位置情報の活用がアドテクノロジーを救う!ジオロジックが仕掛けるスマホ、IoT時代のオンラインマーケティング
2014年12月に設立されたジオロジック。日本のアドテク業界エンジニアの第一人者であり、業界人から尊敬を集める代表取締役社長 野口航氏に、自らが立ち上げた位置情報サービスと、その可能性についてお話を伺いました。
(聞き手:ExchangeWire編集長:野下 智之)
位置情報を活用し、スマホアドテクを脇役から主役に
-- 野口さんのバックグラウンドを教えてください
これまでのキャリアではユーザーのIDに関わる仕事を一貫して行ってきました。大学を卒業後、NTTコミュニケーションズでICカードの事業を行っていました。その後、サイバーエージェントグループでマイクロアド(入社時はその前身であるブログクリック)の事業に携わりました。直近では、国内シェアNo.1のDSP MicroAd BLADEの最適化エンジンやターゲティングエンジンを開発しました。
-- 会社を設立した背景と会社の事業概要について教えてください
これまで私自身が主に携わってきた、クッキーを使ってRTBでターゲティングをするというアプローチでのアドテクノロジー市場の拡大には限界がみえてきました。その要因には、スマートフォンが普及したことで、PCのトラフィックがシフトしたことが挙げられます。スマートフォンではクッキーが使えず、今のままではアドテクノロジーが有効に機能しません。したがって、スマートフォン上では、RTBではないアドネットワークが中心で、RTBやアドテクノロジーはわき役に甘んじています。
しかしながら、スマートフォンで位置情報を活用すれば、テクノロジーを活用した広告配信に十分な可能性があると考えました。位置情報を活用したアプリ向けのオーディエンスターゲティングを普及させることで、これまでとは違うアプローチからアドテクノロジーの市場に貢献することを目的に会社を設立しました。
当社が提供するサービスは、大きく二つに分かれます。
(図をクリックで拡大)
一つはジオ・オーディエンスという商品です。これはユーザーIDに対して、どのようなパーソナリティーを持つかを推測するというサービスです。例えば「このIDのユーザーは富裕層である。」というようなデータを提供することが出来ます。
次に、ジオ・ゲノムです。これは、住所に対して居住者の傾向データを付与するというものです。例えば「田園調布は、経営者の多い富裕層エリアです。」というようなデータを提供することが出来ます。
-- これらのサービスは実際にどのように広告配信に活用されるのでしょうか?
ジオ・オーディエンスは、DSPなどのアドテク事業者を対象にしたサービスです。位置情報を持っているが、その活用方法が分からないアドテクベンダーから当社にすべて任せてもらい、当社がユーザーのデモグラフィックやインタレストを推測してクライアントにお戻しするという、いわばデータ分析・加工サービスです。
一方で、ジオ・ゲノムは、データそのものを提供するサービスです。ジオ・オーディエンスよりも幅広いターゲットを想定しており、アドテク事業者のみならず、店舗を持っている事業者、特に顧客情報を持っている事業者などもターゲットに含まれます。
-- サービスの料金体系はどのように設定していますか。
ジオ・オーディエンスに関しては、ユーザー数に応じた従量課金を、ジオ・ゲノムに関しては、サブスクリプションモデルを想定しています。
-- クライアントからの反応はいかがですか?
当初想定していたよりも反応が良いです。現在は、まだクライアント自身が位置情報を持っていないケースが多いですが、データが蓄積されれば当社のサービスを広く使っていただけるフェーズに入ると思います。
-- 国内の広告配信における位置情報の活用について、現状を教えてください
広告配信への位置情報の活用は、2014年時点では当社を含めて国内企業では3社。外資系企業も1社にとどまり、これから市場そのものを作って行く必要があると認識しています。
-- 貴社サービスの他社との差別化のポイントを教えてください。
当社は、アドテクノロジーの技術とGISの技術の両方を持っています。GISというのは、Geographic Information System(地理情報システム)の略で、地図を作ったり分析をしたりする領域です。現在アドテクとGISの両方が分かるエンジニアは日本にほとんどいません。この点が弊社の大きな強みになります。
広告にとどまらない、スマホ普及がもたらす位置情報活用マーケティングの本格到来
-- 位置情報データの広告配信への活用は、2000年代後半に一時話題を集めました。あの頃と現在とでは何が違うのでしょうか?
大きく二つあります。一つは端末の違いです。当時はフィーチャーフォンが普及している時代でした。ですので、位置情報の取得はGPSに頼っていました。しかし、今ではスマートフォンが普及したため、Wi-Fiからも位置情報が取得できるようになり、ある程度 精度の高い位置情報を瞬時に取得できるようになりました。それだけデータも集めやすい。
また、スマートフォンではOS事業者が提供するプライバシーフレンドリーな端末IDが普及しつつあることも、後押しをしています。
二つ目は、データの広告配信への活用方法の違いです。以前の広告配信への位置情報の活用は、例えば広告主の店舗の半径500メートル以内に今ユーザーが訪れたら広告を配信するという、いわゆるジオ・フェンシングという手法でした。
この手法では、広告の配信ボリュームが限られており、スケールさせることが困難でした。また近年は、データ解析のインフラが非常に安価になり、ビックデータの解析がしやすくなりました。したがって、ユーザーの過去の行動を分析し、そのユーザーのパーソナリティーを推定することが出来るようになりました。位置情報を活用することで、ユーザーが今お店の近くにいなくても、一定の時間軸の幅において、そのお店と関連性があるユーザーに対して広告を配信することが出来るようになりました。
-- 位置情報を活用した広告配信サービスの海外の現状はどのようになっているのでしょうか?日本との違いについては、いかがでしょうか?
海外では、すでに位置情報を活用した広告配信サービスに一定の普及がみられます。米国に7社ほどある位置情報系アドテク企業のうちの1社、ThinkNearによると、米国市場では2012年の時点でRTB配信の10%に位置情報が付与されており、2014年には67%に達したとのことです。
日本ではおそらく数%に満たない状況ですが、今後急速に拡大するとみています。広告配信における位置情報の使われ方については、日米でそれほど大きな違いはないでしょう。
-- 今後のビジネスの方向性について
様々なプロダクトを出していきたいと思っています。今後、当社の主力になるプロダクトを現在開発中で、そのリリースに向けた準備を進めています。スマートフォン広告という枠にとらわれず、今後、市場の成長が見込まれるIoTの領域などを含め、緯度経度の情報をマーケティングで活用できる情報に変換するサービスを提供していく予定です。IoTの時代には、位置情報をいかにマーケティングに活かすかが最重要テーマの一つになるでしょう。
-- 位置情報のマーケティング活動における今後の役割について教えてください
オンラインマーケティングにおけるユーザーのターゲティングにおいて、従来のようにウェブブラウザの閲覧履歴だけを使うのは、あまりにも狭すぎました。適切なユーザーターゲティングを行うには、ユーザーの位置情報が欠かせません。今後、新しく出てくるカーナビやスマートウォッチなどのデバイスでは音声入力や画面の縮小化などが進み、企業がそこでユーザーとコミュニケーションを行う上で、位置情報の活用は大きな鍵を握ります。
ユーザーが「ラーメン」と音声入力した場合、多くのユーザーが希望する検索結果は、現在の場所の近くにあるラーメン屋であるはず。こう考えると、位置情報の活用はどんなマーケティング活動においても有益なものになるだろうと思っています。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。