額デジタルに投入して、動画を作成したのです。「日焼けしない」と言っても個別商品の差が分からないため、モデルさんの身体に商品で模様を描いて日焼けマシーンに入っていただきました。日焼け後、商品を塗った箇所にキレイに模様ができているところを見せて、プロテクションの効果を証明しました。
商品を塗っているモデルさんは、楽しそうで幸せそうな表情を浮かべています。私たちのブランドのミッションである、外見と内面の美しさを保つことを動画で上手く表現できたと思います。
UVケア商品のキャンペーン動画
-- キャンペーンの効果はどうでしたか。
宮野:デジタル予算におけるハブは、キャンペーンサイトです。サイトに来たお客様がどこから来て、どう行動したかを全て比較しました。バナー、メールマガジン、サーチ、イベント、そして動画。比べると、動画を見てサイトを訪問した方の滞在時間は、その他の2.5倍もありました。また、サンプリングキャンペーンへの申し込み率が50%伸びるという効果も出ました。ブランドを好きになって商品の効果を理解し、サンプルで商品に手応えを感じて店舗に出向く、という私たちの意図したストーリー設計を実現できました。
売り上げへのインパクトもありました。その年のマーケットの伸びは9パーセントでしたが、弊社は27%増を記録することができました。
-- きちんとストーリーを立てた上でユーザーさんの態度変容の効果を把握し、数値化されたところが非常に先進的な事例ですね。
全ての予算を動画に投入するというのはかなり思い切った施策で、社内の説得が大変だったのでは。
宮野:社内の説得は、会議だけでは不十分です。デジタルマーケティングの担当者には当たり前の情報を他の担当者は全く知らないという状況があり、彼らに理解して賛同してもらえなければ予算は生まれません。そこで、普段から社内の人間へのデジタル教育を施し、デジタルリテラシーの底上げに取り組んでいます。
廊下やエレベーターでちょっと会った際にそんな話に触れてみたり、さまざまな所に顔を出して説明したりもします。いざ説得する時は、必ず成功の図を頭に描き、何を聞かれても答えられるよう全ての数字を頭に入れてコミュニケーションを取ります。
-- 動画キャンペーンで予算を確保した時、説得材料として何が効果的でしたか。
宮野:まず、どういった層がYouTubeを見ていて、私たちのターゲットとなる人がどのくらいいて、どういう検索キーワードでたどり着いているかを分析し、最終的に何人くらいがサイトを訪問するという想定シナリオを作りました。さらに、広告掲載によって、どれくらいの訪問者数増加が見込めるのか、どれくらい見てもらえるのかを1円単価で出す。こうした情報を全て算出して、さらに同じ効果をTVに置き換えた場合の予算と比較することで説得力が増したのではないかと思います。
動画キャンペーンのカスタマージャーニーマップの一部
-- キャンペーンがデータセントリックであるところが重要なポイントだと思いますが、他にデータを活用した事例はありますか。
宮野:昨年からDMPを導入しています。DMPと第三者配信で、私たちのWebサイトへの訪問者数をカテゴリー別に把握できます。このデータを基にユーザー像を弾き出し、個別のコミュニケーションを用意してリーチするプロモーションを実施しました。例えば、スキンケアの中でアンチエイジングで訪問した方には、白髪染め商品との親和性が高いというデータが出れば、同じような行動を取っている方に同様のアプローチをすることができます。
また、通常のサンプリングキャンペーンでは、応募の際にアンケートに答えてもらい、お客様を選んで送ります。しかし、サンプル欲しさにアンケートにいいことを書く人がいると、弊社の商品を本当に買ってくれる層に届きません。そこで、アンケート以外で、その方のニーズ、どれだけロレアル パリ商品に興味があり、お客さんになってくれるかをデータから導き出し、商品をお届けしました。
社内外の人間を巻き込んで取り組むデジタル領域の活性化
-- ブランド企業における、デジタル領域のマネージメントの役割をどう考えますか。
宮野:効果が分かりづらくて難しいことを理由に、デジタル領域に興味や高いモチベーションを持つ人材が社内には多くありません。デジタルマーケティングの面白さを理解してもらうことが、ファーストステップとして必要です。まず興味を持って、効果を理解できれば、聞く耳を持ってもらえると思います。
また、社内でデジタルの代理店さんをアピールすることも役割の一つだと思っています。社内と社外の人間が協力し合って一つのチームとして機能することを前提に、社内外を通してより良い関係性を築くことが重要です。
-- 社外でもきちんとパートナーシップを持って進めていくことが非常に重要になるのですね。
宮野:デジタルマーケティングの分野は多岐にわたっています。システム系にはシステム会社が詳しく、それをクリエイティブエージェンシーに聞いてもわからないこともあります。お取り引きする分野それぞれのエキスパートと上手くコミュニケーションできる状況を作っておけば、それぞれ最先端の情報が集まってきます。そんな方々とワンチームとなって取り組んでいくことが理想的だと思います。
もう一つ重要なのが、100人以上の部隊である営業チームへの啓蒙です。現在はTVの効果についてGRPで商談することが中心ですが、デジタルという効果的な選択肢についても上手く話せるようにすることも私たちの使命です。営業会議でいきなりUV商品の動画を流してみるなどして啓蒙し、商談に使えそうなトークを伝授しています。
営業に同席させてもらってお話をすると、私たちのやっていることが先進的であることに感銘を受けてくださるバイヤーさんもいます。そうしたトークで、小売りの人を上手く巻き込むことができることに営業も気付き始めているのです。
-- 知識レベルでは、マネージメントの方々はどこまで理解すべきでしょうか。
宮野:マネージメントとして、ビッグピクチャーを把握する必要があります。また、出てきた数字を基にディレクションできるレベルまでは、理解しておくべきでしょう。
広告1本を取っても、CPAやインプレッションなど指標はさまざまです。また広告のクオリティについての定義も会社によって違います。私達から積極的に、これはクオリティが高いから広告を強化しましょうとディレクションできるレベルの理解は持っていたいですね。
-- 最後に、今注目されているデジタルの分野、今後挑戦したいものはありますか。
宮野:コンテンツとしての動画を強化していこうと思っています。広告出稿という意味でも重要になっていますが、ユーザーが持っている悩みやニーズをデータで把握して、そこにリッチなコンテンツを提供していきたいですね。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。