日本版、広告テクノロジー業界マップ2013 (検索広告)&SEM業界トレンド:アイレップ紺野氏インタビュー
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on 2013年5月30日 in『広告テクノロジー業界マップ』第五弾は、スマホ・タブレットなどのマルチデバイス化が急速に広がり、ディスプレイ広告との統合など運用型広告としてより運用の複雑性が増している検索広告です。
今回は、アイレップ 代表取締役社長の紺野俊介氏に検索広告業界のトレンドについてお話を伺いました。
(聞き手:ExchangeWire JP編集長 大山忍/
ライター:鶴田修朗)
スマホ対応・アトリビューション・オーディエンスデータ活用の3つが検索広告業界のトレンド
――デジタル広告の技術や運用が複雑化する中、検索広告に関わるエージェンシー/代理店が多様化しています。総合代理店、インターネット広告専業代理店、SEM専門代理店、SEO会社等の日本市場におけるポジショニングや関係性を教えてください。
紺野:いくつかの整理の仕方があると思います。まず検索広告には、大別してアドとソリューションの2つの領域があります。前者は、グーグルやヤフーなどのプラットフォーム上で展開する広告全般のことで、後者は端的に言えばSEOになります。ですからアドに強みのある会社か、それともSEO中心のソリューションの会社かという分け方があります。もちろん両方の領域を担っている会社もあります。
2つ目は、広告の運用に特化しているか。つまりオペレーター部隊を自前で持っているかどうかという視点があります。この分類で中心になるのは、クライアントと直接取引するのではなく、総合広告代理店の運用を代行している会社です。運用レップ、あるいはトレーディングデスクと言っていいかもしれません。
トレーディングデスクというと、狭義ではDSPの運用を指すケースもあるようです。しかし本来のトレーディングデスクは、アドおよびソリューションの全てのダッシュボードを管理し、メディアのリロケーションや広告投資のアロケーションまでができる会社のことを指します。ただ、アド/ソリューションをトータルで最適化できる運用会社は、現時点ではほとんどないのが実情です。
3つ目の分け方は、グーグルとヤフーに、アカウントを持っているかどうかです。グーグルは現在、明示的に正規代理店を公表していないかもしれませんが、ヤフーは「スター制度」という形で正規代理店を星の数で格付けし、公開しています。ヤフーだけに特化した主要代理店はありませんから、ヤフーの正規代理店=グーグルの代理店だと考えていいでしょう。弊社はスター制度では唯一の五つ星代理店に認定されています。一方で少し複雑ですが、博報堂などの伝統的な総合代理店は、ヤフーにアカウントを持っていないので、正規代理店ではありません。
――テクノロジーや運用、あるいは顧客ニーズといった面で、どのようなトレンドを感じていますか。
紺野:3つほどあります。1つはグーグルのエンハンストキャンペーン、ヤフーのユニファイドキャンペーンでのスマートフォン配信です。PC・スマートフォン共通のシングルソースの広告フォーマットで、スマートフォンの配信をどう工夫していくかは、重要な課題認識になっています。
2つ目は、ラストコンバージョン重視からアトリビューション重視の運用への対応です。先ほどお話ししたトレーディングデスク的な役割を果たすことが求められています。
3つ目は純広告の広告効果において、従来と比べてより複雑な影響の測定ができるようになってきた中、どうやって運用の効率化を実現していくかです。さまざまなツールを用いて、全体のオーディエンスデータをマネジメントしていくニーズが高まっていると感じています。
――個々の広告ではなく、全体のアド/ソリューションを最適化していくのがトレンドということですね。
紺野:はい。要するに、昔から言われていたことですが、限られた予算で最良の顧客接点を得られる方法で運用してほしいということです。今、そうした顧客ニーズを、ツールを使って実現することが、ようやく現実的になってきたという段階です。ただ完全に自動化するには少なくともあと10年はかかるし、人間の頭が必要な部分も残ると思います。
――運用する人間の役割が変わっていくということですね。10年ぐらい前に御社に伺ったときに、スタッフの方が為替のトレーダーみたいに画面に張り付いて、手動でリスティングの入札をしているのにショックを受けたことを覚えています。それが今は、入札はツールによって自動化されています。
紺野:はい。ヤフーのリスティング広告が単純競争入札だった時代は一番悲惨でした。ツールもありませんでしたし、競合の入札価格が見えてしまうがゆえに、金曜の夜からずっと人が張り付いて、コピペ操作を繰り返しながら手動運用していましたから。
競争に勝つにはブランドマーケティングを展開できるクリエイティブ人材が不可欠になる
――ところで先ほどお話がありましたが、先日、米国に行ったとき、グーグルのエンハンストキャンペーンに対して、多くのネガティブな声を聞きました。「モバイルではもうグーグルのプラットフォームは使わない」「フェイスブックに変える」という意見が結構あったのです。
紺野:日本でもグリーやDeNAのように、スマホ特化型の事業があります。にもかかわらず、エンハンストキャンペーンでは従来に比べてスマホに特化した詳細な設定ができないし、もっと言えば入札のキーになる設定は、PC向けのものになります。しかしそうした点が気にくわないからと言って、グーグルは世界最大のSSPであるわけですから、ユーザーにリーチするにはグーグルを使わざるを得ない。もちろんそうした課題はグーグルもかなり考慮していて、スマホ特化型の事業に対応できるように、マイナーチェンジは続けているようです。ただ広告が高度化することで、運用がより複雑になっていくことは間違いないと思います。
――最近ではディスプレイ広告もRTBによって、運用が複雑化しています。そうした中で広告全体のパフォーマンスを最大化するためには、何が必要だと感じていますか。
紺野:まず弊社もそうですが、すでに人間の頭だけで、データを活用して施策を打ち続けることはできなくなっています。ですから運用ツール、アドテクノロジーを備えていることは最低条件です。その上で、すべてが自動化できるわけではないので、運用部隊にはマーケティングの共通理解が不可欠になります。そしてもう1つ、重要な要素として加わったのが、クリエイティブです。この3つを備えていないと、競争に勝てない環境が生まれてきています。
――運用ツールにはさまざまなものがありますが、今はMarinが伸びています。ツールにはどのような役割を期待していますか。
紺野:ツールの土台になる機能は保守です。つまり掲載内容と予算と期間をきちんと管理できるものでなければなりません。そして運用という観点から言えば、ビッド(入札)と掲載のオン/オフの自動化も確実に管理できる必要があります。
この3つの機能を軸に、レポーティングやアラートなど便利な機能がどんどん実装され、可視化されたデータを基に、シンプルに運用できるようになったことがMarin人気の背景です。
今、ビッグデータが騒がれていますが、お客さんが求めているのは100億のレコードを見ることではなく、100億から必要なデータだけ抽出して、施策に結びつけることです。抽出するのはそれこそデータサイエンティストではなく、機械がやればいい。大事なのは抽出データを施策に落として実行することです。Marinは、バックエンドの複雑な統計ロジックを意識しなくても、最低限の設定だけをすれば、広告担当者がパフォーマンスを向上させるための処理を容易に設定できるツールだというポジションを確立したのだと思います。
とはいえツールは、このツールでなければできないということがなければ、使い慣れの問題だと思います。弊社ではMarin以外に複数のツールと、自社開発のMarketiaというプラットフォームを併用しています。
――御社の今後の方向性をお話ください。
紺野:冒頭にトレーディングデスクのお話をしましたが、集客管理を統合するニーズが増えてきています。要するにSEOも含め、デジタルでの集客施策のすべてを統合して運用し、効果を最大化していきます。リスティングプラットフォームを軸に、ディスプレイ広告やアフィリエイトの最適化をし、オーディエンスデータをマネジメントしながら純広告の運用、メディアのアロケーションまで行う。ソーシャルも含めて全領域の運用ができ、なおかつアロケーションができる会社は、日本には僕ら以外にないはずです。
――サーチ領域が一番の強みだと思いますが、今後、強化していきたいポイントはありますか?
紺野:クリエイティブ面です。クリエイティブには2つあって、1つはDSP経由のバナーなど大量配信系広告のクリック率やコンバージョンレートをどうあげるかというレベルのものです。これはツールによって色を変えたり、配置を変えたりして自動化できます。人間の手が少しだけ必要なら、南アジアの人材やクラウドソーシングを活用すればいいわけです。
もう1つは、ブランドマーケティングのためのクリエイティブです。こちらはシステマチックにやるのは難しく、人間のセンスが必要になる。実は弊社自体では、この部分にはまだ弱みがあります。この分野が得意なグループ会社と協力しながら進めつつ、今は、このクリエイティブをインハウスでできるようにするべく、人材の採用段階から戦略的に強化しているところです。
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ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。