米国デジタル広告市場の潮流-第一回: AOLに見るアドテク動向と日米動画広告の比較と課題- |WireColumn
by ニュース
on 2015年10月09日 inこんにちは、AOL プラットフォームズ・ジャパンの齋藤司です。
昨年2月まで動画広告のコラムを5回にわたり書かせて頂きましたが、大変反響が大きく、多くの方に読んで頂いたようで有難うございます。今でもGoogleで「日本 動画広告」と検索すると、1年半以上前の記事が1ページ目に出てきます。少しでも動画広告に関わる方のヒントになっていれば嬉しいです。
さて、私はというと、新しい挑戦として昨年からAOLプラットフォームズ・ジャパンで動画広告事業を担当しています。編集長の野下さんから「米国は動画広告がとても伸びており、Google、Facebook以外のプレイヤーとしてはAOLが中心となって市場を引っ張っているように見えるので、そのあたりの話も含めて日本の動画広告がもっと盛り上がるようなコラムを」と、縁あって今回コラム連載のご指名を頂きました。
ということで、僭越ではありますが今回も書かせて頂きます。私が書くのでどうしても動画広告の話題が中心になってしまうと思いますが、よろしくお願いいたします。今回は、はじめにAOLについて紙面を割かせていただきますが、少しお付き合いください。
■ 実は色々やっているAOL
私もAOLに入社した当初は、自分自身が動画DSPをやるという事にしか目が向いておらず、おはずかしい話AOL全体のことについては目が向いていませんでした。しかし、米国ではFacebook、Google、Twitter等と並びデジタル広告に関するルール作りにも積極的に関わっているキープレイヤーとなっています。
またAOLはアドテク企業を次々と買収しており、そのラインナップを見ていくだけでもデジタル広告について重要なポイントや領域というものが見えてくる気がします。
下の図は、AOLが買収した企業を並べたものです。AOLは買収した企業やコンテンツメディアを育てるという「Culture」と、それらを最先端のプログラマティックや計測手法としてマーケティング活動に活かしていくアドテクノロジーの方向性「Code」として推進しています。
「Culture」には、TechCrunch、ハフィントンポストのようなメディアや、各メディア表現方法をよりリッチにするものとして動画ソリューションがいくつかあり、「Code」には日本でも既に展開しているディスプレイのDSPである「AOP」やSSPの「Marketplace」、動画DSP、Exchange、SSPを持つ「Adap.tv」があります。プログラマティックの領域をディスプレイ、動画の両面で推進している事がわかります。
また、AOL以外のコンテンツメディアにもCulture & Codeを提供する事で、プレミアムな広告枠として参画して頂き、より高単価な広告ビジネスを展開する事を目指しています。また広告会社、広告主側にはプログラマティックな広告取引を推進し、複数メディアを横断した効率的な売買が出来るよう努めています。
■ OnebyAOLとは?
そんなAOLですが2015年4月には、DSP、Exchange、SSP、DMP、マルチタッチアトリビューションといったアドテクソリューションを統合して提供する事によりコストダウンと広告配信の効率化を実現することを目的とした「One by AOL」という構想を打ち出しました。日本でも既にサービス提供が始まっているAOP、MARKETPLACE、Adap.tvを一つのソリューションとして機能させていくため、それぞれOne by AOL:Display、MARKETPLACE、One by AOL:Videoとしてリブランドしています。今後はひとつのUI、IDでこれらのソリューションが利用可能になりますし、新しいソリューションも繋がっていきますのでご期待ください。
この「One by AOL」という構想は、アドテクソリューションの数が増え、管理画面が多くなって覚えきれない、扱いきれないといった広告主、広告会社、トレーディングデスクの課題にも応えられるのでは?と個人的には考えています。
Adobe、Salesforce、Oracle等でマーケティングオートメーションが盛んに語られるようになってきている昨今、顧客データベースから見込み顧客を抽出、そのデータを広告として検索しSNSやデジタル広告へ展開していくケースや、DMP内の自社データである1st Party DATAから広告を配信するといったケースがあるかと思いますが、「One by AOL」のマルチタッチアトリビューション分析機能である「Convertro」というソリューションでは、TVCMや他のマスメディアの出稿量の情報を入力する事で認知施策からWeb上での広告主のマーケティングゴール獲得施策までの広告施策を一気通貫で計測することができます。米国では既にこのような最適配分を検討していく事のできるサービスを提供しており、日本でも来年にサービスを開始する予定です。
広告会社の方には非常に興味深いソリューションかと思いますので、このコラムの後半で詳細をご紹介できればと思っています。
■ 広告会社出身者が作り出すアドテクノロジーの世界
AOL PlatformsのTOPであるBob Lordは、広告会社レーザーフィッシュのCEOを経験した人物です。広告としてアドテクはどうあるべきか?デジタル広告の未来を従来のマス広告とどう融合させるべきか?といったテーマにも「One by AOL」で応えていく事になります。日本でも、2015年1月から「アドバタイジングドットコム・ジャパン」が社名変更し、「AOL プラットフォームズ・ジャパン」として「One by AOL」を展開しています。
これに今年6月末、マイクロソフトの広告事業がAOLに委託されることになり、日本でもMSN、Outlook、Skype、Xbox等の広告在庫を販売する事になりました。マイクロソフトで広告事業に従事していたメンバーも、既に当社に転籍しています。今後はMSNのようなよりプレミアムな枠でもよりプログラマティック売買が進むような事を検討中です。是非ご期待ください。
※先月9月4日にも、米モバイルアドネットワーク大手のミレニアルメディアの買収で合意とのニュースもあり、もうビックリです…。AOL自体も2015年5月に米国通信大手ベライゾンに買収されており、モバイルと動画に注力していく事を発表しています。激動のWeb業界の中でも最もアグレッシブに動いているAOL Platformsを、今後ともよろしくお願いいたします。
■ 2015年日本の動画広告動向と米国との差から見る課題
さて、動画広告です。2015年日本の動画広告は順調に増えていますが、ポイントとしては、①動画広告の多様化が進んでいます。2014年の予測として書かせて頂いたインリード動画広告もそうですが、それがモバイルにも展開され、キュレーションサイト等で採用されているポジション固定型の動画広告や、インリード型とほぼ同じ挙動をするFacebook、Twitter、Instagram等で展開されているインフィード型動画広告、またインタースティシャル型の動画広告等多岐にわたって展開されてきています。これらの動画広告には動画コンテンツを必要としないという共通点があり、メディアにとって参入障壁が低いため、急速に拡大してきています。
以前のコラムで記載していた、プレロール、インリード(インスクロール)、インバナーといった区分では分けにくくなってきていますので、米国に習い、動画広告を配信する際に、動画コンテンツを必要とするInStream、動画コンテンツを必要としないOutStreamの2つに区分するのも良いかもしれません。
InStreamには、動画コンテンツの前に動画広告が掲載されるプレロール動画広告、コンテンツ中に掲載されるミッドロール動画広告があります。最近はYouTube等でも音楽アーティストのプロモーションビデオがまとめて再生されるようになり、動画コンテンツの自動再生がデフォルトでONになり複数の動画コンテンツを連ねて視聴していく流れができており、それに応じて掲載される動画広告もミッドロール的な掲載のされ方が進んでいます。
ミッドロールにより、InStream在庫が増加し、また動画広告の完全視聴率がレポート数値としては上がってきているといわれています。一方でOutStreamに関しては動画コンテンツを必要としないため、日本でも急速に広告枠が増えてきています。InStreamとの違いとしては、デフォルトで音声がONではないものがほとんどという点と、動画コンテンツがないため動画広告の完全視聴率が低いという点が挙げられ、認知ブランディングではInstreamに劣ります。ただクリック率が比較的高かったり、在庫数の豊富さからWebならではのターゲティングが可能であったり、UGCだけでなくコンテンツメディアへの動画広告の掲載も可能になってきているというメリットがあり、InStreamとOutStreamの両方をうまく使っていける状態にはなってきています。
一方で、非常に伸びているように見える日本の動画広告市場ですが、下図からもわかるように、日本の動画広告市場は米国の動画広告市場の1/20~1/30程度規模でしかありません。
一般的なマスメディアの広告費であれば1/3~1/5といったところなのですが、動画広告は米国に日本は大きく差を開けられています。この主な要因としては、①米国はCATVが数多くあり出稿に手間がかかるため、Webの動画広告の効率的配信による予算シフトが進んでいる点や、②InStream動画広告に必要な動画コンテンツのWeb展開が進んでいる点が挙げられます。またAllメディアでの展開が大前提となっている米国動画コンテンツは、権利処理についても比較的低いハードルで動画広告を入れる事が出来ますが、日本では最近ようやく動画コンテンツが権利処理され、動画広告を入れる環境が整ってきたという事で、米国に比べると相当遅れている感が否めません。
こういった点から日本の動画広告の課題は、①InStream動画広告在庫の不足、②広告主の展開する長尺動画広告素材の展開先の確保があり、結果的にYouTubeがその多くを占めてしまっているという事があるかと思います。もしプレミアム媒体で動画コンテンツと動画広告を多く作っていく事ができれば、広告主は大いに歓迎するかと思いますし、長尺の動画広告を展開できる広告メニューが出来れば、Webオリジナルの動画広告もより一層作られるかと思います。
次回は、そんな日本の抱える動画広告の課題について、日本市場ほどYouTubeのマーケットシェアの高くないといわれている米国の動画広告市場を参考に、日本にはまだない動画広告商品を紹介したいと思います。
よろしくお願いいたします。
ABOUT 齋藤 司
AOLプラットフォームズ・ジャパン株式会社
VIDEOマーケティンググループ
ラジオ、TVの放送作家を経て
2000年、雑誌をメインとした、広告代理店に入社。
動画、SNS、
デジタルハリウッド等で動画広告に関する講師、