Interview: 最先端広告テクノロジーのエコシステム構築で、日本とアジアの市場をリードするDAC、その戦略とは?
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on 2012年8月01日 inこの1年あまりで急速な進展を見せている日本の広告テクノロジー。日本を代表するオンライン広告の総合サービス企業、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(以下DAC)の矢嶋社長に、RTBを筆頭に世界で急伸し続けるディスプレイ広告の日本市場での現状と、アジア市場を含めた今後のビジネス展開についてお話を伺った。
■ DACの概要を教えてください。
DACは広告会社と媒体社の両者に対し、オンラインマーケティングを基軸とした総合的なサービスを提供しています。また、DACのグループ各社は多くの専門分野にわたり役割を分担し、お客様の目的に応じた多様なサービスを提供しており、主要な分野に大別すると下記のようになります。
メディアレップ・テクノロジーサービス:デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
サーチマーケティング:株式会社アイレップ
モバイルマーケティング:モーションビート株式会社
アドネットワーク:株式会社アイメディアドライブ
サプライサイド(媒体向け)プラットフォーム(SSP)、デマンドサイド(広告主向け)プラットフォーム(DSP)の提供:株式会社プラットフォーム・ワン
ウェブサイト&アプリケーション制作:株式会社博報堂アイ・スタジオ
広告進行管理業務のアウトソース:株式会社アド・プロ
スマートフォンメディア事業:株式会社スパイア
中国におけるオンラインマーケティングサービス:北京迪愛慈広告有限公司(北京DAC)
中国におけるウェブサイト&アプリケーション制作:愛思奇奥網絡信息技術(北京)有限公司(北京i-studio)
また、DACの親会社は、株式会社博報堂DYホールディングスです。
■ DACグループが提供するサービスについて教えてください。
DACグループが提供するサービスとしては、エージェント領域、DAS(広告関連サービス)領域そしてメディア領域の3つの領域があります。エージェント領域では、DACグループはメディアレップとして、媒体社、および広告主・広告会社を代理する立場となり、円滑な広告取引実現を支援するサービスを提供します。DAS領域では、テクノロジー、クリエイティブといった広告関連ソリューションを提供します。また、メディア領域ではオンラインメディアの運営者としてサービス提供やビジネス展開を行います。
■ DACグループが提供する広告テクノロジーの概要を教えてください。
DACグループは広告会社、媒体社それぞれのニーズにマッチした多様なテクノロジー商品を提供しています。主力商品としては、媒体社向けのサービスとして効率的かつ効果的な配信を可能にする広告配信プラットフォームの「iPS-X」、広告会社向けのサービスとして広告プランニングシステムの「Ad-Visor」があります。また2011年10月には、第三者広告配信サーバーである「i-Effect」の提供を開始しました。また、今後のビジネスの中核となっていくことが予想されるのは、グループ会社のプラットフォーム・ワンが提供するDSPの「MarketOne」とSSPの「YIELD ONE」です。MarketOneは、YIELD ONEやGoogle Ad Exchangeなどの在庫をクリック単価(CPC)のリアルタイム・ビッディング(RTB)で購入できるとともに、impAct、Adjust、Rightmedia、MicroAdやAdvertising.comといったアドネットワークの在庫もCPC入札で買うことができる、日本で最も影響力の大きいDSPであると思っています。また、YIELD ONEは日本で展開しているSSPの中でも、プレミアム媒体社を中心に最大級のトラフィックを保有しています。
■ 日本市場における、DSPやSSPに対する市場の反響はいかがですか?
2011年6月よりスタートしたRTBビジネスは、右肩上がりで急成長しています。PubMaticの「AdRevenue Report」(2011年10月発表)によると、2015年には米国のディスプレイ広告売上のうち25%が、Indirect Ad Salesのうち65%はRTBによるものとなると予測されており、日本においても同様のトレンドが見込まれるでしょう。広告主、広告会社においてはROIの最大化、媒体社からは余剰在庫の効率的なマネタイズという観点で高評価を得ています。
■ アドエクスチェンジでターゲティングに活用される“外部データ”は、日本市場で成長の兆しは見えますか?Exelate, QuantcastやBluekaiといった企業への日本市場での反響はかがでしょうか?
日本の多くのアドネットワークは、自社ネットワーク内のメディア購入時のターゲティング手段として、ユーザーセグメントやリターゲティングの情報を保有しています。自社のアドネットワークの外、第三者の企業へユーザー情報をデータとして販売している企業は、日本にはまだほとんど見られません。
米国でのデータ市場の人気は、RTBによる広告売買市場の成熟が前提条件として成り立っています。日本ではRTBの仕組みが昨年の6月頃にようやく提供され始めたばかりですので、日本で第三者データ市場を育成するのはもうしばらく時間がかかるかもしれません。データビジネスに湧いている米国市場に日本市場が追随するかどうかを見極めるためにも、今後も引き続き注目していきたいと思っています。
■ 米国を始め、海外ではデータドリブンな広告テクノロジーの市場が急伸しています。御社で提供を開始した最新の第三者広告配信テクノロジー「i-Effect」について概要を教えてください。
i-Effectの最終目的は広告主の広告予算に対する費用対効果を最大化することです。
キャンペーンマネジメントとレポートを一元管理する機能の提供に加え、i-Effectはクリエイティブやランディングページを最適化することにより、キャンペーン効果を飛躍的に増大させます。このように、i-Effectを活用している広告チームはオンライン広告予算を効果的に運用することができるのです。
また、自動最適化機能は、世界で最先端のアドテクノロジーを提供しているIPONWEB社が開発した予測モデリングエンジン「u-Predict」を搭載しています。既にDACグループが提供しているDSP、MarketOneにはこのu-Predictが搭載されており、高い実績が評価されています。こうしたユーザー属性と行動データの多変量解析を活用するエンジンの搭載により、1時間ごとにクリックやコンバージョンなどのパフォーマンスを分析し、インプレッション毎に最も効果的な広告を選択することを可能にしているのです。
レポーティングもi-Effectの重要な機能のひとつです。コンバージョン接触経路レポートと複数チャネルのアトリビューションレポートを提供することにより、i-Effectで広告主へのレポートの作業負荷を軽減するとともに、キャンペーンの目的にフィットしたメディアアロケーションであったかどうかを評価することができます。これらのレポート機能により、継続的に繰り広げられるキャンペーンの次の施策を検討することが可能となります。
また、i-Effectは広告会社によるキャンペーンマネジメントにおいて中心的な役割を担うのみならず、媒体社の収益拡大にも有益なツールです。i-Effectが実現する第三者配信の普及により、自社サイトにおける複数広告主の効果を把握することが可能となります。また、アトリビューション分析を通じてディスプレイ広告の効果が再評価されることにより、出稿量の増加が期待できます。
■ クリエイティブの最適化と予測モデリングに関して、「i-Effect」が提供している機能はどのようなものですか?
i-Effectはクリエイティブの最適化と予測モデリングにおいて、3つの特徴的な機能を提供しています。
1) 「パーソナライズド・クリエイティブ」は、ユーザーの行動履歴や嗜好にもとづきクリエイティブを動的に生成し、広告を配信する機能です。
2)「パーソナライズド・レコメンデーション」は、Eコマースを行っている広告主などのサイトに導入されているレコメンデーションエンジンと連携し、外部の媒体社の広告枠やRTB広告在庫に対してレコメンド広告を配信する機能です。
3)「パーソナライズドLPO」は広告主サイトの行動データのみならず、ユーザーの広告接触履歴などのデータに基づきランディングページを最適化します。
■ DACグループの今後の注力ポイントや関心のある広告テクノロジーは何ですか?
DACグループは、広告会社向けの広告プランニングシステム「AD-Visor」や、媒体社向けの広告配信プラットフォーム「iPS-X」など、オンライン広告取引をはじめとする最先端のテクノロジーの開発・導入を行い、広告主、広告会社、媒体社をはじめとしたオンラインマーケティングを行う全ての企業のマーケティング・コミュニケーションを支援しています。
現在は、成長著しいソーシャルメディアに関しては、ソーシャルメディアマーケティングを専門的に支援する㈱トーチライトを子会社化し、全世界で500社以上に導入され、月間10億人以上のユーザーをサポートしているオウンドメディア向けのソーシャル化プラットフォーム「gigya(ギギャ)」や、世界で 60 万以上のブランドや企業に利用されている米国のソーシャルメディア管理ツール「Involver」など、当該領域におけるトータルソリューションを提供しております。
スマートデバイスに関しても、㈱スパイアが開発したスマートフォンアプリ「Discodeer」が150万ダウンロードを達成しました。また、ngi group(現:モーションビート株式会社)の子会社化によってスマートデバイス広告の企画・販売力を強化するなど、DACグループ全体で調査・商品開発・販売体制の構築と最適化を加速させています。
■ 先日Innity(イニティ)との資本業務提携の発表がありましたが、今後アジア市場ではどのように展開されていく予定ですか?
DACグループおよびInnityは、今回の資本業務提携を機に、DACグループが持つ多くの広告会社への顧客基盤や日本市場で高い評価を得ている統合ソリューション力、Innityが持つ東南アジア各国における営業拠点やデジタル専門人材、媒体社ネットワークなどの強みを掛け合わせて、顧客広告会社にオンラインマーケティングに必要なソリューションをワンストップで提供します。
Innityとの合弁会社「i-DAC」では、東南アジア地域において統合的デジタルマーケティングソリューション(戦略プラニング、 クリエイティブ、メディアプラニング&バイイング、ソーシャルメディアソリューション等)の提供を行うほか、DSP・SSPなど、DACグループが持つ広告テクノロジーの販売、サポート等の機能を担います。
また、DACグループおよびInnityの両社は、将来的には研修派遣などによる相互の人材交流の促進や、新たなアドテクノロジー商品の共同開発など、さまざまな分野での協働を進めて行きます。両社グループの持てる力を相互に出し合い、東南アジア地域のオンライン広告拡大と、顧客満足の高いサービス提供を推進します。
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。