ロックオン創業者が語る、アドテク企業ゆるキャラ活用のススメ [インタビュー]
広告効果測定ツールシェアNo.1のアドエビスをはじめ、様々なアドテク商品を提供するロックオン。説明が難解ともいえるアドテクノロジー商品を販売する同社は、いち早くイメージキャラクター「アドエビスくん」を作り、親しみやすさやわかりやすさを醸成してきた。キャラクターをマーケティングに活かして成功してきた同社の取り組みは、この業界において貴重な成功事例であると言えよう。アドエビスくんと共に歩んできた同社の軌跡や現在の戦略などについて、またキャラクターを使うことの有効性について、同社代表取締役社長 岩田 進氏と、代表取締役副社長 福田 博一氏に聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之/書き起こし:ライター・鈴木美雪)
当初の想定は大阪市公募キャラ!? アドエビスくんの当初誕生の背景
― まずアドエビスが誕生した背景についてお願いします。
岩田氏:やっぱり当時のマーケティングツールとして「アクセス解析ソフト」というものが色々と市場にある中で、どれを見ても横文字で難しそうなサービス名ばかりで、そもそもとっつきにくい感じがあるのではないかと思っておりました。で、当時我々はWeb制作会社をやっていまして、例えばお客さんのところに訪問して、「アクセス解析ソフトとか使ってますか?」と聞くと、みなさん導入はしていたのですが、使いこなせているかというとそうじゃなかった。
「導入してるけど使いこなせてないんだね」と。「なぜ使いこなせないのでしょうか?」と聞くと「やっぱりちょっと難しくて、使いこなせてないんだよね・・」というような話になったのです。そこで、もしかしたらこれ「ビジネスチャンスなのではないかな?」というのが、そもそものスタートなのです。
キャラクターだからこそ伝わる、アドテクツールの「簡単さ」と「分かりやすさ」
― まずはそこがスタートだったのですね。
岩田氏: ネーミングもキャラクターもそうなのですが、どういうコンセプトで行こうかなって考えた際に、やっぱり「簡単」かつ分かりやすい、効果測定ソリューションっていうのが、必要なのではないかということになったのです。そこで、ではどうやったら「分かりやすく簡単です」ということが、お客さんに伝わるのか……と考えてみました。もちろん「簡単です!」って書いて訴求するのも勿論その方法の1つなのですが、それはどこの会社も書いているし、正直パッと分かりにくい。では簡単だというのをどう表現しようかなって考えた際に、やはりキャラクターがいたほうがいいのではないかということを感じました。
― なるほど。そのキャラクターは実際どのような流れで、どんな感じでプロジェクトとして進めていったのですか?
岩田氏:実は当時、これは裏話になるのですが、当社にすごく優秀なWebデザイナーがおり、自発的にいろいろキャラクターデザインを開発していたのです。
それで、社内でコンセプトをまとめて、もともとそのデザイナーが作っていたキャラクターをどうにか使えないかと話し合いました。
― そのキャラクターは、前からあったのですね。ちなみに当初はどういう用途を目的に開発されたのですか?
福田氏: あれは、大阪市が公募したキャラクターを作る案件に応募するために作ったものでした。
大阪市で商売繁盛の交換ビジネスのようなものを展開するためのものでした。そこで、「出して名前を売ろうぜ!」というノリで応募したものの、選考に漏れてしまいました。その時、「これをそのままにしとくのはもったいないね」ということになり・・。
― それがアドエビスくんの原型だった。
岩田氏: そうです。
― アドエビスのプロダクトは、既に先にあったのですか?
福田氏: プロダクトを開発していって、アイコンがあって、どう結び付けようかという話になりました。
― プロダクト名がアドエビスに決まってからのことですか?
岩田氏: いえ、その頃はまだ別の名前でした。まあ開発コードのようなものでした。いよいよ本格的に売っていこうっていうときに、そのキャラクターをつけて、製品名もつけようっていうので、製品名がエビスになって、ではこれはエビス君だねっていう感じで。
「こらAD(こらええで)」とか、他にも案はありましたが(笑)、ブレストの中にちょうどあったエビス君を採用しました。
着ぐるみを作るのに要したのは3年と50万円
― アドエビスくんのキャラクターとしての露出をどのように図ってこられましたか? ノベルティやぬいぐるみなど、色々な取り組みをされてきたと思いますが。
岩田氏: ありとあらゆることをやりましたね(笑)。雑誌の広告は多くやりました。当時宣伝会議さんなどの紙媒体と年間契約して、ずっと露出させたりとかです。MarkeZineさんにもずっと継続的に出させていただいたりもしましたし。あとは新聞広告とかもやっていましたね。
― イベントにも積極的に出店していますよね?
岩田氏: そうですね、イベントも。そこで露出を上げるために「着ぐるみ」も作ったりしました。
福田氏: 着ぐるみは社内で作るのに3年かかりました。
― 3年もかかったのですか?
福田氏: あれは高いのです。着ぐるみは。外注で50万円ぐらいします。笑
― 着ぐるみを計画してから3年ですか?
福田氏:「これだけの金を払う価値があるのか」ということを社内説得するのに3年ぐらいかかった気がしますね。
岩田氏: なかなかね、当時はそこに割ける予算の余裕もなかったということもありましたので。あとはキーホルダーや、シールも作りました。
― 最近はLINEスタンプも作りましたよね?
岩田氏: はい、これは良かったと思います。もうありとあらゆることをしています。ずっといろいろな露出をやっていますね。
「ゆるキャラグランプリ」にも出場、日本の「かわいい」が海外で直面した壁
― アドエビスくんは、ゆるキャラグランプリにも出ましたよね?
福田氏: 3年前ぐらい前に出ました。笑
― なるほど。お客さんからの反応はどうですか? アドエビスくんの取り組みについて。
岩田氏: 親しみやすいっていう声は日常的にいただいていますが、実はこれも海外での反応は日本と全然違うのです。
― 海外にも持って行かれたのですね。
岩田氏: はい。一応弊社もシリコンバレーに子会社とか作ったりしている関係で、海外でプレゼンテーションすることがありました。そういうところは日本とまったく反応が違いましたね。
― どのような反応だったのですか?
岩田氏: まず日本のほとんどの方々の反応っていうのは、まあ可愛らしくて、悪いことしそうになくて、そんなに高度な機能じゃなさそう。高い金額でもないし、難しくもなさそうだみたいな。簡単で、分かりやすくて、それでいながら確実にやってくれる誠実さみたいなところをこのキャラクターで表現しているのですが。海外では、「いやこれ駄目だね、最悪だね」と言われました。
― どこが駄目なのでしょうか?
岩田氏: そう聞いたところ、「Fat(太っている)だろう。」と。「自己管理が出来ておらず、しかも鼻も赤いしお酒を飲んでいるではないか。これは1番駄目なやつだよ」と。そう言われたのです。
― 真顔でそう言われたのですか?
岩田氏: はい真顔でです。ですので、「では、もう少し痩せたほうがいいんですかね。ダイエットしましょうかね。酒も控えさせていただいて」と言いました。(笑)
この時、グローバルのマーケティングって難しいなということを肌で感じました。
半端ではないコストをかけた効果とは?
― あとアドエビスくんを育てるのに要したコストはどのくらいなのでしょうか?
岩田氏: もうそれは半端ないです。笑
― キャラクターができるまでよりは、生んでから育てるところがお金かかる?
岩田氏: そうですね。元の素材が相当良かったということもあるのですが。
色々なバリエーションを作りこんで宣伝したり、動画を作ったりもしましたし。相当のコストをかけています。まあ、そのこと自体が広告宣伝ですからね。
― アドエビスくんのおかげで何か効果が出たことや助かったことはありますか?
岩田氏: 当社の売上はやはりアドエビスくんがいなければ、今のレベルにはなっていませんね。
― なってなかったと。断言できるのでしょうか?
岩田氏: 間違いないです。アドエビスを開発したときはまだ、当社の社員は恐らく5人ぐらいでした。
アドテク企業がゆるキャラを使うことの意義
― アドテク企業にゆるキャラを作ることをおススメするとしたら、どのように言いますか?
福田氏: まず「お客さん側に立つと覚えにくくないですか?」って思ってもらいたいですね。似たような名前が多くなると、お客さんとしても違いが分かりませんから。
キャラクターって本当に大切です。業界のカオスマップに、「顔」が載っているのは当社だけです。
― 米国でもキャラクターを掲げている企業は多いのでしょうか?
岩田氏: 結構多いです。例えばFirefoxはキツネですし。Linuxはペンギン。日本は少ないほうだと思います。
当社がこのような取り組みをいち早く行ったのは、社内に制作のリソースがあったことも大きいです。他社さんの場合は、エンジニアが多かったり、営業とエンジニアしかいなかったりというケースが多く、キャラクターを作るところまで手が回りきらないのかもしれません。
私たちはもともとWebデザインを手掛けていたので、制作の出身が一定の人数いるのです。やはりそういうリソースがなければなかなか難しいかもしれません。また特に経営の人間がそういうこと詳しかったり、理解がないと厳しいですね。ふつうは最初の企画段階で、「キャラクター作るのに何百万かかります」とかいう話にはならないでしょう。「まずはモノを作れ」という話になると思うんです。
ですが、米国の会社は、やはりそこは違っています。
最初からCMOのような人、マーケッターが社内にいて、ブランド戦略をどうすべきかという段階で、キャラクターをつくることが選択肢として上がってくるのです。
― なるほど。ものづくりとブランディング戦略がセットにあるということですね。
今後目指すのは、グローバル市場
― 今後アドエビスくんを通して、何かやってみたいことはありますか?
岩田氏: やはり海外に行きたいですね。アドエビスくんが世界中でプロダクトを広めてくれる営業マンになってほしいです。世界で活躍する姿を見たいですね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。