日本の広告費、中長期の見通しを聞く [インタビュー]
日本の広告市場は2018年、そして2020年の東京オリンピックに向けて、どのようなトレンドをたどっていくのであろうか。
「日本の広告費」の発表元である、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ メディアイノベーション研究部 研究主幹 北原 利行 氏に中長期の見通しについて、お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
インターネット広告が広告市場を牽引
― 今年2月に公表された「日本の広告費」に関連して、2017年の広告市場について解説をお願いいたします。
2017年の日本の広告費は6兆3907億円、前年比101.6%ということで、6年連続プラス成長となりました。リーマンショック以降、東日本大震災の時に市場は一番落ち込みましたが、そこから順調に回復しています。
広告費は基本的に名目GDPと非常に関連性が高く、景気が良くなれば広告費も上がっていくということになります。内訳をみてみると、マス四媒体については、前年比97.7%でした。一方のインターネット広告費は前年比115.2%と好調でした。プロモーションメディアは98.5%ということで、若干前年を下回りました。
このように、インターネット広告が全体の伸びを牽引しているというトレンドが、今年広告費全体がプラスになった要因です。インターネット広告費自体も全体の1/4程度を占めるようになるなど、大きな位置づけになっており全体の牽引役となっています。
― このような動向は構造的なものということでしょうか?
そうですね。マスメディアが全体の半分弱を占めていますが、その中でも一番大きいのがテレビです。テレビの広告費は過去数年間、プラスマイナスで推移していますが、今後テレビがどのように推移するかということが、マスメディア広告費全体の今後のトレンドを形成することになります。
それ以外のマスメディアであるプリントメディアはここ数年落ち込みが続いています。新聞は購読率が下がってきており、また雑誌は2017年に初めて推定販売金額が前年比で二桁減となる-10.8%という大きな落ち込みが見られました。このような紙媒体の市場の収縮が、広告市場に影響を及ぼしています。
ラジオの市場は底を打ったのではないかといわれています。radiko.jp(以下ラジコ)が普及したことにより、ラジオを聴く習慣がなかった若い人たちがスマホを使ってラジオを聞くというような視聴習慣が増えてきています。現状はラジコ向けに限った広告というものはないのですが、クライアントの方でも若い人たちがラジオを聴いているという認識が改めて広がったことが、プラスの材料になっているのかなということもあります。ラジオはコミュニティー的な要素を持っており、例えばパーソナリティーが読者のメッセージを見てそれにダイレクトに反応をするというような読者との近い関係性を構築しているということもあり、広告媒体として改めてクライアントに注目をされています。
また、テレビのうち衛星メディア関連は、前年を上回っています。これはBSテレビが堅調に伸びていることが要因です。
2018年の広告市場はプラスで推移の見通し
― 2018年の広告市場の見通しについてお聞かせください。またどのような点に注目すべきでしょうか
2018年は前年比+1.6%と当社海外ネットワークのDANが発表していますが、昨今の状況からはこれより少し落ち込むのではないかと見ております。但しその中でもインターネットが順調に伸びるということが一番大きなポイントです。テレビは足元ではスポットが良くないということもあります。ただし今年はロシアでサッカーのワールドカップもあります。このような大きなイベントがあると、テレビでいえばタイムのプラス要因になっていくということもあります。テレビが伸びてくると広告市場全体の活性化につながると期待しています。
― インターネット広告の媒体別予測について、2018年の見通しをお聞かせください。
2017年と同様に二けた成長であると先日のD2C、CCI、電通の三社共同発表でもお伝えしました。
数年内にテレビとネットが逆転
― 数年後にはテレビとデジタルの市場規模が入れ替わるという話も聞かれますが、これはいつ頃現実になりそうでしょうか?
そうですね、直近のインターネット広告とテレビ広告双方のトレンドを見れば、近いうちに入れ替わるということが予測されます。米国・英国の市場では既に現実のこととなっており、日本もそうなるでしょう。
それが来年なのか再来年なのか、それ以降なのかということは、今年が終わってある程度見通しがつくようになるのではないかと考えられます。ただ、テレビ媒体自体が落ち込むということを、私たちは予測していません。
― これは今更の質問ですが、インターネット広告への予算流入の元は、どこなのでしょうか?
インターネット広告の場合は、流通にも近接しているということもあり、広告宣伝費のみではなく販促費予算も出元であるといわれています。販促費が企業におけるコミュニケーションの部分でデジタルに流れ込んできているというところもあります。ですので、新聞や雑誌に充てられていた予算が、その分がそのままインターネットに移っているというような、単純なことではないと思います。
また、ECサイトを運営している企業の場合には、事業部の投資予算の中から賄われている場合もありますね。
クライアントに対してお話をさせて頂く場合でも、広告宣伝部のみではなく、場合によってはシステムの方とお話をする機会もあります。その場合にはそちらの部署から費用が出ている場合もありますしね。
広告市場は2020年に向けて堅調に推移
― 広告市場は2020年に向けてどのような傾向をたどるのでしょうか?
シンクタンクによるアナリスト経済予測では、名目GDPは前年比+1.数ポイント前後で伸びるとされています。広告費もこれに応じて伸びていくことが予想されます。
― 2020年東京オリンピックは、広告市場に対してどのように作用しそうでしょうか?どのような見方をするのが適切でしょうか?
過去にオリンピックが開催されたとき、どのような効果があったかということを加味することが適切です。過去を参考にする際、季節が夏か冬か、あるいは日本との関係でどのくらいの時差があったかどうか、などを考慮すべきです。これらの要因により若干効果が違ってきます。少なくとも冬季よりも夏季のオリンピックの方が広告市場に対する影響は大きく、一定のプラス効果は期待しています。
オリンピックの招致が決まった時、色々なシンクタンクが経済波及効果が、数十兆円あるとコメントしていましたが、そのうちの広告費はいくらかというと、なかなかそれを見通すことは難しいところです。ですが、オリンピックに伴い海外からの旅行者も増えますし、何らかのプラス効果は期待できるでしょう。
― 東京オリンピック開催による広告市場へのプラスインパクトの中でも、デジタルに対するインパクトがより大きいとみてよいのでしょうか?
そうですね、やはり公式スポンサーはオリンピックの時期には様々なコミュニケーション活動をしますから、その部分はプラスになるでしょう。
公式スポンサーは、グローバルスポンサーと、ローカルスポンサーがありますが、それぞれ定められた範囲の中で、広告宣伝活動を活発化させます。また、オリンピックは、スポーツはもとより、文化プログラムもありますので、そのようなところでもプラスになってきます。
また、オリンピックのコンテンツのインターネット配信も増えており、またインターネットでオリンピックを見る視聴者も当然増えてきています。視聴者が多くいるところに対しては、広告も当然増えてくるでしょう。東京に限らず、今後のオリンピックにおいてはデジタルの影響力はより高まるでしょう。
例えば昔ロンドンオリンピックの時にBSが普及したのは、地上波では放映されなかった種目が放映されたからであるといわれています。このようなことは、インターネットであればより簡単に放映することも可能です。
東京オリンピック後の広告市場
― 東京オリンピック後の広告市場をどのように見通されていますか?インターネット広告へのシフトがより加速するのでしょうか?
全てがデジタルで対応できるということはありません。ネットとテレビとの棲み分け・連携が進むでしょう。デジタルだけでは企業イメージを作りきれません。企業イメージは長期的な記憶によりつくられるものであり、ネットの場合変化が早いので、なかなかそのような記憶形成をさせることが容易ではありません。そこは既存のマスメディアの強みでもあります。マスメディアが持つ力は色々とあります。ネット上でブランディングをすることは可能ですが、ネットが全てのブランディングに適しているということはありません。
企業は様々な広告手法を、生活者のカスタマージャーニーに沿って効率的に広告を出すというのが基本的な考え方であり、それはテレビであったり、デジタルでであったり、OOHであったり都度変化します。今後メディアがデジタル一辺倒になるということはないので、インターネット広告市場だけが成長を加速する、ということではないと思っております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。