3rdパーティcookie不要のターゲティングとマルチデバイス対応を推進するグローバルDSP、MediaMath共同創設者、エリック・ワッサーマン氏インタビュー
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on 2013年11月05日 in(ライター: Ginger )
9月に楽天市場の購入データを活用する「楽天DSP」がリリースされた。このサービスを支えるのが、グローバルに展開するDSPのトッププレイヤー米MediaMath社だ。近年、積極的にテクノロジー企業の買収を繰り広げ、プラットフォームの拡張とビジネスのグローバル化を推進している同社の共同創設者でEMEA & APACのGMであるErich Wasserman(エリック・ワッサーマン)氏にサービスの特徴と戦略について話を伺った。
メディアマネージメントを重要視するプラットフォーム
- MediaMathのソリューションについて教えてください。
エリック: MediaMathのテクノロジーは、マーケターがあらゆるオンラインチャネル上の消費者にリーチすることを目的としており、2つのコンポーネントによって構成されています。
1つめのコンポーネントは、データを中心としたマーケティング環境の提供です。CRMやウェブサイト、サードパーティーデータなどどんなデータも取り入れることができ、マーケターはそれを管理できます。
2つめのコンポーネントは、収集したこれらのデータをメディアとつなげることです。対象となる消費者と、どのメディアの、どのコンテンツページの、どの枠で接触するのか。データを用いることで、消費者と真正面からコミュニケーションするための環境です。
- それはDMPとDSPと捉えていいものでしょうか?
エリック: 一般的にはそのように表現されることが多いですが、我々が重要視するのはメディアマネージメントです。と言うのも、消費者は自分がいまどのデバイスからどんなメディアのコンテンツを消費しているかという認識はありません。一方、マーケターにとっては、適切にブランドのメッセージを消費者へ届けるには、限られた予算を適切に配分する必要があるわけです。
MediaMathのゴールは、マーケターが、メディアを通じた消費者とのコミュニケーションに適切なメッセージとチャネルを把握し、それを最適化できる環境を提供することです。
- どのような業種に利用されているのでしょうか?
エリック:金融、旅行、自動車、ブランドなど、幅広い業種で利用されています。我々は、中でもブランド企業による活用成長を見込んでいます。これまでは少数のAd Exchangeによる僅かなインベントリーしかなく、そのインベントリーには重複が多く見られました。ブランドがブログラマティックを利用したくても、その環境が整っていなかったのです。今後ブランドマーケーターは、環境が整っているところに集まってくるでしょう。
アジア市場に見られるプログラマティックへの参入障壁
- MediaMathは日本でローンチして1年になりますが、日本市場と欧米市場に違いがあれば教えてください。
エリック:日本市場ではDSPが浸透しています。オンライン上で消費者とインタラクティブにコミュニケーションをするというプログラマティックバイイング(広告の自動取引)のコンセプトを、代理店やブランドなどデマンドサイドに理解してもらうことが重要だと考えています。
またサプライサイドでは、日本の独自性を知ると同時に機が熟していないことも実感しています。
欧米市場で現在活発な議論は、プライベートマーケットプレイスで売上げに寄与する要因(どのRTBがいいかなど)分析です。一方、南アジア、韓国、日本市場における注目は、パブリッシャーがプログラマティックに参画することの価値です。
- 日本を含むアジア市場では、まだパブリッシャーのプログラマティックへの参入障壁が高いということですね。
エリック:そうです。またデータの重要性と、その活用についてもまだ理解が進んでいない現状があります。
カスタムが可能な検定教育プログラム
- 日本の広告主からも、課題としてデータの重要性と活用を指摘する声がよく聞かれます。データの扱い方、考え方、活用の仕方など、経験と知識のある第三者に教育をしてもらいたい、と。
エリック:我々もそのニーズは耳にしていますし、その必要性を誰より感じています。そのソリューションとして、「New Marketing Institute」という教育プログラムを提供しています。3つのレベルから成る検定プログラムで、プログラマティックバイイングのコンセプトを理解、コンセプトをマーケティング(広告買付け)に転換、マーケティングをビジネスに展開、というカリキュラム構成です。
- コンセプトからビジネス展開まで網羅した教育カリキュラムは興味深いですね。カリキュラムはMediaMathのプロダクトに特化したものですか?
エリック:レベル1のカリキュラムはプログラマティックのコンセプト理解ですが、市場や業界、プログラマティックの仕組みについてなど、広く一般的な知識を学びます。レベル2ではコンセプトを実際に広告買付けに転換しますが、この際にMediaMathのプラットフォームを利用します。
- ビジネスの展開は、業種やクライアントによってバリエーションが考えられますが、業界ごとのカリキュラムを用意しているのですか?それともカスタムなのでしょうか?
エリック:クライアントによってカスタムも可能です。例えば韓国を本拠地とするシールド・コーポレーションというグローバルエージェンシーでは、150名が「New Marketing Institution」のレベル2まで参加することになりました。彼らのビジネスゴールへの理解が深まるにつれて、彼らにとって重要な題材と、そのゴール達成に影響しない題材とが明確になりました。
そこで、我々の手を離れてからも必要となるものにフォーカスして、ビジネスモデル、バリュープロポジション、そしてエージェンシーがクライアントに提供するMediaMathプラットフォームの機能の活用方法までをカリキュラムとして提供することにしたのです。
- とても内容の濃いプログラムのように思いますが、何日間のプログラムでしょうか?オンライン受講は可能ですか?
エリック:プログラムは、対面のインタラクティブな環境で実施しています。オンライン提供は今のところ予定がありません。
- 「New Marketing Institute」は有料でしょうか?
エリック:参加人数で費用が発生する有料の検定プログラムで、合格者には修了証が与えられます。またカスタムカリキュラムは別料金となります。情報や手法、技術が半年で新しくなる業界ですので、常に最新の検定を取得することが望ましいでしょう。
我々も、業界の要望に応えられるようにプログラムの継続的なアップデートに真摯に取り組んでいます。
Akamaiなど企業買収で強化されるMediaMath
- メディアを重視したプラットフォーム、教育プログラムの提供と、事業展開がユニークなMediaMathですが、Akamaiを始めモバイルやビデオ関連の買収が続いています。今後の展開について教えてください。
エリック:昨年12月にTap Meを買収したことで、MediaMathのプラットフォームにビデオ広告とモバイル広告のテクノロジーが加わりました。これにより、マーケターは複数チャネルをひとつのプラットフォームで運用管理することが可能になります。
データビジネスをより堅実なものにするのがAkamaiの買収で、クライアンからのニーズが高い、ページロードの負荷が低いピクセルフリーのターゲティング技術提供を可能にします。
ピクセルを活用したテクノロジーでは、インターネットユーザーがピクセルを埋め込んだページを閲覧した時にだけデータが生成されます。一方AkamaiのCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のデータを活用すれば、クライアントが保有するサイトのデータを扱うことができ、かつセグメント化も自在です。AkamaiのCDNによって実現した、新しいビジネスです。
- 確かに画期的ですが、インターネットユーザーの観点からはオプトアウトが必要なのでは?
エリック:もちろん、消費者には情報が取得されていることを知る権利があり、必要に応じて告知します。補足ですが、このテクノロジーで情報を保持するのはあくまで企業側であって、サードバーティcookieに情報を書き込む第三者のアドサーバーではないということです。
- ということは、ピクセリングはしないものの、cookieは利用するということでしょうか?
エリック:その通りです。ピクセリングはしませんが、cookieを利用しています。ただしファーストパーティcookieです。既存テクノロジーのサードパーティーcookieは複数のベンダーによって共有されていますが、ファーストパーティcookieは共有されることがありません。
- ファーストパーティcookie、自社データ、CRMデータを包括することで、セキュリティレベルが高くなるということですね?
エリック:その通りです。例えば企業がオフラインデータを持っていた場合、MediaMathのプラットフォームを通してオンラインでリターゲティングしたり、ファーストパーティcookieの利用でターゲットしたりすることが出来るようになるのです。
しかしこれを実現するためには、強固なインフラが必要不可欠です。どんなに広告在庫が増えてデータを取得できるテクノロジーがあっても、それを処理するインフラ能力が伴わなければ、せっかくのデータを処理しきれません。
今後の大きな成長を見込んで、MediaMathは香港と日本に2つのデータセンターを設置しました。
我々が日本市場に参入してからの1年間、順調に成果が出ています。これからも日本市場に向けた新たな展開を予定していますので、楽しみにしていてください。
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。