Interview: デジタル広告でクライアントの事業の成長に貢献する – ネクステッジ電通 取締役社長 杉浦友彦氏
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on 2013年6月25日 inいま、日本のデジタル広告業界は、2つの大きな潮流にのって、転換期を迎えようとしている。ひとつは、リスティングに代表されてきた運用型広告において、ディスプレイ広告による認知・啓蒙からコンバージョンまで、ウェブにおける消費者の態度変容を統合的にマネージメントしていく流れ。もうひとつは、スマホ・タブレットの普及により、消費者が接触するデバイスの複数化に伴い、ブランド広告においてTVとWeb動画の横断型で消費者へのリーチを広げようという流れだ。
日本のブランド広告をリードする総合代理店、電通が成長著しいデジタル広告市場の次の一手として選んだのは、意外にも運用型広告を軸にした新会社の設立だった。ネクステッジ電通 取締役社長 杉浦友彦氏に新会社で目指すビジネスについてお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍/ ライター:鶴田修朗)
「デジタル・マーケティングとは本当はこういうもの」というのを広告主に提供したい
大山:以前、英国BBCのデジタル広告責任者から、「グローバルなブランド企業のほとんどが、デジタルがない時代にキャリアを築いた人が経営トップでマネージメントをしている。トップが若い世代に代わらないと、デジタル広告は発展しない」という話をお聞きしました。杉浦さんは30代で、5月に設立されたネクステッジ電通の社長に就任しましたが、まずは杉浦さんご自身のキャリア・バックグラウンドをお話ください。
杉浦:1998年に新卒で電通に入社後は新聞局に配属され、新聞社のデジタル関連事業の支援や、ITインフラの整備を担当しました。
入社3年目、2000年代に入ってからは、当時SIPS(Strategic Internet Professional Service)と言われていた業務を担う合弁会社の立ち上げに参画し、戦略立案やプロジェクト・マネージメントを担当しました。企業のコーポレートサイトの新規立ち上げや、自動車メーカーのモバイルサイトの企画・立ち上げ・運用といった、Webインテグレーション寄りの仕事になります。
その後は電通イーマーケティングワンという会社に合流し、マーケティング・コンサルタントとして、Webのアクセス解析や顧客分析、CRMを深掘りするようになりました。大山さんが専門としている分野です。
大山:ではBI(Business Intelligence)ツールを使って、ご自身でデータを分析していた。
杉浦:そうですね。ばりばりのアナリストほどではありませんが、当時ですと今のように便利なタグ型の解析ツールも揃っていないので、Webサーバーのログデータをクレンジングし、SPSSやSASを使ってメディアの効果分析やWebのアクセス解析を行っていました。
その後は電通に戻り、当時のインタラクティブ・コミュニケーション局というデジタル領域全体を担当する部署で、大手自動車会社さんや飲料会社さんのデジタルキャンペーンのプロデュース等を、クリエイティブ寄りの話も含めて担当しました。直近6年間ぐらいは、ダイレクト・レスポンス系の、CPAをガリガリに求める広告主を中心に担当しており、大型バジェットを運用するPDCAをチームを組んで定常的に回しています。
大山:「電通」のイメージからは想像しにくいくらい、デジタル領域でディープな経験を積んでいますね。
杉浦:そうですね。ブランディングとダイレクト・レスポンスの両軸、そしてクリエイティブとデータマネジメントの両軸を、一通り現場でやってきている人は意外と珍しいかもしれませんね。
大山:その杉浦社長をネクステッジ電通のトップに起用したのは、電通本社に何かストラテジーがあってのことでしょうか。
杉浦:デジタル・マーケティングは、広告業界の中で最もスピードが速い領域です。スピーディーに意思決定をするために、現場を細部まで見通せる人間が必要だという考えは当然あると思います。ベンチャー企業には20代の社長もたくさんいますし。
電通として今、パフォーマンス領域をあえて強化する意味としては、今までのやり方でいいのかどうかを本質的に見つめ直し、腰を据えてやらなければならないということがあると思います。ダイレクト・レスポンス系の広告で言えば、ラストクリック獲得やCPA改善をベースにした運用だけでいいのか。もう1ステップ進んで、マス広告やディスプレイ広告まで統合し、広告主のパフォーマンス最大化に立脚した電通ならではの運用最適化のロジックをつくれるのではないか。「デジタル・マーケティングとは本当はこういうものです」というのを、クライアントに提供していきたいと考えています。
個々の広告の効果ではなく、クライアントのパフォーマンス最大化にコミットする
大山:会社設立時のプレスリリースでは、ネクステッジ電通は「運用型デジタル広告の専門会社」と表現されています。デジタル広告の運用が、やはり強みだということでしょうか。
杉浦:クライアントの事業の成長に貢献することが最も大事で、運用はそれを実現する手段の1つにすぎません。ただ短期的には運用面で成果を出せることが強みになりますし、データを基に高い精度で確実にヒットを打てるようなやり方は、電通としても極めていかなければならないと思っています。ビッグアイデアのクリエイティブを使って大きな成果を出したりするマス的な手法はもちろん重要です。しかし同時にデータに基づいて確実に成果を出すという領域にまず軸足を築かなければ、今後、広告会社としての競争力の根本が決定的に抜け落ちることになると思っています。
僕らがコミットするのは、あくまでもクライアントの成果です。パフォーマンスを最大化するために、デジタル広告の最前線でクライアントとリレーションシップを築いて、PDCAを回していきます。テクノロジーも運用もクリエイティブも、パフォーマンス最大化のために必要な手段だと考えています。これらをワンストップで、1つの組織でスピーディーに提供するというのもネクステッジ電通を新たに設立した理由の1つです。
実際にナショナルブランド企業さんからも、マス広告だけでなく、きちんとデジタル領域でKPIを立ててPDCAを回したいという問い合わせをいただいていいます。またダイレクト・レスポンス系のクライアントさんからも、従来のCPA中心の運用では成果が出づらくなってきたという相談を、毎日のようにいただいています。伝統的なマス・マーケティングを行ってきた企業も、ダイレクト・レスポンス系の広告を活用してきた企業も、どちらも次の一手を探しています。そしてその両者をカバーすることができるのが、ネクステッジ電通です。分かりやすく言えば、例えば通販の化粧品会社であれば、ブランディングからラストクリックの獲得まで、オン・オフの両軸から一気通貫でできるというのが、われわれの強みになります。
大山:日本のデジタル・マーケティングは海外に比較すると、テクノロジーには強い一方で、マーケティング的な視点が少し弱い印象を持っています。電通が長年にわたって培ってきたマーケティングのノウハウを、デジタルに融合して活用していくわけですね。
杉浦:おっしゃる通りです。事業戦略の組み立て方やクリエイティブのアイデア、電通の持つグローバルなアセットなどをデジタル領域に融合し、かけ算をしていけば、われわれの大きな強みになると思っています。
一口にクライアントのパフォーマンスを最大化するといっても、さまざまな切り口があります。短期的な成果なら、リスティングがいいかもしれません。しかし中長期に認知を上げていくなら、動画がいいかもしれない。では動画を使うとしたら、ウェブなのかテレビなのか。KPIはクリックスルーなのかビュースルーコンバージョンを見るのか。短期・中期・長期の施策を最適化し、あらゆる手段を使ってトータルでパフォーマンスの最大化につなげることが大事だと思っています。
とはいえ成果がシャープに表れるデジタル広告の運用の部分を避けて、ブランディングの話をしても説得力がありません。まずはデータドリブンの運用をやりきった上で、その外側の部分に広げていきます。
デジタル広告の運用担当者が、広告業界の中心で活躍できるフィールドをつくりたい
大山:クリエイティブに関しては、先日、米AOLの社長から「本当に優秀なクリエイターはまだマスのほうに行ってしまって、デジタルの世界にはなかなか来ない」という話を聞きました。電通は優秀なクリエイターの宝庫ですが、その方々をデジタルに引き込もうという考えはありますか?
杉浦:そうした試みはすでに行っています。百戦錬磨のコピーライターがリスティングのコピーを考えたり、実績のあるアートディレクターがバナーのクリエイティブを担当したりして、広告のレスポンスが格段に上がったという事例は続々と出てきています。クリエイティブは、われわれの明確な強みです。
大山:電通は海外の有力デジタル広告会社のM&Aやアライアンスも豊富に築いています。海外と国内のデジタル広告市場の違いについて、お感じになることはありますか?
杉浦:2つありまして、1つは海外には「アンバンドリング」と言われる歴史があり、機能別に広告会社が存在しています。ブランドごと、メディアごとにエージェンシーがあり、デジタル広告のエージェンシーも専門性によって細かく分かれているのです。
一方、日本の広告市場は、電通もそうですがより統合型、バンドルされたソリューションを志向する傾向があります。例えば海外ではブランディング系の広告とダイレクト・レスポンス系の広告は運用系統が完全に分かれていることが多いですが、日本では両者を統合したいというニーズが強いと感じています。実は海外でも「リ・バンドリング」と言って、エージェンシーを統合する動きが一部で出てきているようです。
もう1つは、SEMの領域、広告を緻密に運用するというところでは、国民性として日本人は非常に優れていると思います。
大山:確かに、あるグローバルベンダーの日本市場担当者が、言い方は悪いのですが、日本の運用型広告のパフォーマンス担当者は変態レベルだとおっしゃっていました。それくらい緻密な運用をしているとよく言われます。
杉浦:日本のリスティング広告の運用担当者は、非常に優秀なのですが、残念ながら国内では活躍できるマーケットのサイズが小さいし、広告主の効率要求水準も非常に厳しい面があります。本当はものすごく足が速いのに、トラックではなく砂の上を走るのを強いられ、正当な評価をされていない。そのような人材がヒーローになれるようなフィールドを、いずれは用意してあげたいと思っています。
毎日データを見て、緻密に広告を運用し、パフォーマンスを上げている人は、別の言い方をすればコンシューマーのインサイトを一番よく知っている人間です。そのような人材は海外に出て行っても成果を上げられますし、広告の別領域、例えばマス広告のプランニングに行っても活躍できると思います。デジタル広告の運用でスキルを磨いてきた人間が、広告業界の中心できちんクライアントに貢献できる土台をつくりたい。そのためにも数年以内に、ネクステッジ電通として成果を出したいと思っています。
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。