リタゲからコマースメディアプラットフォームに転換―事業刷新したCriteoの現在地とは
リターゲティング広告の代名詞となったCriteo。Cookie制限の多大な影響を受けることが想定される同社は今、新しく生まれ変わろうとしている。事業転換中の同社の現在地そして未来について、話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)
「リタゲの代名詞」のイメージから脱却
―自己紹介をお願いします。
CRITEO株式会社にてChief Industry Strategistを務める中村祐介と申します。広告会社様との提携業務を統括する営業チームの立ち上げなどを経て現職に就き、現在はイベントやセミナーへの登壇活動に加えて、当社の戦略立案などに従事しています。
―改めて貴社の事業紹介をお願いします。
とりわけ日本市場では「リターゲティング広告に強いテクノロジー企業」としてのイメージが強いとは思いますが、近年は中位及び上位ファネル向けのソリューション開発を強化して統合的なアドプラットフォームとして生まれ変わりました。今では新規顧客獲得やトラフィック増を目的とした広告プロダクトなどを合わせて提供しています。
また2019年11月には本社に新たな最高経営責任者を迎え、今年は会社のロゴも刷新しました。現在は大きな事業転換を図っている最中にあります。
―「統合的なアドプラットフォーム」を志向する事業者は数多くいます。貴社はどのように差別化を図っていく予定ですか。
当社の最大の強みであるリターゲティング広告の配信を通じて蓄積したデータに基づき、コンバージョンに至ったユーザーと類似した特徴を持つ見込み客を呼び込むことができるというのが最大の特徴です。つまり最終的な獲得施策と初期の認知獲得施策が分断されることなく、一気通貫したマーケティングを展開できます。
またとりわけ当社のお客様にはEコマース事業者が多く含まれるので、購買関連データを豊富に持っています。サードパーティーCookieの利用制限が強化される中で、購買関連のファーストパーティデータを蓄積しているというのは大きな強みです。今後は「コマースメディアプラットフォーム」として発展を遂げたいと思います。
―事業領域の拡大と合わせて顧客層も変化したのでしょうか。
お取引する広告会社様の層が広がりました。例えばこれまで自動車関連の案件に対しては、リターゲティング広告だけではアプローチしづらいという課題がありました。事業領域を拡大したことで、そうした案件を取り扱う総合広告会社とのお取引が増えてきています。
自社ECに対する唯一無二のソリューション
―CookieやIDFAに関連した各種制限の影響を受けているのでしょうか。
Apple社のiOS14.5リリースに伴うIDFAのオプトイン取得義務付けは既に少なからず影響が出ています。当社としては、アプリのインストールを促進するプロダクトへの注力と、Androidへの予算シフトへの対応などを行っています。
またCookieに依存しないソリューションとして、コンテクスチュアルターゲティング技術の開発にも取り組んでいます。加えて、The Trade Desk社が先導するUnified IDの取り組みにも参画中。これら様々な準備を行った上で、今後どのような環境変化があったとしても対応できる体制を整備中です。
―コロナ禍の影響についてはいかがですか。
やはり旅行業界では出稿控えが目立ちました。一方で小売業界は好調です。店舗を一時閉鎖した事業者がECへの投資を増やすなどした結果、広告費が一気にオンラインに流れるという現象が起きました。そのような状況下で「すぐにオンラインで一定の売上を上げたい」という要望を叶えるのに、リターゲティング広告が大きく貢献したと理解しています。世界標準と比較して日本のEC化率はまだ低く、それだけ伸び代がある領域です。
全体の売上は昨年時と比較して18%増えており、少なくとも決算上はコロナ禍の底を脱したのは明らかです。中でもリターゲティング広告以外の新規ソリューションの売上が50%伸びていることから、当社の事業は引き続き拡大傾向にあると見込んでいます。
―近年はいわゆるウォールドガーデンがますます勢力を拡大しているように見受けられます。
確かにウォールドガーデンには圧倒的に存在感がありますが、彼らがユーザーを囲い込むことで生じる課題はいまだ未解決です。Criteoの強みは、様々な媒体社と協業して広くネットワークを構築しているということ。当社のタグを経由した購買に係るトランザクションの量はAmazonを上回ります。ShopifyやBaseといったカート機能の利用通じて自社ECを構築する事業者に対しては、唯一無二のコマースメディアプラットフォームになると自負しています。
尚、当社では広告主様からデータフィードをお預かりして、ダイナミッククリエイティブ広告を配信するという事業を長らく営んできましたが、EC事業を営む中小企業が増えてくると、データフィードを自社では用意できない事業者が増えてくると想定しています。そうしたリソースに欠けた事業者様でもテキストと画像などをご用意いただけたら、いわゆるレスポンシブ広告を配信できるような体制を既に構築済みです。
サプライサイド拡充を強化
―オープンウェブ向けのソリューションとしての位置づけですね。
オープンウェブの推進が当社事業の根幹にあります。尚、オープンウェブを推進するためにはサプライサイドへのサービス強化が必須であるとの考えから、競合事業者と比較して相当に大きな専門チームを持っています。媒体社向けにヘッダービディングソリューションを提供しているのもその一環です。またアプリ市場においては、媒体社向けに広告収益化を支援する事業も営んでいます。
今後はこの動きをさらに加速させ、SSP化に向けた取り組みを行うことで、真の意味で統合的なアドプラットフォームを構築したいと考えています。
―DSPとSSPを両方運営するということですか。
当社としては「広告商品を今すぐ買う可能性が高いユーザーを絞り込む」能力を測るパフォーマンスだけでなく、「いつか広告商品を買うかもしれない潜在層を広く集める」という意味でのスケーラビリティを合わせて重視しています。もちろん広告主様のKPI設定にもよりますが、あくまでも一般論として、購入単価が低いユーザーを安易に切り捨てるべきではありません。
結局のところ、多くの企業にとって必要なのは、短期的な利益拡大ではなく、長期的な事業拡大です。だからこそ、パフォーマンスと同様にスケーラビリティも重要。サプライサイドの整備なくしてスケーラビリティは実現できないとの考えから、SSP機能の整備は必須と考えています。
―大きな事業転換となりますね。
「ダイナミックリターゲティング」という分野は、Criteoが開拓し、そして先導してきました。一方で現在取り組んでいる中位及び上位ファネル関連の広告プロダクト領域では、当社が先行者を追随していく立場にあります。事業内容だけでなく、事業運営のあり方そのものにおいても、非常に大きな転換です。
そして市場はこの大きな変化を前向きに評価してくれています。今年に入ってから当社の株価がほぼ倍増していることがその証左と言えるでしょう。市場及び業界の期待に応えるべく、新たな挑戦を続けていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。