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ブログ:RTBがデジタル広告の主役になるためには何が必要なのか?

[Admarketech.: 岡田吉弘]

Admarketech_logo急成長する世界のRTB市場

RTB(Real-time Bidding:広告のリアルタイム取引)は、大手広告主やプレミアムパブリッシャーが利用を開始した2012年、大きな飛躍を遂げました。この勢いは今後も持続し、2013年以降も大幅な伸びを記録することが予測されています。

eMarketer が2012年11月に発表したリリースによると、RTB は2016年にはディスプレイ広告全体の28%を占め、規模としては70億6000万ドルにまで達するとのこと。2012年の数値がそれぞれ13%、19億4700万ドルですので、規模にして3倍以上の成長が期待されていることになります。

 

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Real-Time Bidding to Take Ever-Bigger Slice of Display Pie - eMarketer

http://www.emarketer.com/Article.aspx?R=1009484

 

IDC も(PubMatic と協賛で)2012年10月に同様の調査を行なっています。業界の全体像が把握しきれないほど複雑なのか、もしくはeMarketer との調査内容の違いなのか、2016年には140億ドルまでの規模に達する見込みが出されています(つまり eMarketer の2倍の読みです)。各社の数字にずいぶん開きがありますが、どのみち成長率は非常に高く、盛り上がってる感はヒシヒシと伝わってきますね。

 

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[PDF] Pubmatic infographic - RTB - FINAL - Think-Through

※リンク先はPDFです

 

 

成長著しい日本のRTB

この期待感は日本も同様で、IDC の調査では、日本がRTBで成長著しい市場として評価されており、eMarketer でも積極的に紹介されています。

 

"Although the US will remain the leader in RTB spending through 2016, Japan will surpass the UK in 2014 for the No. 2 spot in terms of ad dollars. By 2016, IDC predicts RTB display ad sales will account for 28.5% of total digital display dollars in Japan. … On the heels of Japan’s impressive RTB uptake, the Asia-Pacific region will continue to dominate growth in the market in 2013"

"2016年においてもアメリカはRTB市場のリーダーであり続けるだろうが、日本は2014年にはイギリスを追い越して世界で2番目のRTB市場になるだろう。IDCは、2016年には日本のディスプレイ広告費のうち、28.5%がRTB経由になると予想している。 (中略) 日本のRTBのみごとな市場導入の余波で、2013年にはアジア・パシフィックの各国においても著しい成長が続くだろう"

 

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日本でもいくつかの企業がRTB市場の予測を出しています。

調査会社のシード・プランニングは、2012年8月31日に発行した「インターネット広告流通自動化とアドテクノロジー業界の動向分析調査」というレポートに合わせて、以下のようなリリースを出しています。

 

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インターネット広告の自動取引が本格的に普及 - プレスリリース

http://www.seedplanning.co.jp/press/2012/2012091801.html

 

これによると、日本のRTB市場は2016年に730億円に達すると予想されています。

✓ RTB取引が今後拡大するには、その機能を使うことで提供できる、広告主個々のニーズにより近づいた、高度なターゲティング手法による広告配信が普及し、広告主の需要を促進する必要がある。

✓ そのためには、広告配信時に活用できる様々なユーザーデータの流通や分析サービスが求められる。

✓ プライバシー保護に配慮した、インターネット広告配信時のユーザーデータ利活用の望ましいあり方については、業界内での議論を踏まえた対応が進みつつある。

✓ 今後、社会的な認知・理解がより進み、広告配信に利用可能なユーザーデータ流通が進み、分析サービスが充実化されれば、RTB機能を活かした高度なターゲティング手法による広告商品が普及し、市場成長が促進されるであろう。

 

RTBのプレイヤーであるマイクロアドも、2012年の8月に市場予測を発表しており、2016年にはディスプレイ広告の25%以上がRTBを経由して配信され、市場規模は1,000億円を突破すると予測しています。IDC をアグレッシブ読み、シード・プランニングをコンサバティブ読みだとすると、その中間に位置する感じですね。

 

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マイクロアド、RTB(Real Time Bidding)経由のディスプレイ広告市場規模予測を発表 2016年のRTB取引比率はディスプレイ広告の25.7%、市場規模は1000億円突破

http://www.microad.jp/press/20120808/

 

 

RTBの抱える課題

RTB の継続的な成長が見込まれている背景には、今後もデマンドサイドのプレイヤーが増え、メディアの持つディスプレイ広告在庫のRTB拠出率の増加や、モバイルの利用拡大による広告在庫の上積みへの期待があるからだと考えられます。実際にRTB に関係するベンチャー企業の成長率も華々しく、RTB市場の未来は約束されているように思われます。

一方で、RTB の成長には多くの課題があることもまた確かです。

2012年8月にリリースされたRTB Buyer's Guide (RTB のバイヤーズガイド)を作成したEconsultancy のMonica Savut は、AdExchanger のインタビューに対し、RTB の環境や成長性に言及した上で、RTB の抱える課題について以下のように応えています。

 

Report: RTB Space Gains Steam, Hurdles Remain for Brands

http://www.adexchanger.com/research/report-rtb-space-gains-steam-hurdles-remain-for-brands/

"Where do you observe the biggest pain points are for marketers in the RTB ecosystem?

One of the most significant challenges for marketers is the lack of measurement consistency. There’s been a lot of talk about channel integration in the RTB space, but marketers still have to face a lot of technological and workflow challenges. Fortunately, industry insiders openly acknowledge that online advertising lacks solid, intelligent attribution models so the market is at least moving past the “turning a blind eye” stage. Agreeing on a consistent RTB “language,” defining standard RTB APIs and establishing a common set of metrics to evaluate success will become critical to vendors’ efforts to bring more marketers on board."

"RTBのエコシステムについて、マーケターにとって一番の頭痛のタネはどこにあると見ていますか?

最も大きなチャレンジの一つに、計測の一貫性の欠如が挙げられます。チャネルの統合についてはRTB界隈でよく話題に上がりますが、マーケターは技術面・ワークフロー面でまだまだ多くの問題に直面しています。幸いなことに、業界では "オンライン広告には信頼できるまともな貢献度分析が欠けている" ということが共通理解になっており、少なくとも市場は "見て見ぬふりをする" フェーズは超えたといえると思います。RTBの "用語" の共通理解を進め、RTBのAPIを定義し、そして、キャンペーンを評価するために業界で標準的に使える指標を確立することは、RTBをマーケターに浸透させるために各ベンダーがやらなければならないもっとも重要な作業になるでしょう。"

 

"What about for publishers?

As was the case last year, much ink has been spilled on publishers’ concerns around sales channel conflict, price deterioration and brand erosion. They’re certainly ongoing concerns on the publisher side, but the industry has moved a long way in the last 12 months. Vendors have been making strides at educating the market, so publishers are releasing more inventory (in some cases even premium placements) to supplement the efforts of their direct sellers.

It’s certainly not only bad news, especially when it comes to private marketplaces. Making deals via private marketplaces is sometimes seen as a more conservative way of getting started with programmatic buying. They are increasingly used among publishers with high sell-through rates, as they’re looking to restrict inventory access and get the maximum price on every available impression."

"媒体側に関してはどうですか?

社内の販売チャネルの対立、販売価格の悪化、ブランドの毀損などが昨年(2011年)から頻繁に取り上げられてきました。 このような問題は媒体側にとっては現在進行形の懸念材料ではありますが、業界自体は過去1年間で大きく動きました。各ベンダーが市場への教育を繰り返し重ねてきたおかげで、媒体社は直販を補うためにより多くの広告在庫を(時にはプレミアム在庫も)リリースしています。

これは、特にプライベートマーケットプレース(プライベートエクスチェンジ)に関して良い兆候といえるでしょう。プライベートエクスチェンジは、コンサバティブにRTB取引(プログラマティック・バイイング)を始める方法だと一般には考えられています。広告在庫へのアクセスを制限し、拠出したインプレッションで価格を最大化できるとの考えから、良質の媒体で徐々に採用が増えています。"

 

RTB は需要と供給のリアルタイムなマッチングであるため、需給バランスが取れていなかったり、競争のルールや指標が整備されていないとオークションが健康的に機能しないため、受給それぞれのサイドから平仄を合わせながら進めていく必要があるということですね。Quality Assurance Guidelines OpenRTB などの業界標準を策定する議論も、マーケットの健全な発展のために重要な要素です。

 

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※画像はRTB Buyer's Guide より

 

 

Programmatic Guaranteed!

今まで以上に企業のオンラインの広告費がRTB に割り当てられるようにするためには、上記のような課題の解決のほかに、何が必要なのでしょうか。

上掲のインタビューでもあるように、媒体サイドでは「社内での販売チャネルの競合」や「インプレッションのダンピング」、「ブランド価値の毀損」が頻繁に問題視されています。このような議論を背景にして、「Programmatic Premium」や「Programmatic Guaranteed」という考え方が2012年頃から出てくるようになりました。

「Programmatic Premium」の最も包括的な定義は、QuadrantOne のCEO マリオ・ディエス(Mario Diez)氏のものだと言われています。

 

"Programmatic premium channels are new automated access points to publisher inventory where the pub is getting paid more because the advertiser is getting more value – viewability, preferential treatment or 'premium placement."

"Programmatic Premium は、(viewability・優先待遇・プレミアム枠などで)広告主に多くの価値を提供でき、媒体も多くの利益が得られる広告在庫への自動化されたアクセスポイントである。"

 

これまでも「プライベートエクスチェンジ」という同様の考え方で多くの議論がなされていましたが、Viewable Impression(参考)などの定義や仕組みが現れるようになってきたことで、プレミアム在庫のダンピングの回避と受給双方のブランド価値の保護への現実的な解として、Programmatic Premium という考え方が台頭してきたようです。

 

<参考>

The Next Big Trend in Digital Marketing: Programmatic Premium | ClickZ

http://www.clickz.com/clickz/column/2182900/trend-digital-marketing-programmatic-premium

 Programmatic Premium: Definition | AdMonsters

http://www.admonsters.com/blog/programmatic-premium-beyond-rtb

 Programmatic Guaranteed, Private Exchanges, Future of Premium | AdMonsters

http://www.admonsters.com/blog/programmatic-premium-promised-land

 

デジタル広告の主役になるために

RTB市場が IDC が予想するような上昇カーブを描くためにはどうすればいいのか?という視点で、Advertising Age にコラムがあります。この記事では、サブタイトルとして "Programmatic Guaranteed' Will Mean RTB Gets Upfront Ad Budgets:(Programmatic Guaranteed によってRTB が広告予算においての主役になる)"と記載してあり、Programmatic Guaranteed に期待を寄せているようです。一部抄訳します。

 

How the Real-Time Ad Market Grows From $2 Billion to $9 Billion

http://adage.com/article/digitalnext/real-time-ad-market-grows-2-billion-9-billion/238958/

"In the rest of the ad business, when you allocate your media budget, you expect this budget to be spent. This has not been the case with real-time bidding -- the fastest growing segment of digital media. Until now."

"RTB以外の広告ビジネスでは、広告の掲載費を配分する際には、当然その配分された広告費は使われるものだと考えます。しかし、デジタルの世界で最も成長しているRTB という分野では、そうではありませんでした。今までは。"

 

"Real-time trading (or real-time bidding, or RTB) has always been about the "spot" market -- the non-guaranteed. It's the inventory the sellers can't sell. Chief revenue officers at top comScore publishers and media heads at leading agencies are amused, and often confused, by the spot market's complexity. They know that the real money is in guaranteed budgets." 

"RTBは常々、保証がされないスポット市場でした。売り手が売れない在庫です。comScore にリストされるトップメディアのCレベル(特に最高売上責任者:CRO)や大手広告代理店のメディア担当者は、次のセールスドライバーとしてRTB を歓迎しながらも、このスポット市場特有の複雑さに困惑しているようにも見えます。彼らにとっては、獲得した予算=実際に使われる金額 だからです。

 

"Programmatic guaranteed (also known as "futures" or "programmatic premium") combines real-time trading and automation with guaranteed, 100% book-to-run budget capability. It's the ad-tech world and the "real" world, together at last." 

"Programmatic guaranteed (もしくは"programmatic premium") は、リアルタイム取引と、予算内での掲載保証つきの自動化を同時に実現するものです。アドテクワールドと"リアル"(これまでの広告ビジネス) の融合です。"

 

リスティング広告など運用型広告全般に言えることですが、RTB は掲載保証型広告ではないため、予算を配分したとしても、かならず予算どおりに広告が掲載され、予算どおりに費用がかかるとは限りません。オークションモデルやクリック課金などの成果報酬モデルは、キャンペーンの設計や入札などの運用、競合環境や目標設定などによって実際の広告費は大幅に変動するため、従来のメディアプランニングの流れからすると、RTB を媒体費の主役に据えるのには抵抗があるかもしれません。

また、予算配分したメディアプランを実現させるためには精緻な運用が必須となり、専門人材の採用や教育、トレーディングデスク設置などの追加費用が代理店側に必要になってくるため、オペレーションコスト削減(=利益率の維持)のためにどうしてもRTB以外の広告をメディアプランの中心に据える力学が働きます。

そこで、「掲載のための自動入札」「予算に応じた掲載保証」を行う Programmatic guaranteed (Programmatic premium) が、広告代理店や広告主のなどの経営面の事情もカバーする手法として期待が高まっている、ということが言えるのかもしれません。ステークホルダーの不安を取り除いていくことで、広告予算のスライドを活性化させることができるという目論見のようです。

もちろん、Guaranteed(保証) がもともと示すところは、「掲載面の品質」や「ブランドセーフティ」であることは言うまでもありません。プライベートエクスチェンジや Viewable Impression の是非の中でも議論されているように、RTB でブランドにとって望ましい在庫を取り扱えるかどうかは、RTB がオンライン広告費の中でどのような位置を占めるかを決める大きな要素であると思います。

イギリスはすでにオンラインの広告費がテレビを上回っている国ですが、オンラインのブランド向けの広告費は、全体の13.5%に過ぎないと言われており、AdMonsters の以下の記事でも、RTB の在庫について触れられています。ブランドセーフティとパフォーマンスのそれぞれ違ったニーズ(でもクロスオーバーしているニーズ)に対応できるようにメニューを今以上に整備していくことが、今後の発展の鍵になりそうですね。

 

Roll Out the Red Carpet: Premium's Entrance Into Programmatic | AdMonsters

http://www.admonsters.com/blog/roll-out-red-carpet-premiums-entrance-programmatic

While digital advertising now gets the majority of media spend in the UK when taken as a single channel (30% vs 26% for TV), when you examine brand budgets, the IAB estimates that just 13.5% of digital advertising is brand-based rather than direct response. The growth therefore has largely been in the performance sectors. Brands like the idea of automated buying, but they also want the right type of inventory and the right measurement model that will allow them to run both brand and performance campaigns via RTB.

イギリスではデジタル広告はすでに広告掲載費の中で最も重要な位置を占めるようになった(デジタル:30% テレビ:26%)が、ブランド予算を調べてみると、IABの発表にもあるようにデジタル広告のブランド予算は13.5%に過ぎない。デジタル広告の成長はほとんどパフォーマンス型広告の伸長によるものだ。ブランドはRTB のような自動的な売買は好ましいと考えているが、それと同時に、適切な広告在庫と、RTBを通じてブランドとパフォーマンスの両方を評価する適切なモデルも欲しているのだ。

 

「どこに頼むか」から、「誰に頼むか」へ

成長とともに多くの課題も併せ呑むRTB ですが、洋の東西を問わず近年声高に叫ばれているように、エコシステムの中でPDCAのサイクルを担う運用スキルや分析スキルを持つ人材の採用や育成が業界全体の最も重要な課題となっていくでしょう。

運用型広告の中心であるリスティング広告では以前から運用者/分析者のスキルによってキャンペーンの結果が大幅に変わるということが広く認知されています。ディスプレイ広告の運用に関しても同様の流れになっていくと考えられますし、検索やディスプレイを分けて運用していくのではなく、統合的に管理していくことが今後ますます求められてくるでしょう。以前と比べてますます必要となる知識・経験が多岐に渡ってくるため、優秀な運用経験者が重用される傾向はしばらく続いていくものと思われます。

2013年のRTB はどの予測を見ても大幅に伸びる年とされています。RTB の成長は、業界人間ベムさんの予測にもあるとおり、"「どこに頼むか」から「誰に頼むか」" をより明確にさせるのかもしれません。

 

※  この記事はAdmarketech.(アドマーケテック)の原稿「RTBがデジタル広告の主役になるためには何が必要なのか?」を転載しています。

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。