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タッチ不要で通信できるiBeaconは NFCに取って代わるのか。その活用事例と可能性 |WireColumn

ThinkJam 荒井さん、前田さん

いま注目されているAppleの近距離無線通信機能「iBeacon」の可能性を、NFC(Near field communication)との比較を交えながら考えていきます。


 

 

 

 

 

 

●タッチで通信できる「NFC」

NFCは「おサイフケータイ」などで馴染みのある近距離無線通信の総称であり、Android4.0以降のスマートフォンでも利用できます。
「NFCタグ」と呼ばれるシールのようなものに、あらかじめ処理を書き込んでおき、NFC対応端末でタッチするだけで、その処理を実行できます。例えば、タッチするだけで商品情報を表示したり、クーポンを取得できたりなどの応用が可能です。

NFCタグ

NFCタグ

 

ここ数年iOSデバイスでのNFC対応も切望されていました。結局のところ、AppleはNFC対応を行わず、代わりにNFCとは異なる近距離無線通信「iBeacon」を発表し、いま注目を集めています。

 

●タッチ不要で通信できる「iBeacon」

iOS7から搭載された「iBeacon」は、NFCのようにわざわざタッチする必要もなく、近づくだけで通信できる技術です。「ビーコン」と呼ばれる専用端末を設置すると、近くにあるiOSデバイスを自動で検知し、通信できます。

「ビーコン」はすでに発売されており、例えばEstimote社のビーコン(3つセットで約9,900円)には、加速度センサーや温度センサーが内蔵されています。気温の変化に応じて通信内容を変えるなど、いろいろと応用が利きそうです。
(なお、このビーコンはセンサー追加も可能です)

 

Estimote社のビーコン

Estimote社のビーコン

 

●iBeacon 5つの特徴

それでは、iBeaconは今までの技術と比べて、どんな違いがあるのでしょうか?
5つのポイントにまとめてご説明します。

 

1)通信距離が長い
50m(推奨10m)とかなり離れていても通信可能です。
※NFCは20cm(実際は4cm)と至近距離
2)位置を高精度に測定できる
複数のビーコンを設置することで、消費者の位置を高精度に測ることができます。従来のGPSでは難しかった、屋内(例えば店舗など)での位置も把握できる技術として期待されています。
3)デバイスを識別できる
ユーザーのデバイスを個々に識別できるため、例えば過去の配信状況に応じて、ユーザーごとにカスタマイズした情報を送ることもできます。
4)フィードバックが得られる
ユーザーの行動データを、管理者側にフィードバックすることができます。
その結果から、効果的なオファーを考えるためのヒントも得られそうです。
5)Androidでも利用できる
iBeaconはBLE(Bluetooth Low Energy)という低電力版Bluetoothがベースになっています。
そのためBLEに対応しているAndoroid4.3以降のデバイスとも通信することが可能です。

 

さて、ここからは実際にiBeaconがどんな体験を提供してくれるのか?について、2つの活用例をご紹介します。

 

●まるでコンシェルジュのような店舗でのiBeacon活用例

まずは、店舗にビーコンを設置した場合の例です。

 

あなたは、街をぶらぶら歩いています。とあるアパレル店舗の近くを通り過ぎようとすると、突然スマートフォンのホーム画面に、新商品やセールの情報が通知されました。ちょうど時間もあったので、店舗に足を踏み入れると、その瞬間、今度はチェックインクーポンや店舗レイアウト案内に切り替わりました。

 

案内されたレイアウトを頼りに、新商品のシャツが置いてある商品棚に向かうと、今度はその商品のクチコミやコーディネート動画が表示され、購入検討に役立ちました。

その後、ジーンズの商品棚まで移動すると、「さきほど見ていたシャツとお似合いですよ!」というメッセージが届きました。

商品は気に入ったものの手荷物が増えるのは嫌だったので、スマートフォンの画面にある「購入ボタン」をタップしそのまま店を出ると、その瞬間、商品の配達日を知らせるメッセージが送られてきました。

 

このように、ユーザーの行動にあわせて、手元のスマートフォンがまるであなた専属のコンシェルジュのようなサービスを提供してくれます。今までとはひと味違うショッピング体験が楽しめそうですね。

 

店舗側も、ビーコンを設置することで、店舗の近くにいる消費者の呼び込み、店舗内でのタイムリーな情報提供による関心や購入意欲アップ、さらには、購入手続きのオペレーション効率化といったメリットが受けられることになるでしょう。

店舗での利用イメージ

店舗での利用イメージ

 

●まるで「執事」のようなiBeacon活用例

iBeaconは、球場や美術館での利用も検討されています。ここでは、MLB(Major League Baseball)による実証実験について紹介しましょう。

 

野球を観戦するために、あなたは球場へ向かっています。球場の近くまで来ると、スマートフォンに本日の対戦カードが届き、いよいよだなと気持ちが高ぶります。ゲートまで近づくと、今度はあらかじめ購入しておいたチケットのコードや座席表が表示され、それを見せて球場に入ります。球場に入ると、来場数に応じたホットドックのクーポンが届き、さらにアプリ内のスタンプカードに来場スタンプが1つ追加されました。
プレイボールまでの待ち時間に球場内を散策していると、チームのオブジェの近くに差し掛かったところで、球場の歴史に関する動画がスマートフォンで再生できるようになり、退屈することなく時間を過ごせました。

 

店舗と同様、ユーザーの行動に応じたサービスを受けられることが期待できます。特に、チケットやスタンプカードを、わざわざ探すことなく、必要な時に自動で表示してくれるのは非常にスマートですね。気の利く執事が常に同行しているかのような体験です。

 

対戦カード(左)、球場案内(中央)、クーポンとスタンプカード(右)

対戦カード(左)、球場案内(中央)、クーポンとスタンプカード(右)

 

 

●iBeaconでスマポユーザーの来店を促すビックカメラ有楽町店

日本では、ビックカメラ有楽町店がいち早くiBeaconを導入して話題を呼んでいます。ビックカメラでは、株式会社スポットライトが運営している「スマポ」という来店ポイントサービスを以前から導入していましたが、2013年9月24日より、スマポにiBeaconを国内で初めて搭載しました。

スマポは、対象店舗内の指定のエリアに行き、アプリ内のチェックインボタンを押すと、超音波による検知を経て、商品券などに交換できる「来店ポイント」がもらえるサービスです。この来店ポイント欲しさに店舗に来店してもらうことが、スマポの目的です。

 

これまでは、対象店舗を知るためには、アプリで検索する必要がありました。対象店舗だと知らずに素通りしてしまうユーザーが多くいたと考えられます。

そこで、iBeaconを導入し、対象店舗に近づくだけで自動的に「対象店舗であること」をプッシュ通知できるようにしました。来店の機会損失を緩和できるのではと期待されています。

 

●iBeaconはNFCに取って代わるのか?

iBeaconには、NFCにはないメリットがあり、今後幅広い活用が期待されていますが、iBeaconが普及していくにつれて、NFCは廃れていくのでしょうか?
2つの観点で考察してみます。

 

1つ目は、情報の取得方法です。iBeaconはプッシュ通知を許容する設定にしていれば、ユーザーは意識していなくても気づかないうちに通信が発生します。つまり受動的な通信です。これは認知してもらうという点では非常に便利な機能です。しかし、ユーザーが意図しない(もしくは、欲しくない)情報を提供することにもつながります。欲しい情報だけを入手するために、ことあるごとに通知設定を切り替えるのは手間です。一方NFCは、ユーザーの能動的なアクション(タッチ)を必要とするため、欲しい情報だけを入手することができる通信手段と言えます。

 

2つ目は、通信トラフィックです。例えば、展示会やコンサートなど、数万人が一同に会するような場所では、相当数のトラフィックが発生すると予想されるので、iBeaconのような1:Nかつ長距離の通信方法では不安定になるかもしれません。しかしながら、NFCは1:1で至近距離での通信なので、安定性が高く確実です。

 

このような点から見ると、iBeacon 対 NFCという対立の構図ではなく、目的や利用環境などに応じて、使い分けがされていくという見方が自然かもしれません。

 

●iBeaconがもたらす新たな顧客分析の可能性

従来は、カメラや動体検知など映像データを基に店舗内の消費者行動を分析していましたが、iBeaconはその分析手法においても、新たな風を吹き込んでくれるかもしれません。

例えば、あらかじめiBeacon対応のアプリ側でユーザーの属性情報を入力させる、もしくはオンラインの会員情報やソーシャルのプロフィールなどと結び付けておくことで、どんな人が来店したのかをまず知ることができます。さらに、複数のビーコンを使って、店舗内での動線を計測できるので、どんなオファーを出すことで、どんなリアクションを起こしたのか?といった施策に対するフィードバックも計測可能です。その結果、商品を購入したかを含め、一連の店舗内の行動をデータとして蓄積できることは、オムニチャネル時代における貴重なマーケティングデータになってくるでしょう。

 (編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 荒井勇人、 前田衣里奈

荒井勇人、 前田衣里奈

株式会社シンクジャム プランナー

【荒井】2009年にシンクジャムを共同設立。WebサイトのIAプランニングをコアスキルに、構築ディレクションや戦略プランニングなどの面でも、大手企業のマーケティング支援を行っています。

【前田】国立の理系大学院を卒業後、シンクジャムに入社。Webプランナー兼アナリストとして従事する傍ら、定期的に国内外のWebマーケティング動向などを調査し、Web上などで発信中。