知らないでは済まされない、プログラマティック広告の根幹を揺るがすアドフラウドという問題:第一回 導入編 |WireColumn
今年欧米のプログラマティック領域で大きな問題として取りざたされたアドフラウド。日本においても注目されつつあるものの、その実態についてはまだ広く浸透しているとは言い難い。
アドフラウドをテーマに、全三回にわたりMomentum 社 代表取締役社長 高頭 博志氏による解説をお届けする。第一回目は、「アドフラウドの概要」についてである。
はじめまして、Momentum(モメンタム)株式会社の 高頭(タカトウ)です。
この度はアドフラウド(詐欺広告)という日本ではまだあまり馴染みがないテーマについて本誌で連載を行わせて頂きます。
本連載で取り扱うアドフラウドという問題は、急激に世界中でプログラマティックな広告形態が発展する中で生まれたダークサイドといったものです。
米国ではアドフラウドは、プログラマティックとは切っても切れないテーマとなっており、私が参加した今年の10月に開催されたProgrammatic I/Oにおいても、全セッションのうちの1/4ほどがアドフラウドに関してのテーマを扱うほど注目されています。
日本ではまだそもそも何のことか知らないという方も沢山いると思いますので、第一回目の今回はアドフラウドの概要を解説することから始めたいと思います。
どこからやってきて、誰がやっているのか?
プログラマティック広告において、アドフラウドという言葉に大きな注目が集まり始めたのは2014年5月のことでした。Mercedes-BenzがRocket Fuel でのキャンペーンをTelemetry(UK発のアドフラウドベンダー)を通して計測したところ、その多くが人間とは疑わしいトラフィックだったということから端を発しています。その際の調査としてはなんと57%がアドフラウドだったという結果になりました。
このニュースが米国ではセンセーショナルに報道され、アドフラウドという存在が世に広まりました。
現在ではANA(米国の広告主協会)がThe Bot Baseline というアニュアルレポートを発表しており、アドフラウドのトレンドを詳細にレポートしています。
詳細な内容にご興味ある方がいらっしゃれば、オンライン上に公開されておりますので、ご一読ください。
どのような目的でやっているのか?
アドフラウドを引き起こす側の目的はとても単純です。価値のあるコンテンツを持たない違法な事業者が、広告主から広告予算を正当なメディアから乗っ取ることを目的としています。下記のような構図となります。
米国ではこれらの不正な事業者は、ペイメントフラウド(決済詐欺)やアフィリエイトの不正をやっていたような事業者が、より収益をあげやすい詐欺の手法として乗り換えを行っているのではないかと言われています。
なお注釈としては、今のIABの基準では(Ad Fraud=広告不正)のより広範な概念として(IVT(Invalid Traffic=無価値なトラフィック))という概念を定義し、この中にクローラーによるトラフィックなど明確に不正な収益をあげようと意図する事業者以外の排除するべきインプレッションを定めて、同様に対策を講じています。
どこに、どのくらいの規模が存在するのか?
ここでも上記でご紹介したThe Bot Baseline 2016の中から幾つか数字を抜き出してご覧いただきたいと思います。
前提として、この調査ではANA加盟のIBM、Nestle、Unileverなどを含む47クライアントを対象に行われたものです。
検出されたアドフラウド率としては、2014年の調査においては各広告主2〜22%で、2015年においては3〜37%と全体の傾向に大きく変化はなかった、と書いてあります。
不当にプログラマティック広告への不安感を煽るのは本連載の意図と全く反するものですが、上記の数字をみなさまが取り組んでいるキャンペーンにあてはめて考えるとアドフラウドという問題の重大性をご理解頂けると思います。
各キャンペーンでの2014年‐2015年における増減の傾向は下記のとおりです。
出典:ANA | WHITE OPS “2015 Bot Baseline FRAUD IN DIGITAL ADVERTISING”
続いて幾つか注目すべきトピックを抜き出してご紹介したいと思います。
フラウドの発生率として、高CPM>低CPM、となり特にVideoフォーマットでCPM $15以上のキャンペーンにおいて著しくレートが上昇しました。(下記図)
出典:ANA | WHITE OPS “2015 Bot Baseline FRAUD IN DIGITAL ADVERTISING”
ECキャンペーンにおいては、フラウド率が、リターゲティング > look a like となり、同一キャンペーン内で3.8倍のレートの差が見られました。(下記図)
出典:ANA | WHITE OPS “2015 Bot Baseline FRAUD IN DIGITAL ADVERTISING”
上記のような調査結果を基にご認識頂きたいのは、アドフラウドは高価に取引されるであろう広告フォーマット、広告手法を見極めて攻撃してくるという点です。
ここからわかるアドフラウドを引き起こす事業者の人物像は、知能の低い作業者でなければ、広告に無知のアウトサイダーでもありません。彼らは広告マーケットの知識を保有し、(このことが、業界出身者がいるということなのか、根気強い実験的手法で獲得した知識なのかは定かではありませんが)それに対して適切な手法で攻撃を行ってきます。
どのような手法があるのか?
詳細な手法については、米国で活動しているTAG(Trust Worthy Accountability Group)という団体で定義された最新の分類に合わせて第二回目の連載においてご紹介したいと考えているのですが、ここでは感覚を掴んで頂くために大まかにご紹介させて頂きます。
大きくフラウドの手法を分類すると下記のようなものがあります。
1. 媒体に仕掛けがしてあり、意図的にトラフィックの水増しを図るもの
2. 媒体に対して機械的なトラフィックを発生させるもの
3. 第三者からトラフィックを不正に取得するもの
それぞれをもう少し具体的にご説明させて頂きます。
1. 媒体に仕掛けがしてあり、意図的に広告の水増しを図るもの
下記が手法の一例です
- - ページ内で広告の表示部分だけが自動でリロードされる
- 広告がユーザーに視認できない状態で掲載している
- RTBでやり取りされるURLを本当に広告掲載しているURLから偽装している
2. 媒体に対して機械的なトラフィックを発生させるもの
下記が手法の一例です
- - プログラムにより広告表示、クリックを自動発生させる
- リターゲティングの広告を狙いブランドページに一度訪れ、同一Cookieにて広告表示を行う
3. 第三者からトラフィックを不正に取得するもの
下記が手法の一例です
- - トラフィックエクスチェンジと呼ばれるトラフィックを売り買いするアフィリエイトネットワークを利用して無価値なオーディエンスに広告を掲載する
- Ad Injectionという手法により他人のメディアに勝手に広告を掲載する
ここでは一部をご紹介させて頂きましたが、TAGによる定義では18種類の分類に分かれており、実際の細かな手法は更に多岐に渡ります。
どのような対策を取ることが出来るのか?
ここでも大まかには下記の3点が対策として考えられ、一部の先進的なマーケッターの中では実践されている事例を耳にするようになってきました。
1.キャンペーンにおいて適切な指標を追い、メディア・オーディエンスに対してのブロックリストを短いスパンで作成・反映する
2.DSP、SSP、Mediaそれぞれが、それぞれに対して透明性の高いトラフィック/アドリクエストへの要求をし続ける
3.3rd Partyのアドフラウドソリューションを利用する
正直なところ、それぞれ簡単に実現でき、即効性のある解決策というわけではありません。
今一番必要なのは、アドフラウドの問題を広告に携わるすべての方々が認識し全てのレイヤーにおいて広告予算を不当に搾取されている状況に対し、NO!ということだと考えています。
次回は日本ではまだ情報が出ていない現存のアドフラウドの手法をすべて詳細に解説していきたいと思います。
最後に先人の言葉を引用して連載一回目を終えたいと思います。
“It’s extremely important for the industry that marketers have the utmost confidence in the programmatic revolution of ad buying, and are not having to trade innovation and effectiveness for quality.”
- Dan Larden, MediaMath, Senior Manager, Media Partnerships EMEA
(マーケッターが広告買い付けをプログラマティックに行えるようになったという進化に対して、持ちうる限りの自信を持ち、品質の革新と広告効果をトレードオフにする必要がない、ということはこの業界にとって極めて重要なことだ)
ABOUT 高頭 博志
Momentum株式会社 代表取締役社長
大学時代にクラウドファンディングサービスの立ち上げに関わり、インターネットの世界に入る。
その後、グリー株式会社に入社し新規事業開発、GREE Platformのディレクション、経営企画に携わり2014年8月末に退職。
Momentum株式会社を創業し、国内では唯一となるアドフラウド・ブランドセーフティーなどのサービスを提供。