×

デジタル広告とデータ活用―第2回 最適化配信が陥る罠[PR]

Adroll社協賛により、お届けしている「デジタル広告とデータ活用」シリーズ第2回目の今回は、近年普及が進むリターゲティング広告について、第1回で解説した二軸のデータ分類の観点から、リターゲティング広告の特性について触れる。

また現在リターゲティングを中心に活用されている最適化配信の意味について考察をおこなう。

 

リターゲティング広告の隆盛

リターゲティング広告の普及が始まってからおよそ5年後の2011年以降、日本でDSP(demand side platform)とSSP(supply side platform)間でのRTB取引が始まり、Googleがアドエクスチェンジを日本で展開し、リターゲティング広告のチャネルはアドネットワークからDSPへと移行が進んだ。

 

国内外の大手事業者やITベンチャーがDSP事業へと参入し、日本では数多くのDSPがサービス展開を開始した。

DSP各社は、自社サービスの特徴として「独自のアルゴリズム」や「最適化配信」などのキーワードを掲げ、その優位性をマーケッターに訴求し、CPAに対してコミットをした。そしてこの手段として最も用いられているのが、リターゲティング広告である。

 

 

前回も述べたが、リターゲティング広告は、オンラインを販売チャネルとするEコマースをはじめとするダイレクトレスポンス系のマーケッターにとって、極めて明快なソリューションである。この頃、検索連動型広告のコモディティ化とともに出稿サイドにおける競合性が高まり獲得効果の逓減が進みつつあったこともあり、リターゲティング広告は検索連動型広告に続く効果的な手法として急速に普及した。

DSPがCPAの最適化を行う上で、短期的に最も効果が出るのがこのリターゲティングであり、現在DSPチャネルのディスプレイ広告市場の8割以上がリターゲティングであるといわれている。

このように、現在リターゲティング広告は、最適化配信を達成するための最も適した手段としてディスプレイ広告市場における圧倒的なシェアを獲得、現在も需要は拡大を続けている。

 

 

顕在顧客と潜在顧客をデータの観点で考える

現在リターゲティング広告の配信において活用されるのは、広告主サイトを訪問したユーザーのクッキーデータである。

これは、広告主が持つデータ、すなわち“ファーストパーティデータ”であり、また広告主のサイトに訪問しているということから、“インテントデータ”であるといえる。

そしてこのデータの先にいるのは、よく言われる“顕在化顧客”である。

 

これに対して、“サードパーティ/スタティックデータ”は、潜在顧客として位置づけられよう。

※ファーストパーティデータ、サードパーティデータ、インテントデータ、スタティックデータに関する解説は、第1回コラムをご参照ください。

 

リターゲティング広告の効果と効率性を継続させるためには、広告主のWebサイトに十分なユーザーの流入があること、言い換えるとファーストパーティ/インテントデータを生成することが不可欠となる。

よくデジタルマーケティングの教科書に書かれている「ブランド認知やブランド想起により潜在顧客の発掘が必要である」という教条は、データの視点では、「“サードパーティ/スタティックデータ”を、“ファーストパーティ/インテントデータ”として取り込むこと」と、言い換えることも出来よう。

 

一般的に、デジタル広告のターゲティング配信で活用されるデータに関して、データ種類別のデータ量の大小関係性は、以下のような関係性にあるといえる。

 

[データの種類と量の関係性]

ファーストパーティデータ < サードパーティデータ

インテントデータ < スタティックデータ

 

日本の広告主が重視する最適化配信

「日本の広告主が海外の広告主と異なる点、つまり特徴を挙げるとするとラストクリックを重視することである」これは、海外業界関係者が口を揃えて言うことだ。

実際、現在国内のDSPなどを活用した最適化配信は、“ラストクリックのCPAを最適化”に対してコミットしているものが多いと聞く。

 

ラストクリックとは、ユーザーが商品・サービスの認知からコンバージョンに至るまでの導線(コンバージョンパスといわれる)の中で発生した複数の広告や検索結果などのクリックの中で、コンバージョンの最も直前に発生したクリックのことである。

 

欧米市場では、現在アトリビューションマネジメントという考え方が定着しており、日本とはラストクリックに対する評価が若干異なっているようだ。

アトリビューションマネジメントとはユーザーの認知からコンバージョンに至るまでに、広告主がDSP、アドネットワーク、検索連動型広告など複数のチャネルからユーザーにアプローチしたそれぞれの施策(広告)の貢献度を数値化し、ラストクリック以外の、ビューやクリックも評価し、その評価をもとに予算の最適配分を行うというものである。

 

本格的なアトリビューションマネジメントを実行するためには、一般的には第三者配信アドサーバーを使用することが必要となる。日本でもいくつかのサービスが提供されているが、多く広告主に普及しているとは言い難い。その理由は、このサーバーを利用するためには、少なからずシステム面や費用面での投資が必要となることや、第三者配信を受け入れているパブリッシャーが限定されていること、分析を行う人材が限られているなどの日本特有のマーケット特性により、欧米市場と比べ限定されているというのが業界での通説である。

 

リターゲティング広告を活用したラストクリックのCPA最適化は、まだコンバージョンへと転換されていないファーストパーティ/インテントデータを最も効率的に自社の収益に変える手段として、極めて優れた手段である。だがこの施策への偏重を続けると、いずれは母数となる自社ユーザー数の枯渇を招くことや、獲得コストの逓増にもつながりかねない。

 

これを防ぐには、サードパーティ/スタティックデータを、ファーストパーティ/インテントデータへと転換し、補充する施策を並行して実施するのが理想的である。

 

最適化配信の罠

最適化とは、与えられたある制約条件の範囲内で、最小のインプットで最大のアウトプットをもたらす行為である。昨今よく言われる最適化配信は、これに準じている。

ここで留意すべきは、ある最適化は、別の条件下においては、必ずしも最適化されているとは限らない。むしろ他の最適化を阻害している可能性もあるという点である。

 

経済学の用語で、部分最適と全体最適という言葉がある。その意味は、まさにその言葉通りであるが、最適化という言葉を耳にしたとき、「ある最適化は全体の最適化を阻害していないか」ということは、留意すべきことである。

これをデジタル広告配信に置き換えて考えた場合、CPA最適化を達成するに当たり、「デジタル広告チャネルはもとより、その他のチャネルも含めたマーケティング施策全体の観点で見た場合はどうか?」というような全体最適の観点、さらには、「ユーザーへのフリークエンシーや、配信されるタイミングなどのユーザビリティーは担保されているのか?」というような観点も必要かもしれない。

例えばある旅行サイトを訪問し、ハワイのホテルに申し込んだ直後から、ハワイのホテルの広告に追い回されるというようなことはないか、などという点は懸案事項となる。

このような現象は、リターゲティング広告においてはよくみられる傾向である。これは、しつこく追い回すことで、100人中30人のユーザーが、その商品やサービスを嫌いになったとしても、6人のユーザーが申し込みしたとすると、最適配信をする側は、これをよしとしてしまうことがあるからだ。

 

CPAの最適化という部分最適化を実現出来たとしても、マーケティング施策全体の最適化、広告主の企業価値の最適化に何らかのネガティブな影響は出ていないのか。最適化の罠に陥らないように、一度見直すことも必要かもしれない。

 

アドテクノロジーは、依然として発展途上にあり、全てを完全に解決するところにはまだ至っていないが、広告配信におけるデータの有効活用はそこに向けた道筋を作ろうとしていることは、間違いないであろう。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。