媒体主と広告主がWin-Winの関係を築けるKruxのDMP〜グローバル戦略担当デイビッド・スミス氏インタビュー
by ニュース
on 2013年11月19日 in10月下旬、cci主催の「cci DMPオープンセミナー」が開催された。同社と業務提携を発表したKrux Digital, Inc.のグローバル戦略担当デイビッド・スミス氏、そのクライアント企業である News Corp Australiaの Head of Commercial Development ジェイソン・バーンズ氏が来日し、講演を行なった。本インタビューでは、媒体社におけるDMPについて、両氏に具体的な事例を含めて聞いてみた。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)
媒体社と広告主共にメリットをもたらすKruxのDMP
- 最初にKruxのビジネス概要を教えてください。
スミス:Kruxは2010年に設立し、今年で4年目に入りました。主に媒体社のデータの収集管理、マネタイズをサポートしています。
- 日本でDMPというと広告主側が活用するイメージがありますが、なぜ媒体社に特化したDMPを手がけようと思ったのですか。
スミス:広告主による、DMPで使うサードパーティデータの質への理解が高まったためです。媒体社の方が、より幅広く、深く消費者や生活者のことを知っています。例えばNews Corpさんなら、お持ちのコンテンツやWebサイトで生活者や消費者が興味を持っているものが詳細に分かります。Webサイトでの活動と、消費者や生活者の活動をつなげてデータを管理できると考えています。
- 現在、広告主がオーディエンスデータを買って広告配信の精度を高めていますが、媒体主がDMPを活用することで、媒体主と広告主がWin-Winの関係を築けるということですね。
スミス:パフォーマンスベースの広告で、ポイントカードのロイヤリティユーザーがいたとしても、広告主からは極少数にしか見えません。しかし媒体社が類似する人を見つければ、より大きなオーディエンスに拡大できます。
米国や欧州、地域に見られるDMP活用の違い
- 海外にもオフィスを広げていますが、DMP活用に地域による違いは見られますか。
スミス:米国では、広告主がサードパーティデータをプログラマティックバイイングに使っています。DMPについては、パブリッシャーがプレミアムなものに使っていく事例が多く見られます。プレミアムサイドのアドセールスに付加価値を加える、もしくは余剰在庫でもデータを付け足してプレミアムに持ち上げ、ミドルティア(プレミアム広告に次ぐ価値のある広告枠)を作っていくという手法が使われます。
欧州では国によって活用が異なります。日本と同様に、サードパーティデータの提供者がほとんど存在しないため、プレミアムの広告販売だけでなくプライベートエクスチェンジに付加するデータとして使われます。また、ドイツではRTB (Real Time Bidding) ではなくRTA (Real Time Advertising) という言葉が一般的です。媒体社と直接交渉し、媒体社の在庫とデータを使って固定レートで広告配信する手法があるためです。
- クロスプラットフォームのターゲティングというお話がありましたが、一般的にモバイルではCookieが使えません。ターゲティングにはどんなテクノロジーを活用していますか。
スミス:媒体社には、自分たちのIDを作ることを推奨しています。Kruxではユーザーを判別するコードをこのIDに統合してもらい、それを媒体社のモバイルなどのアセットに戻していくというやり方をしています。
DMPで成功する媒体社の事例
- 日本でDMPというと、オンラインでのマネジメントという認識があります。媒体社がオンラインとオフラインを融合させた良い事例はありますか。
バーンズ:先程のプレゼンテーションでも話しましたが、カンタス航空は、オフラインでの購買データを使ってその人を分析し、オンラインでのターゲティングに活かしています。また、ショッピングのポイントカードを持つ人に対して歯磨き粉のキャンペーンを展開し、ブランドリフトや売り上げの増加を確認することにも使えます。
スミス:コンテンツを多数持つSanoma Mediaの事例もあります。過去6カ月間で、結婚情報誌を講読していたユーザーをオフラインで特定できたとします。オンラインでEメールと閲覧したコンテンツのCookieをマッチさせ、情報をオフラインとオンラインにフィードバックすれば、最適なオンライン広告を出せるうえに、新しいライフステージや興味にあった雑誌の購読者の増加にもつながります。
- 御社のメインクライアントはどういった媒体社ですか。
スミス:News Corpさんは両方に当てはまりますが、2種類います。ひとつは媒体社自身に広いリーチや多くのタッチポイントがある企業。さまざま なコンテンツを保持するNew York Times、米国で女性系のコンテンツを配信しているMeredith、1.8億人のビューワーがいるNBCなどです。
もうひとつは、車や金融系、ファッション系といった、深くて細かいユーザー情報を持つ媒体社です。不動産系や就職系のコンテンツなど、例えばリクルートなどが該当します。
媒体社におけるトレーニングの重要性と今後の展望
- 日本ではデータ活用の人材が少なく、活用できている媒体社が少ない現状があります。オーディエンス活用に成功している媒体社の特徴を教えてください。
スミス:過去にプレミアム広告の販売を得意としていた人はシフトに対応できるのではないでしょうか。Forbesのように、ファイナンス、金融関係のビジネスに長けたユーザーがいれば、非常にプレミアムな在庫があることになります。プレミアム枠を売ってきた人が、在庫をオーディエンスに切り替えるだけです。
- 次はプログラマティックだという話になり、これまでオーディエンスに特徴がない純広告を高く手売りしていた営業マンとの間で2つの概念がぶつかり、顧客の取り合いが発生していると聞きます。この点についてはどうですか。
バーンズ:カニバリゼーション(共食い)を起こさないことが非常に大事だと思います。News Corpでは、幸運なことにさまざまなWebサイトやアセットを持っており、社内でそのページ割りやコンテンツが透明化されています。各データのセグメントを作りやすい環境なので、RTBのキーセグメントにしていくか、ブランディングにしていくか、きちんと区分けできています。
あとはもちろんクリエイティブです。ページ全体をハイジャックするようなリッチメディアや、そのコンテンツ上でリッチなクリエイティブを出して高いCPMを取っていくことは、RTBの在庫ではできません。
- バーンズさんにお伺いします。御社には150人の営業スタッフがいらっしゃるということですが、社内トレーニングは実施していますか。
バーンズ:新商品のオーディエンスプロファイラーのリリース時は、オーディエンスデータについて教育しました。セグメントを作れるものと作れないもの、広告に使えるものと使えないものを正しく理解して広告主のニーズに応えるための教育が重要です。それをKruxが提供することもあれば、国によってはサイバー・コミュニケーションズ(cci)のようなセールスパートナーが媒体社の教育やサポートに力を発揮することもあります。
- バーンズさんに最後の質問です。日本では、マネジメント層にデータやツールの重要性を説得することが困難な状況です。今回バーンズさんの組織でデータサイエンティストのチームを作るに至ったきっかけ、エグゼクティブ人員の理解度やサポート体制について教えてください。
バーンズ:きっかけは、カスタマーから集まったたくさんの要望です。オーストラリアにはサードパーティデータが少ない。もっと精度の高いターゲティングがしたい、ファーストパーティデータを媒体社から出してほしい、という広告主や代理店の声がエグゼクティブに届きました。
オーストラリアには、海外のトレンドが1、2年遅れて到来することが研究で分かっていました。オーストラリアの中で先陣を切っていきたいという考え方が経営陣にも理解され、そこへの投資判断がされました。
- 最後にスミスさんに。今後、媒体社の方向性や業界のトレンドはどうなっていくでしょうか。
スミス:やはり媒体社は、データをどうマネタイズできるか、彼らのアセットであるオーディエンスをいかにマネタイズしていくか、という考えを強めるでしょう。
手法はどんどん変わっていますので、媒体社それぞれでビジネスモデルを考えていく必要があります。ブロードリーチと深いデータを両方併せ持つNews Corpのような媒体社は、面白い取り組みができるのではないでしょうか。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。