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DSP の寡占化が進む米国市場の勝ち組、米Turnが日本上陸~カントリーマネージャー 佐藤瑛人氏インタビュー

Mr.Satoh

昨年から、海外のメジャーなDSP企業の日本進出や、国内企業によるDSP事業への参入が続いている。デジタル広告取引のプログラマティック(システムの自動化)への動きが熾烈化している。そんな中、プログラマティック先進国である米国のTurn社が、日本でDSPとDMPのサービスを開始した。日本のカントリーマネージャーに就任した佐藤瑛人氏に、海外市場との違いを踏まえた、日本市場における戦略について話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)


 

 

 

 

QPSが100万件を突破、DSPトップクラスのシェアを誇る米Turn

 

 

-- まず最初に、佐藤さんのビジネスバックグラウンドを教えてください。

 

佐藤:Turnにはこの7月半ばに入社しました。その前は2年ほどGoogleに在籍していました。Google による買収以降のDoubleClick広告出稿側向け製品の営業チームにおける最初の日本人として、DoubleClick for Advertiser やDoubleClick Rich Media の営業、DoubleClick Ad Exchange の立ち上げ、DoubleClick Search の日本リリース、DoubleClick Bid Manager の立ち上げなどにも携わりました。Google の前は、Exciteで広告商品の開発、Ad Serverの実装、広告事業全体の管理をしていました。

 

 

-- Turnのビジネス概要を教えてください。

 

佐藤:2000年代半ばの立ち上げ当初はアドネットワークの会社でしたが、米国でRTBのマーケットが立ち上がるとともにDSPに舵を切りました。DSPを主軸に大きく成長して、2011年からはDSPとDMPの2本柱です。

 

 

-- 御社のツールの差別化要因を教えてください。

 

佐藤:グローバル規模のトラフィックをさばくためには多大な初期投資やリソースが必要なため、RTBマーケットの新規参入は年々難しくなっており、その結果米国では寡占化が進んでいます。その中でもTurnは、米国、ヨーロッパでトップシェアを争っています。特にスケーラビリティに力を入れており、毎秒何回インプレッションの価値判断を行っているかを表すQPS(Queries Per Second)という指標では、100万を突破しています。Turnの製品のスケールと安定性は世界最高峰と自負しています。

 

 

 

DSPとDMP:特徴と導入メリット

 

 

MrSatoh-57_-- DSPによるプラットフォームの一元化が、企業やトレーディングデスクにもたらすメリットは?

 

佐藤:同じ広告主でもキャンペーンに求めることは様々で、かつてはリーチをとるための枠買いやパフォーマンスにフォーカスしたキャンペーンなど、出稿形態に応じてチャネルが細分化されていました。現在、とくに米国においてはRTBのプロトコルを使ってDSPのみで純広告的な出稿やバイイングパワーを発揮したメディアの仮押さえなど、あらゆるニーズに対応できるので、利便性が大きく上昇しています。

 

 

 

-- チャネルが異なっても、一つのプラットフォームで効果測定が一元管理できるのですね。DSPとDMP、それぞれを活用するトップ企業は別でしょうか。

 

佐藤:TurnのDSPにおける顧客は、トレーディングデスク、大手のマーケターがメインです。DMPに関しては、広告代理店やトレーディングデスクを経由するだけでなく、マーケターの方々が直接活用しているケースもでてきております。また、インテグレーターやSIerが入って、導入を促進してくださるケースもあります。

 

 

-- DSP、DMPはどんな業種に活用されていますか。

 

佐藤:DSPはあらゆる業種で活用されています。DMPは、これまでデータを持て余していた企業が、エンタープライズ規模のデータ管理ができる製品として導入を進めています。億単位の登録情報を持つテレコムキャリアや金融系が増えていますね。

 

 

--米国では、大手で成功企業も出てきていますが、DMPをうまく活用するポイントを教えてください。

 

佐藤:DMPが出てきた背景に、CMO(Chief Marketing Officer)の役割が大きくなっていることが挙げられます。企業のデータはCIOがコントロールしていましたが、マーケティングの世界にデータの概念が持ち込まれるにつれて、CMOがデータを主体的に活用する立場になりました。企業のデータを統合してマーケティングに活かすCMOの存在が重要です。

 

 

 

日本への進出と他市場比較

 

 

-- なぜ今、日本市場なのでしょうか。

 

佐藤:Turnは米国、ヨーロッパでトップシェアを誇り、香港にも支社を設けています。そして日本市場のRTBは急速に成長しており、向こう3年程度で米国に次ぐ世界第二位のマーケットになると予測されています。アジアに支社を設けたからには、日本での事業展開は必然です。

 

 

-- 日本市場では、DSPとDMP両方をリリースするのでしょうか。

 

佐藤:はい。日本語へのローカライズを進めていますが、製品自体はグローバルで稼働していますので、既に英語版での提供は開始しています。

 

 

-- 販売方法は直販、代理店経由どちらですか。

 

佐藤:DSPはグローバルのトレーディングデスクがメインで、日本でもそれに近い広告代理店がメインになります。DMPは米国でも企業が直接導入するケースが多いので、日本でもそうなっていく可能性があると考えています。

 

 

-- シンガポール、香港、オーストラリア、次に日本。その他の市場と日本市場に違いは?

 

佐藤:アジア太平洋でもこれまでにTurnが進出した国々における主要プレーヤーの顔ぶれや商習慣は、米国とほぼ同じでした。一方、日本では国産のプレイヤーが強く、広告代理店、テクノロジーベンダーも地元が強い。言語の壁もあります。このため、それに併せた製品、営業戦略を展開していく必要があります。

 

 

-- 日米での取引動向に違いはありますか。

 

佐藤:米国ではプライベートマーケットプレイスが浸透しています。日本ではRTB取引において、パフォーマンスの最適化のみがフォーカスされ、個別の媒体は比較的問題になりにくいのですが、米国でとくに普及しているプライベートマーケットプレイスは、このようなテクノロジー主導の世界に、「顔が見える取引」という概念を持ち込んだものです。DSPの先にある広告主を明示した上で、特定の期間、枠を指名買いする。純広に近い概念が、DSPとアドエクスチェンジにもたらされています。

 

 

-- 日米で、DSPとDMPの認識に違いはありますか。

 

MrSatoh-66佐藤:DSPはメディアバイイングを一元管理するプラットフォームであり、単なるCPA最適化ツールではありません。あらゆるメディアバイイングのニーズに対応するのがDSPである、と米国では考えられています。

DMPは、いろいろな部署が持つ様々なフォーマットのデータを一つのアプリケーションに統合してマーケティングに活用する、というのが一番大切な概念です。ただリターゲティングのセグメントを作ることに留まらず、マーケティングの意思決定を助けるデータを導き出すためのツール、と定義されています。

 

 

 

 

 

-- 日米のマーケットの違いについて教えてください。

 

佐藤:米国と日本では、広告枠の価値の推移が異なります。米国では、歴史的に媒体社があえて1ページあたりの枠数を減らしてきたため、DSPによるオークションの普及につれて枠あたりの単価が上がり、単にターゲティング機能にとどまらず、優れた入札アルゴリズムを持つDSPでなければそもそもインプレッションが買えないという状況が発生しています。一方日本では、米国に比べて1ページあたりの広告枠は近年増加しているか、あるいは少なくとも減少しているということはありません 。このため単価も低いままで抑えられており、数があるためその中から優れた枠を見つけることが課題になっています。

 

 

 

日本市場における課題とローカライズ

 

 

-- 日本展開における課題はどこにありますか。

 

佐藤:商習慣、言語が欧米とは異なるので、日本のお客様のニーズに合う、ご満足いただける製品にローカライズすることが重要です。開発チームに最大限のリソースを割き、自社製品を日本のお客様が使いやすいようにしていきます。

 

 

--サポート体制について教えてください。

 

佐藤:アカウントマネジメントやプロフェッショナルオプティマイゼーション、キャンペーンマネジメントでは、アジアに日本をサポートするチームを用意しています。日本向けのテクニカルサポートや営業の人材の採用も進めています。

 

 

-- DSP、DMPの販売に優先順位はありますか。

 

MrSatoh-91佐藤:マーケットレディということで、DSPの優先度が高くなると思います。DMPはマーケットそのものが新しいため、ニーズを汲み出して製品に反映、展開していく予定です。

 

 

-- 最後に、日本のマーケッター、パートナーに向けたメッセージをお願いします。

 

佐藤:Turnは米国発の企業ですが、五大陸にサービスを展開する独立系広告テクノロジー企業としては数少ない数社のうちの一つです。各地域で必要とされるサービスの提供をミッションに掲げ、日本のお客様のニーズに合ったサービスを展開できるよう、一丸となって努力をしてまいります。

 

お知らせ:10月16日にTurn社主催のイベント「データドリブン マーケティング フォーラム」が開催されます。海外からゲストスピーカーを招き、マーケターが海外事例から学ぶ機会を提供します。司会はExchangeWire Japan編集長の大山が務めます。プログラムの詳細と参加申込みはこちらから。

 (編集:三橋ゆか里)

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。