インドネシアデジタル広告市場、プログラマティック取引の現状とアドテクビジネスの可能性|WireColumn
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on 2016年12月27日 in人口2億5千万人、平均年齢30歳以下のインドネシアは、東南アジアのデジタル広告市場で最も注目されている国の一つである。国家政策としてITの産業振興を進めていることも追い風であると言えよう。 東南アジアにおけるアドテクノロジーは、先進国と比べて5年ほどトレンドやテクノロジーの水準が遅れていると言われている一方、今後3年またはそれ以下の期間で追いつくであろうというのが業界内の共通認識だ。 |
このことは、今までグローバル企業が北米・欧州市場向け中心で開発を進めてきた戦略を大きく変える可能性が生まれることを意味することになるのかもしれない。または、アジア初のテクノロジーが世界のトレンドを変えるといった現象も増えてくるであろう。
例えば、アジアでは若い世代はPCではなく携帯電話からのみインターネットへアクセスして情報を集める“モバイルオンリー”が主流になっている。このような欧米との習慣の違いを、いかにマーケット戦略として独自のアドテクノロジーで開発し機能として取り入れることができるかが東南アジアでの成功の鍵になるであろう。
上記を踏まえた上で、インドネシアの媒体社は、実際に最先端のテクノロジーについてどのような対応をとっているのか?インドネシア国内のAlexaによるランキングの上位はポータルサイトが多いが、これらの媒体社は、新聞紙や雑誌といった紙媒体と経営母体が同じであり、事業者全体の広告収入のうち紙媒体からのものが全体の8−9割以上を占めていることが多い。
また、MetroTVやKompassなどの経営母体は放送局を運営しており、テレビCMがその収入の中心である。
こういった状況下では、オンライン媒体において純広告販売で枠を販売するといった手法が中心である。また、余剰在庫に関しても純広告販売における値崩れを起こさないために、プログラマティックでの販売には消極的で、高いフロアープライスの設定をするためにRTBの入札が入りにくくなり、マーケット自体が活性化されにくい環境に置かれている。今後は、少しずつ認知され始めたPMPを活用して、広告主と媒体社との取引をプログラマティックで自動化させることが予算シフトするための一つの条件となるであろう。
このような背景から、現在インドネシア国内ではなかなかロングテールメディアまで予算が落ちてこない状況がある。だがこの状況は、他のマーケットで見られるGoogleやFacebookなどの大手広告プラットフォームが予算を獲ってしまうため小さな企業が育ちにくいのとは本質的な違いがある。
ブランディング予算に関しては、大型媒体へほぼ全ての予算が流れることになるかもしれないが、プログラマティック市場で重視されるメディアは質の良いユーザーをどれだけ多く囲っているかであり、パフォーマンスを重視するEC、旅行、ゲーム案件などの需要は大きい。こういった状況の中で中堅媒体や新興メディアは今後一層コンテンツの差別化が進み、ユニークなユーザーを獲得するといった動きが進むことが予想される。
次に、アドテク市場で媒体社との連携を深めるグローバル・ローカルの事業者について触れておきたい。インドネシアはグローバル企業がシンガポールに次いで進出してきている市場であり、Googleも2年前にジャカルタで法人を設立し既に100名を超える従業員を雇用している。BBM(BlackBerry Mobile)やLINEを始めグローバル展開するモバイル関連事業者の多くは現地スタッフ採用を一段と増やして営業を強化している。こうした背景から、今後更に存在価値を高めるのはデータ関連事業者になるのではないかと予想されている。欧米では規制によってできない商品もアジアでは実現できる可能性もあり、まさにローカル主体で今後のトレンドを築き上げるための良き事例となり得るのではないだろうか。
インドネシア国内の企業として、現在EC市場からアドテク市場への参入機会を窺っているのが、ベンチャーキャピタルから豊富な資金調達をしたTokopediaを始めとするEC系事業者である。彼らは自社内でデジタル広告運用を推し進めてノウハウを蓄積し、自社で保有する購買データの活用や配信チャンネルのテストを繰り返し、インドネシアの市場にあった配信設計の一からの構築を進めている。更にTelkomなどの携帯事業者においても自社でアドテクノロジー基盤を構築する動きも出てきており、モバイルでのデータ活用は極めて重要なセグメントになるであろう。
インドネシア国内のプログラマティック業界カオスマップは、現在、広告主・代理店が媒体と連携しているとてもシンプルにものであるが、今後は他のマーケット同様に国内外からデータやモバイル関連の事業者が進出し、複雑になることが予想される。
このようなトレンドに対応するべく、インドネシアでは2016年に5つの業界団体(※)が統合されIDA ( Indonesia Digital Association ) が創設された。この新しい業界団体は、媒体や広告代理店を一括に巻き込んでおり、今後ネット広告市場に関わる事業者への情報共有が活性化されると期待している。このようなマーケットへの教育をまずは施し、広告予算をデジタルへシフトさせるといった動きが業界内で進むことは、全体のパイを広げることに繋がり、更に外資直接投資にも繋がることが期待される。
※Association of Asia Pacific Advertising Media (AAPAM), Indonesian Advertisers Association (APINA)、Indonesian Digital Association (IDA)、 Indonesian E-Commerce Association (idEA)、 Indonesian Advertising Companies Association (PPPI) の5団体
インドネシアでは今、1万円以下で購入できるスマートフォンの普及が急激に広がっている。2016年実施のニールセンの調査によると2013年に12%であったスマートフォン普及率は2015年に26%、そして2016年の上期ですでに35%に達している。
約6500万人がスマートフォンを利用していることとなり、日本のスマートフォンユーザー数を既に上回る状況にある。さらに他の東南アジア各国と比べ4G回線や公共でのWiFi環境が進んでいる状況を加味すると、2017年は更にデジタル広告市場の成長が加速するであろう。
このような観点から、我々アドテク業界に関わる人間が新しい成長機会を探す上で、インドネシアへの注視は今後さらに欠かせなくなるであろう。
ABOUT 丸山 仁
PT. Geniee Technology Indonesia President Director
1980年(昭和55年)6月生まれ(36歳)
高校時代、交換留学生として渡米。マサチューセッツ州立大学(化学・生化学専攻)卒業後、在日米国商工会議所(ACCJ)入所。委員会運営を担当した。
2012年7月、当社入社。
ジーニーの海外展開にゼロから携わり、2012年8月、初の海外連結子会社としてシンガポールに「Geniee International Pte. Ltd.」を設立。Directorに就任(現任)。その後、2013年9月「Geniee Vietnam Co., Ltd.」(ベトナム・ハノイ)、2014年11月トランスコスモス社との合弁会社として「Simba Digital Pte. Ltd.」(シンガポール)、2015年9月「PT. Geniee Technology Indonesia」(インドネシア・ジャカルタ)の設立に携わる。現在、ジャカルタ在住。PT. Geniee Technology Indonesiaの代表を務めるほか、海外グループ会社の役員を兼務し、ジーニーの海外拠点を支えている。